君と再度の悪い春
「「ぜぇー……はぁー……」」
ちょっと……笑い過ぎた……。
息を荒げる俺たち。奴らはそれでも仕掛けて来ない。
それが俺の言を裏付ける何よりもの証拠だろう。こんだけコケにされて怒っているのに理性が邪魔をしてしまう。
襲い掛かるよりも先に考えなきゃいけないことがあるからだ。
「ふぅー……何考えてるか当ててやろうか? 俺がどこまで勘付いてるか気になってんだろ?」
敵討ちはブラフ。
看破されてしまったら真面目な連中は二の足を踏むよな。
コイツ、どこまで読んでるんだ? ってさ。それが分からないから次善の行動を選びかねている。
真面目なんは良いことだが、こういう状況では足を引っ張っちまったなぁ
「大体分かってるよ。お前ら、捨て石なんだろ?」
「――――ッ」
息を呑む気配があちこちから。正直者め。
「つっても誰かに言われてとかじゃない。自分の意思で捨て石になったんだ」
コイツらの様子を見るにペルセポネの来日は知らなかったんだろうな。
目的の準備で忙しくて下調べが満足に出来なかったか。
あるいはペルセポネが俺に深い部分まで助言をするとは思っていなかったか……まあどっちでも良い。
「ペルセポネがちょっと前に俺ッとこ来たんだわ。んでその時に言ってたのよハデスの権能が自分に来てないってな」
冥府の運営に支障は出ていないが、ハデスの性格上考えられない。
ならば力と大義を継承している誰かが居ると考えるのが自然だろうと。
「その誰かはハデスがくたばってから権能を継いだんだから未熟も未熟」
今直ぐにどうこうは出来ないだろう。
だがその意思を受け継いだのならいずれ必ず俺とぶつかることになる。
「その時のためにほんの一端であろうと俺の力を引き出してやろうって魂胆なんだろ?」
後継者のための捨て石になることをコイツらは選んだのだ。
いや、より正確に言うならその忠義の向かう先はハデスだな。
そこまで忠義を向けてるハデスを裏切るような行動をすれば不自然に見えて当たり前だろう。
「ここに陣取ったのは子供のためなら俺が必要以上に力を使う可能性もあるから」
自力で成果を得られそうにない時は子供らを巻き込むような攻撃をするんだろうな。舐めやがって。
「……そこまで分かっているなら無駄な芝居はや――――」
「でも、ざ~んねん♪ お前らの目論見通りに進ませるわけねーだろ」
「ほう、では子供らを連れて逃げるか? だが一時逃げても我らは……」
「勘違いしてんじゃねーよバーカ」
目的が目的だからな戦力の逐次投入はよろしくない。
いざって時に子供らを巻き込む役を別に用意するのもだ。
そんな位置に隠れてれば俺に勘付かれるし、そうなれば無駄に戦力を減らすだけ。
だからここに居るのが連中が今使える全戦力だ。
「あら? あらら? な~んかおかしくねえか?」
「何を……!?」
ボロボロと夜空が剥がれていく。
そしてどうだ? 瞬く間に周囲の光景が陽光注ぎ花々咲き誇る桃源郷の如きそれに変わったではないか。
「おぉぅ……こりゃまた良いロケーションじゃん。花見にピッタリ」
「だるるぉ?」
「……空間ごと、隔離したのか我らに微塵も悟らせず。だが……!!」
「それだけの力があることは判明したってか? 馬鹿だねえ」
偽装を解除し俺の両サイドに浮いてるそれを見せ付けてやる。
「それは、香炉……か? それに壺……?」
「マジックアイテムさ。一時期、ボコった奴から身ぐるみ剥ぐのにハマっててなぁ」
認識を誤魔化したのは香炉の力。
この空間を形成しているのは壺の力。
俺自身の特筆すべきような力はなーんも使っちゃいない。
「ああでも、俺に手札の一つを切らせたとは言えるかな?」
「よく言うぜ。お前にとっちゃ変わった玩具程度のもんなんじゃねえの~?」
「分かる~?」
「分かっちゃう~」
「「キャハハハハハハハ!!!」」
俺も女子になってくねくね笑ってやる。
実際のとこ、昔の俺ならいざ知らず今の俺はマジな戦いでこの手のマジックアイテムの類は使わないだろう。
汎用的な回復アイテム、ゲームで言うポーションとか傷薬みたいなんはともかくマジックアイテムは趣味の品だもん。
日の目を見るとすれば今回みたいに相手を馬鹿にする時ぐらいだわ。
「どうする? 無理をして更に戦力を吐き出させて子供らの確保にでも動くか?」
「どうせ無駄なんだろ?」
「まあな」
壺中天に入る前にコッソリ分身出しといたからな。
遠隔で監視してる奴らが居たとしても気付かないだろう。
「お、おのれぇ……!!」
「ケケケ、時と場所を誤ったな」
さて、それじゃあじっくり素手でシバキ回す……の前にだ。
コイツらがムカつくのは確かだが良い機会でもある。
他にも使ってなかった珍品を使わせてもらおうか。
「ヘイパス!」
「あん? 何だこれ飴ちゃん?」
「若返りの丸薬だ。効果は三時間ぐらいだったか? 折角良い気分なんだ。テンションだけじゃなく身体も十代にしようぜ」
「天才かよ」
二人揃って丸薬を飲み込む。
するとみるみる内に身体が十代のそれに若返っていく。
高橋もエロいお姉さん系ギャルからピッチピッチギャルにジョブチェンジだ。
でも、まだ物足りな……ああ、良い技があったわ。
「うぉ!? 佐藤、お前何かいきなりパッキンになってんぞ!?」
「染髪魔術ってやつだ。ちょっと前に変態どもが使ってたのを思い出してな」
時間制限つきなことからも分かるように丸薬は不完全な代物だ。
若返りつってもまんま十七の頃の俺に戻るわけではない。
だから髪色は黒のまま。あの頃のようにオートで金髪にはならないのだ。
「んでこれだ!!」
異空間にある俺の青春の思い出スペースから幾つかピアスを取り出す。
そしてそれを力づくで装着!
「うっわ……ピアスで無理矢理穴開けるとか……」
「どうせ後で治すんだから問題ねーよ」
あー……良い。良いぞぅ。かつてのスタイルになったからか気持ちもますます若返ってきた。
今、俺完全にティーンだ。ティーンエイジャーだよ。
「こうして並んでっとよ~俺ら頭の悪そうなカップルみてえだな~」
「カッ……!? ば、馬鹿! 変なこと言うんじゃねえよ!!」
「悪い悪い。っと、あちらさんも腹を決めたらしい」
「おうおう、メラメラ敵意を感じるぜ。上等じゃん」
指の骨を鳴らす俺と高橋。
「「行くぞオラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」
「ッ……全霊をふり絞れ! 僅かでも佐藤英雄の力を引き出すのだ!!」
DQNな夜が始まった。
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