滑稽な夜に
腹いっぱい肉を食らったバーベキューの後はちゃちゃっと汗を流し怪談話で盛り上がった。
明日は最終日。早朝からめいっぱい遊ぶぞってことで昨日より早めに就寝した。
俺も今の今までグースカ寝てたんだが……。
(ったく、水を差してくれるぜ)
不穏な気配で目を目を覚ました。
時計を見れば草木も眠る何とやら。幸いにして光くんや梨華ちゃんは気付いていな……いや違うな。
この気配の主たちはピンポイントで俺を誘ってるのか。
子供らに無用な心配をかけないとこは評価してやっても良いが、それでも総合的にゃマイナスだ。
気ぃ遣うんならそもそも旅行中に仕掛けて来るなって話よ。
(やれやれ)
光くんを起こさないようテントの外に出て、周辺にこれまで以上に堅固な結界を張り巡らせる。
一神話の主神級でもなきゃ破れない強度だ。これで問題はなかろう。
仮に主神級が出張って来てもそんな存在が動けば感知出来るので何かするよりも早く動ける。
「……上か」
今、俺たちが居るのは麓に近い場所で気配を感じるのは頂上から少しばかり東に離れた上空だ。
セコい意図が見え隠れしてるな。
呼び出しの方法と陣取った場所で無関係な子供らを巻き込まないと意思表示して俺の怒りを買わないようにしている。
多分、直ぐに俺をキレさせればご破算だからだ。が、いざって時は子供らを巻き込めるよう距離はそこまで離していない。
煙草を取り出し、火を点ける。
「ふぅー……行くべ」
地を蹴り上空へ舞い上がったところで、
「あたしも混ぜてくれよ」
「高橋……お前、何で……」
高橋が空を駆けて俺の前に現れた。
目をぱちくりさせる俺に高橋は言う。
「何でも何もねえだろ。お前らが居る山の近くからあんな気配したんだ。ほっとけるか」
明日……いや日付はとうに変わってるし今日か。今日の早朝に東京に帰るって行ってたのによ。
一線から離れたとは言え今の俺の力が分からんわけでもないだろうに。
「……俺の喧嘩だぜ?」
「お前の喧嘩はあたしの喧嘩だ。昔、言ったろ? ま、一度裏切ったあたしにそれを言う資格はねえって言われたらそこまでだがよ」
「ハッ。それ言うなら俺もだよ」
「なら問題ねえってわけだ」
「夜更かしって美容の大敵が居るから何の問題もないわけじゃねーがな」
「バッカ。あたしみたいなイイ女がそれぐらいで翳るこたぁねえんだよ」
「言うねえ……じゃ、行くか」
「おう」
足取り軽く、俺たちは現場へと駆け出した。
「出て来いよ」
俺がそう促すと闇から削りだされるように無数の襤褸を纏ったナニカが現れた。
ナニカっつーかアレだな、死神。ハデスみたいに最上級のそれではないが。
空を埋め尽くすほどの量だが一番強いのでもハデスの足元にも及ばん程度だ。
まあそれでも格付けするなら上級ぐらいになるんだろうが。
「コイツらは?」
「ちっと前に俺が殺ったハデスの部下だろうぜ」
「ハデス……冥府の王か? 殺ったってお前……」
「言葉通りさ。完全にブチ殺してやったよ」
「ッ変わらず出鱈目だなぁオイ……しかしそういうことなら親分の敵討ちってわけかよ」
せせら笑う高橋にリーダー格らしき死神が口を開く。
「――――その通りだ、招かれざる客人よ」
……しかしハデスもそうだが死神連中ってのはどうしてこう、妙にしわがれた声なんだろうな。
「ハデス様が討たれた……それも貴様が如き愚かな人間の手で。
だのにゼウス様も、ペルセポネ様までも貴様には手出し無用だなどとふざけたことを仰る。
認められるものか。神をも恐れぬその傲慢、見過ごすわけにはいくまい」
その言葉を聞いて、
「ぷっ」
堪え切れず噴き出してしまった。
「ぶわははははははははははははははははは!!!」
ああ、本当……ついてねえ。ついてねえよお前ら。
俺一人なら? まあ淡々とやってたんだろうけどよォ。高橋が隣に居ッからなぁ。
気分的にはギンギンギラギライケイケGOGOな十代のそれなんだよ。
鈴木が居りゃ俺を窘めてくれたかもしれんが残念ながら鈴木は居ない。いやホントついてねえ。今夜の俺は性格が悪いぜ~?
