友よ、君に感謝を
現在の時刻は午前十時三十五分。
高橋とは結局、七時ぐらいまで駄弁ってたからあんまり眠れなかったけどメンタルは充実してるのでトントンだろう。
「かーっ……ぺっ!!」
「オジサン、おっさん臭いよ……」
「オッサンだもん」
歯磨きをしてシャッキリ目も覚めた。
やー、ちょいと暑いが山の空気は爽やかだねえ。
「ねえねえオジサン、朝ごはんはー?」
「翠、おなかすいたー」
「はいはい。ちょっと待ってな」
キャンピングカーの中から食材と例の“アレ”を持って来る。
火の用意をしていた光くんが俺の手にあるそいつを見るやカッと目を見開いた。
「それは……ホットサンドメーカー!?」
「そう、買ったは良いものの四、五回で使わなくなるって噂のホットサンドメーカーだ」
御多分に漏れず俺もそうだった。
深夜のえ、今なら3セット!? ええやん! ってなって購入して届いた日はもうウッキウッキだったんだがなぁ……。
よくよく考えたら俺、そこまでホットサンド好きってわけではなかったわ。
いや、トーストとかは朝普通に食うけどさ。ホットサンドは別に……偶にパン屋寄ってその時に買うぐらいで良いかなって。
自炊もロクにしねえ一人暮らしの俺にコイツを有効活用出来るわけがなかったんだ……。
ただキャンプにはピッタリかなって。双子ちゃんあたりは喜んでくれるかと思い今回、登板させてみたのだ。
「「あー! 知ってるこれ知ってる!!」」
そして予想通り、大はしゃぎだ。
光くんもそわそわしてるあたり彼も地味に憧れてたのかもしれない。
ただ光くんは倹約家だからな。使わなくなるかもと考えると手が出なかったんだろう。
「あー……うちにもあるわ。何回か使ったら自然と使わなくなったけど」
「梨華ちゃんもか」
「うん。ママが買ったんだけど「私よく考えたら別にそこまでホットサンド好きじゃない……」だって」
まんま同じで笑うわ。
ホットサンドメーカーをフル活用出来てる人ってすごいよな。
「まあでもキャンプにはピッタリじゃん! オジサン、ナイスチョイス!!」
「あざーっす。つーわけでパンと具材、色々用意したから好きに作ってこうぜ」
自然解凍した冷凍の肉まんなんかも用意してある。
「サーナちゃんはどうする? 私明太ポテトにしようと思うんだけど」
「うーん……とりあえず最初はシンプルにハムとチーズで行こうかと」
「お兄ちゃん! 藍、チョコとバナナのやつ!!」
「ずるい! 翠はイチゴとクリーム!!」
「はいはい。順番にやるからちょっと待ちなさいな」
JC二人と暁家でそれぞれ一つずつ使うみたいだから残ったのは俺が使わせてもらおう。
俺は……どうすっかな。色々用意したけどそれだけに迷うぜ。
「……結構、腹も減ってるしガッツリ系で行くか」
コンビーフにチーズ、玉ねぎ、黒胡椒。
パパっと準備を整え焼き始める。具材挟んでプレスするだけ……ホント楽だよなぁ。
「ところで藍ちゃん、翠ちゃん。今日は山で遊ぶわけだがしたいことは考えてあるかい?」
「川で泳ぎたい!」
「探検!」
川で泳ぐのはともかく探検……探検か。
何か面白そうなとこ――――そういや鍛錬に使う洞穴とかあるとか言ってたな。
軽くサーチしてみるとそれっぽいのを発見。
(……入り組んでるが、俺と一緒なら問題はないな)
分身を飛ばして洞穴内に案内板の設置を命じる。
そういうのが何もないとこも面白いが、あった方が安全なんだなって安心出来るだろうからな。
「じゃあ、飯食ったら洞窟に行くか。ダンジョンみたいでおもしろいぞ~?」
「行く! 絶対行く!」
「川はー?」
「川はお昼からにしよう。もっと暑くなってからの方が気持ち良いしな」
そうこうしている内に第一陣が焼き上がった。
キャッキャとはしゃぎながらホットサンドを半分こしてる双子ちゃんにめっちゃ癒される……。
梨華ちゃんとサーナちゃんも良いねえ。可愛い。
やれやれって感じでホットサンド焼いてる光くんもグッドだ。
何だここ……日本有数のヒーリングスポットですか?
(……会社行ったら自慢しよう)
シャッチョあたりにウザ絡みしたろ。
思春期で娘さんとちょっとギクシャクしてるシャッチョは羨ましがるやろなぁ……うひひ。
「オジサン、何か悪い顔してる」
「ははは、気のせい気のせい」
有給明けの楽しみも出来たし全方位に隙なしだな。
「それより梨華ちゃんとサーナちゃんはしたいこととかあるのかい?」
「んー、川で泳ぐのは藍ちゃんが言ってくれたし……あ、肝試し! 夏だし肝試しやりたい!!」
「肝試し?」
「夜に幽霊とか出そうなとこを巡回する遊び……遊びなのか?」
遊び気分なのはその通りだが、試しとついてる以上試練と言えなくもない。
「まあそんな感じ。キャッキャ言いながらお墓とか行ったりするんだわ」
「死者の眠りを妨げるのはよろしくない行為では?」
「そうね。その通りだわ」
よくよく考えると迷惑極まりねえよな。
でもまあ、この山に墓とかはないし……何か雰囲気ありそうなとこを回るぐらいか。
「それなら怪談とか? 百物語しようよ百物語」
「六人で百はキツクね?」
「藍と翠で七つはいけるよ! うちの学校の七不思議!!」
七不思議……これまた懐かしいワードだぁ。
そういうのあったね。まあ高校の七不思議は三つぐらいが俺とダチが元凶だったけど。
「サーナちゃんはやりたいことないの?」
「あまりこういう経験がないので皆さんにお任せしようかと。それでも十二分に楽しめてますし」
「そっか。じゃ、光くんは?」
「……きゃ、キャンプファイヤーとかやってみたいなって」
ほう? 良いじゃん良いじゃん。
木を組み立てるの楽しいよな。あと着火の瞬間。火ぃつける役でめっちゃ争ったわ。
高橋、鈴木と一緒にぶちこまれたあの地獄のサバイバルでもそう。
こっちは一般人のツレの時と違って殴り合いにまで発展したが最終的には俺が勝った。
火ぃつける俺を悔しそうに見てたっけな……ケケケ。
「じゃあキャンプファイヤー囲みながら怪談?」
「怖さより楽しさのが勝りそうだな」
だがそれもヨシ!
「そういう佐藤さんはどうなんです? 俺たちばっかりワガママを聞いてもらうのも」
「良いの良いの。俺は俺で楽しんでるし」
それに、だ。俺は今回の小旅行で十分過ぎるほどのものを貰ってる。
ここに来なければ高橋と再会することもなく、胸のつかえが取れることはなかっただろう。
(そして、俺の中のギャル熱が再燃することも……)
ふふ、疎遠になっていた性癖とまた距離が縮まっちまったぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます