葛藤

「……二度とやらねえ」

「予想以上の強さだったな。いやはや、我が事ながら恐ろしい才能だぜ」


 小一時間ほど戦ったのだが高橋は疲労困憊と言った様子で床に座り込んでいる。

 正直、高橋クラスの相手にババアズレギオンがここまで食いつくとは思ってもみなかった。


「サンキュな。良~データが取れたわ」


 感謝しつつ高橋を回復させる。

 とは言えこれで回復するのは傷や身体的な疲労のみで精神的疲労は別物だけどな。


「お前さぁ……今回のこれといい前の敵を性転換させてエロコスを強制するクソコンボといい頭おかしいんじゃねえの?」

「死神連中にやったアレはお前もノリノリだったじゃん」

「あの時はあたしもテンション上がってたからアレだけど……冷静に考えるとやべえだろ」

「命あっての物種って言うだろ?」

「言うけど一生、あんな姿で生きてけとか生き恥とかそういうレベルじゃねえぞ」

「脱げないだけでコートや外套とかは羽織れるようにしてやったし~?」


 より変態性が増す? 一理ありますね。

 まあ実際、よりエロいって意味でそうしたからね。

 好きなんだよ。分厚いコートの下が実は……みたいなシチュが。


「……それも時間経過で弾け飛ぶんだろ?」

「うん」

「しかも弾け飛ぶ時間はランダム。一時間後かもしれないし三分後かもしれない」

「そうですね」

「悪意しか感じねえわ」


 悪意じゃない。性癖だ。それを押し付けるのは悪意じゃないのかって?

 まあまあそこはね。ペナルティってゆーか? 喧嘩売って来たアイツらが悪い。


「あと思ったんだけどさ。今回の技の実験台、あたしである必要あったか?」

「あるだろ」

「いや分かる。ある程度の実力者じゃねえとってのはよ」


 その通りだ。

 言っちゃ何だが雑魚じゃ瞬殺されて実験にもなりゃしない。

 女性で、尚且つババアズレギオンと戦えるレベルをとなるとかなり難しい。

 裏にも女の実力者は居るには居るが実験台になってもらうとなれば依頼出したりしなきゃで面倒だもん。

 その点、高橋はすげえよ。二十年近く戦いから離れてるけど実力はまだ上位層だもん。


「だからさ。西園寺でも良かっただろって言ってんの。

あっちは復帰して完全とはいかずともそれなりに実力取り戻してんだろ? 西園寺で良いじゃん」


 はぁ……分かってねえなぁコイツ。


「千佳さんにこんなことさせられるわけねーだろ。馬鹿かテメェは」

「あ゛? じゃ、あたしなら良いってのかよ」


 え、めっちゃキレるじゃん。

 俺は即座にゴマ擦りクソ野郎モードにチェンジした。


「悪い悪い。つい甘えちまった。でもさ、こんな気兼ねなく甘えられるのはお前だけなんだよ~」


 肩を組み、必死に友情をアピールする。


「あ、あたしだけ……」


 顔が赤い。照れてるな。コイツはそういうあざといとこあったんだよ。

 バレンタインとか興味ねえしみてえなツラしてるくせにあざとポイントで女子の好感度稼いで当日貰っちゃうんだ。


「……それならまあ、しょうがねえか」

「そうそうしょうがねえ! よし、休憩はもう良いよな? 飲み行こうぜ!」

「ったく調子の良い……昔っからテメェはそうだ」

「へへへ、そう言うなって。で、どこ行く? 奢りだからって気ぃ遣う必要ねえぞ」

「こんなことさせられたんだから気を遣う理由はねえよ……でもそうだな、店って気分じゃねえ」

「じゃあ別の日にするか?」

「いやお前ん家で飲もうぜ」


 そういうことになった。

 高橋と俺は転移で家の近所まで飛びコンビニで酒とつまみをしこたま買い込んみマンションへと向かった。


「へ~存外、片付いてるじゃねえか。昔のお前の部屋とか結構ゴチャついてたのによ」

「俺も大人になったのよ。ま、テキトーに座れや」

「ああ」


 テーブルの上に酒とつまみを広げる。

 ちょっと……いやかなり買い過ぎた感あるけど……まあまあ、ご愛敬ってことで一つ。


「「乾杯」」


 缶を軽くぶつけ合って乾杯。

 麦のしゅわっしゅわを一気に呷る。半分ぐらいまで飲み干したところで口を離す。


「っはぁ……やっぱ夏はこれだよな。ワインだけじゃなくビールも神の血にカウントしても良いんじゃね?」

「それな」

「ってか高橋。お前、速攻でだらけ始めたな」


 我が家かっつー寛ぎぶりじゃねえか。


「すっげえ落ち着くんだもん」

「ふ~ん? ありがとう?」

「何で礼」

「いや俺もわからん」


 ゲラゲラと笑い合う。

 ……良いな、このくだらないノリ。昔に戻った気分だ。

 でも昔とは違う点もある。酒だ。大人になった高橋と酒を酌み交わせるってのは……っぱ嬉しいわ。


「ところでさ高橋、お前料理ってしてる? あ、偶に手の込んだを作るとかじゃなくて……」

「日常的にってことか? そりゃまあ、してるよ。一人暮らしなんだから自炊ぐらいはするわ」

「マジか……」


 女になったってのを差し引いても意外だわ。


「お前はしてねえの?」

「してねえなぁ……たまーに何か作るつっても簡単なのしかやらん」


 切る、焼く、これぐらいだわな。


「外食で好きなもんばっか食ってるからそんな腹になったんじゃねえの?」

「やめろよ、否定出来ないだろ」

「でも何でまた急に料理の話を?」

「ああ、実はうちのシャッチョが料理にハマってるらしくてよ~めっちゃマウント取ってくるんだわ」

「何やってんだ社長。いやお前もだけど。気安過ぎるだろ」

「シャッチョとは波長が合うんだよ」


 社長がツー! と叫べば俺がカーッ! ってシャウトするぐらい息が合う。

 面接でもクッソ個人的な話で盛り上がったっけな。

 社長のお気に入りだとか陰口叩かれてた時代もあったが全部実力で黙らせてやったぜ。


「でもそうか……高橋でも自炊してるんだなぁ」

「あたしでもって何だよ。失礼だろ。これでも弁当とか職場で評判良いんだからな」

「マジか。俺も料理始めよっかなー」

「良いんじゃねえの? そしたら健康的な食生活になるかもだ」

「だよな。なあ、女の目から見てお料理教室に通う男ってどう?」

「別に何も悪くねえだろ。今じゃ男も家事する時代だし」

「ホント? だっせえエプロンつけてるとか笑われない?」

「笑わねーよ。妙なとこでビビりだなテメェはよ~」


 今回のサシ飲みはこれでもかと盛り上がり気付けば深夜。

 高橋はすっかり酔い潰れテーブルの上によだれを垂らして爆睡していた。


(男ならそのまま寝かせといても良いんだが……)


 色々事情があるとはいえ女なんだしこのままはマズイわな。

 俺は小さく溜息を吐き、高橋を抱きかかえて寝室に運んだ。

 起こさないようそっとベッドに寝かせると、ぷるんと乳が揺れた。


(…………一回ぐらい揉んでも良いんじゃねえか?)


 三十分ほど葛藤する俺なのであった。結局、乳は揉みませんでした。

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