子供らとの楽しい旅行の邪魔もされたからな~? 手心加える理由がなくなっちまったぜ!!
「何を嗤うッッ!?」
「嗤わずには居られるかよ。ぺらっぺらの嘘吐きやがってからに」
「嘘!? 何を言っている!!」
あー、良いよ良いよそういう白々しい芝居は。萎えるから。
「嘘? どういうこったよ」
「まあ、敵討ちって気持ちが皆無ってことはないんだろうがよ」
コイツらがハデスを敬愛しているのは事実なのだろう。
そして仇が討てれば嬉しいってのも間違ってはいない。
「が、コイツらはハデスの部下だ。“あのハデス”の部下なんだぜ~?」
「あ~? どういうこったよ~?」
おぉぅ、高橋も良い感じに柄が悪くなってきたな。
これは楽しい夜になりそうだぜ!
「お前は知らんだろうがハデスってのはすっげえ生真面目な奴でよ~」
自分の分の仕事終わっても部下がもたついてたら貸せ! って仕事を引き受けちゃいそうだよなアイツ。
几帳面で融通も利かない頭でっかちで激し易くはあるが……決して、馬鹿じゃない。
「いや正確に言うなら馬鹿にはなれない、か?」
「馬鹿になれない~?」
「俺やお前はよ~心底気に入らねえってなったら勝算なんざ度外視で殴り掛かんだろ?」
「まあな」
「でもハデスにゃそれが出来ない」
ハデスは幾度も俺に敗れた。しかしそれは決して無駄な戦いではない。少なくともアイツから見ればな。
死神ゆえ真に死ぬことはないから何度もコンティニュー出来るから負けても負けじゃない。
アクションゲームの攻略と同じだ。死んで覚えるってアレよ。
そして最後の戦い。あれも勘違いではあったが奴は奴なりの勝算の下、俺に仕掛けて来たわけだしな。
「なるほど……でもよぉ、連中はハデスの部下ではあるがハデス本人じゃねえだろ?」
「そうでもねえさ。奴は部下にも同じものを求めるタイプだからな。きっちり教育を施してるだろうぜ」
例えば俺が死神だとしよう。
俺と俺より仕事は出来ないが自分と似たタイプの死神が居るなら後者を重用するだろう。
俺に教育を施しても無駄なのは明白だからな。
「加えて奴らを見れば分かるが、奴らは心底ハデスを尊敬してる」
そんな輩が、だ。
ハデスを殺すような相手に勝算もなしに挑むか? 玉砕特攻なんざハデスが嫌う不合理の極みじゃねえか。
「怒りはあれども躾けられた理性とハデスへの敬愛が不合理を許しちゃくれねえよ」
「なぁるほどぉ……なら連中の目的は別にあるってわけだ」
「おう。だがそこは別にどーでも良いんだ」
問題は、だ。
「そんな堅物連中がその目的とやらのためにあんな薄っぺらい芝居やってるんだぜ?」
良い歳こいたBBAがセーラー服着てるよりキツイぜ!
いや、年増のコスプレは素晴らしいものだけどね? キツさが良いっていうか……。
でもアイツらのキツさはダメ。キツイはキツイでも滑稽のが大きい。
「そりゃ笑っちまうなァ!!」
「だるぉぉぉおおお!?」
そして俺たちは同時に仰け反り連中を指さしながら、
「「ギャハハハハハハハ! だ~~~っせぇええええええええええええ!!!」」
盛大に笑ってやった。
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