我々は大勢であるが故に
高橋との再会。当然、千佳さんにもそれは伝えた。
俺とアイツが和解出来たことを我が事のように喜んでくれたよ。
千佳さんも気にかかってたみたいだし一席設けようか? そう提案したのだが……。
『いやそれはちょっと……まだ心の準備が』
高橋は過去のことは水に流した――……とは違うか。
過去の諸々に折り合いをつけて今を生きるようになったのが正しいかな?
未来に向かって前向きに生きているのだから問題はないと思うのだが千佳さんは違った。
『……昔の自分がぁ、間違ってたとは言わないよ?』
『うん』
『でもそれはそれとして今思うとさ。あの頃の私、高橋くんのことも鈴木くんのこともボロクソに罵ってたじゃん』
『そうね』
だがそれは千佳さんだけじゃない。高橋と鈴木もおんなじだ。
現状維持を選んだ千佳さん流されるがままそれに付き合った俺も、それはもうボロカスに罵倒されたもんだ。
千佳さんへの罵倒も酷かったが一番、ひでえ罵倒叩き付けられてたのは俺なんだよね。
しかも何が酷いって言い返せない、仰る通りですとしか言えないとこが酷い。
『いや相手も言ったからじゃあチャラな! はちょっと私の性格的に無理かなぁって』
気にしい、ってより千佳さんのが一般的な感覚と近いんだろうな。
俺がそこら辺を気にしないのは生来の性格もあるが、アイツらとの距離感が原因だと思う。
ひとりっこだから合ってるかは分からんが感覚的には年の近い兄弟みたいなところがある。
だから一番でっけえ問題が解消された今、遠慮が完全になくなってるのだ。
『だからごめん。気遣いだけ受け取っておくよ』
心の整理がついたらその時はお願い、とのことだ。
(……何時か四人で酒が飲める日が来れば良いな)
まあ鈴木の所在は不明なんだが。
いや互助会に聞けば分かると思うよ? やべえ思想から脱却したつっても要注意人物だしな。
定期的に所在ぐらいは確認していると思う。だから聞けば教えてくれるとは思うが……。
(それは、ちょっと違うよな)
また会えるのなら、それは高橋と同じように偶然に導かれての方が良い。
ロマンチストを気取る気はないけど……高橋とも偶然だったから、あそこまで一気に話が進んだ部分もあると思うし。
「――――よし、練れた」
俺は今、互助会の訓練施設で座禅を組んでいた。
精神修養とかそういうあれではない。それなら別のこと考えてんなよって話だしな。
座禅を組んでいたのは単に力を溜めてただけだ。
「……他人の負念を形にするのは中々に難しいな」
何で力をチャージしてるかってーと新たな技を開発するためだ。
あの小旅行でハデスの部下と戦った際、俺は幾つか即興で技を作り上げた。
それでまあ、火が点いちゃったのだ。新技開発してえ欲に。
一過性のもんで何もしなければ忘れてしまうんだろうが折角だもんな。
一過性のものであろうと今、楽しめるなら乗るべきだろう。
「クッソ……早く使いてえぜ」
成功するかどうかは分からんが準備は整った。後は発動してみるだけ。
しかし、この技は物言わぬ的に当てる類の技ではない。
対人――より正確に言うなら対女性に特化した技なのだ。
それで高橋に実験台をお願いし仕事終わった後で良いならと快諾してもらったんだが……。
「気が急いて早く来過ぎたな」
今日は早く上がれたから訓練場に直行したが軽く飲んでからでも良かったかもしれん。
実験に付き合う代価に一杯奢れって言われて終わったら飲みに行く予定だしな。
少しアルコール入れといた方がトークのキレも……お、来たか。
「悪い、待たせたな」
「そうでもねえさ。忙しいだろうにありがとよ」
「別に構わねーよ。っかし……互助会も随分と様変わりしたな」
ああ、まあ高橋からすればそうだろうさ。
当時の上層部粛清とかも高橋が互助会を出てった後だからな。
俺に敗れて一時期拘束されてはいたが変わり始めた互助会の空気を感じるような暇もなかっただろうし。
「そういやパイセン、まだ居たんだな。ロビーで見かけたよ」
「ああ。あの人は何だかんだずっと居るよ。ちょっと前に子供も生まれたらしいぜ」
「マジか。……時計の針、進みまくってるじゃん」
「そりゃな。ところで準備は良いか?」
「おう」
そりゃ重畳。
「んでどんな技を開発したんだよ? 呪術ってのは聞いてるが……」
魔術、陰陽術、道術、仙術……色々使えはするが中でも俺は呪術が得意だ。
というのも術と呼ばれる類のものは大体一つの学問として成立するぐらい難解で理屈っぽいんだが呪術は違う。
呪術。読んで字の如く呪う
ようは他よりも感覚的にやれるってわけだ。分かり易く説明するなら理系と文系みたいなもんよ。
そんな呪術が得意な俺が何を開発したかと言うと……ふふふ。
「百聞は一見に如かず……見よ、これが俺の新技ァ!!」
両手を合わせチャージしていた呪詛を解き放つ。
黒い粘液のような呪詛が地面にぶち撒けられ油の如くに広がっていく。
そして、
「…………ババア?」
黒い海の中から無数の老婆が姿を現す。その数、何と三百。
増やそうと思えばまだまだ増やせるがとりあえずは試運転ってことで。
「――――名付けて
「お前は一体何を言ってるんだ?」
「フッ……高校のダチから嫁姑問題で悩んでるってちょくちょく相談を受けててな」
いびりの内容が酷いの何のって。
息子可愛さか知らんがそれが良い歳したババアのやることかよって呆れたわ。
何とか助言しようと色々調べてみたんだが嫁いびりしてる姑はそこそこ居るようだ。
その内容もガキの悪戯みたいなんから犯罪だろってレベルまで様々。
とりあえず相談そのものには色々考えた上で嫁と母親、どっちの優先順位が上かハッキリしろと言っておいた。
あそこまで拗れたならもう、どっちかを切り捨てる以外に道はねえと思ったのだ。
結果、嫁さん連れて他所へ行くことにしたらしい。
「その連絡を受けたのが新技の中身を考えてる時でさ」
はい、そこで思いつきました。
「――――姑の攻撃性を利用出来やしねえか? ってな」
「お前は一体何を言ってるんだ?」
俺はあちこち歩き回って嫁いびりしてそうなババアの負の念を蒐集した。
そしてそこに俺自身の呪詛を混ぜ込んだ結果、生まれたのがこのババアズレギオン。
相手が女の場合、対象を嫁と認定して凄まじい攻撃性を発揮してくれる。
「おっと、言いたいことは分かる。一々ババアから負の念を蒐集しなきゃ使えねえのは面倒じゃないかってんだろ?」
「いやそれ以前の問題だよ」
「だが問題はない」
「聞けや」
蒐集したのは嫁いびりをするババアの負の感情を知るためだ。
理解するには十分な量が集まったので次からは俺の呪詛で再現出来る。
「さあ、心の準備は良いな?」
「クソが! イカレてやがる! コイツ、一体どんな思考回路してやがんだ!?」
「行くぜ! GO! ババアGO! GOGOババア!!」
無数のババアが奇声を上げ、高橋に襲い掛かった。
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