赦し
※二話ほど抜けていたので追加しました。
該当部分は42、43話で新しく挿入しておきました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
子供たちの作ったカレーは大変美味しゅうございました。
そりゃね、もっと美味いカレーはこの世に幾らでもあるよ?
でもね、子供らが頑張って作ってくれた愛情タップリのカレーは唯一のものなんだよ。
カレーを食べた後はキャンピングカー備え付けのシャワーで汗を流した。
普通のシャワーに比べりゃ手狭だが二日ぐらいだからな。特に文句が出ることもなかった。
や、あの子らは皆良い子だから不満があってもそれを口にはせんだろうが。
んで就寝時間までタブレットで動画見つつ駄弁り、テントの中で就寝。
三時間ほど経過したところで目を開け周囲の気配を探る。
皆が寝静まっているのを確認したところで俺は光くんを起こさないようこっそりテントを抜け出した。
そして寝る前にコッソリ用意していたコーヒーセットやらお菓子やらを持って、少し離れた場所にある川へと向かった。
離れる際に結界を張って来たので安全面は問題なし。目も残してあるので何かあれば直ぐに戻れる。
「ここらで良いか」
川辺に椅子を二脚設置してコーヒーの準備を始める。
川のせせらぎ、風の音、木々のざわめき。
人によっては夜で一人だから不気味に感じるかもだが俺にその手の繊細さはない。
普通に癒し空間として楽しめている。
「よォ」
そろそろかと言ったところで高橋が現れた。
サンダルでショーパンにへそ出しTシャツ……エロいなぁ。
これが知らない人なら速攻でワンチャン狙ってワンナイトに持ち込むべく口説いてたのに。
「待たせたか? 悪いな。同僚が中々寝ないもんでさ」
「別に良いよ。待つ時間も嫌いじゃねえからな」
昼間、偶然の再会を果たした俺と高橋。
梨華ちゃんはごゆっくりとか言ってたが積もる話は山のようにある。
一時間二時間じゃ終わらねえだろってことで夜中にコッソリ会おうという話になったのだ。
「悪いが酒はなしだ。子供らの引率なんでね」
飲んでも問題はない。物理的にアルコールを抜けるからな。
ただ子供らの引率で来てる以上はな。我慢すべきだろう。
「問題ねーよ。しかし……」
「あん?」
「現役保育士のあたしはともかく……お前、そういうとこも気にするようになったんだな」
「うっせえよ。ほれ、コーヒー。お前はブラックだったよな?」
「おう」
コーヒーを渡し、ミニテーブルの上に菓子を並べる。これで駄弁りの準備はOKだ。
よし、俺も飲もう……の前に砂糖とミルクを入れんとな。
「……おめーは相変わらず砂糖とミルク、ドバドバ入れてんのな」
「これが一番美味い飲み方なんだよ」
「ンなに甘くすんならコーヒーの意味なくね?」
「苦さを楽しむための甘さなんだよ」
そこまで言って俺と高橋は笑いだした。
「何度目だ? このやり取り」
「さあな。覚えてねえや」
ちなみに鈴木もブラック派だった。千佳さんは微糖派。
「なあ高橋」
「あ?」
「今更の話だけどよ。身体に異常とか、出てねえよな?」
「あんだよ急に……」
「ほら、俺のTS神拳の餌食になったのってお前と鈴木だけじゃん?」
極力、高橋と鈴木のことは考えないようにしてたからだろうな。
再会してから気付いたんだがTS神拳の被害者は二人だけしか居ないのだ。
安全な技術なのか? って聞かれたら俺としても断言は出来ない。
「ちょっと待て。技名つけてんのかよ」
「そりゃつけるだろ。偶然とは言え生まれた以上は名前をつけてやらねえと浮かばれねえよ」
「えぇ……?」
「で、どうなんだ?」
「……まあ、特には」
そうか。それなら良かった。
オーラが乱れてるとかもないしこの分なら鈴木の方も問題はないだろうな。
「ああでも、生理とかはキツかったな。元々なかったもんだからよ。焦ったぜあん時は」
「……そ、そう」
すいません。全然考えてませんでした。
「あたしがこうなったのが十七ん頃だろ? 普通そんぐらいなら生理は経験してて当然じゃん?
だから他人にどうすれば良いか聞けねーしネットで色々調べて自分でやったんだわ」
「すいません。その話、やめましょう?」
きまずいんで。
「おいおい、折角あたしが気ぃ遣ってネタにしてやってんのによ~」
「高橋……」
高橋と鈴木は俺を恨んでいるのでは?
二人のことをあまり思い出さなかったのはそう考えてしまうのが嫌だったからでもある。
そんな俺の心情を高橋は察してくれたのだろう。
「真面目な話をすると、だ。佐藤のことは恨んじゃいねえよ。
最初の頃はまー……恨みではないが多少は思うところもあったけどさ。
毎日の忙しさで忘れちまったよ。夢を追った自分に後悔はねえが……今のあたしは思うよ」
願った世界が訪れなくてよかった、と。
照れ臭そうに、高橋は笑った。その笑顔に俺は少しだけ、泣きそうになった。
悲しいからじゃない。高橋が幸せに暮らしていることが改めて分かったから……嬉しくて泣きそうになったのだ。
「鈴木もさ。多分、そうなんじゃねえかな」
「……そうか……そうか……ッ」
「おい、泣くなよ」
うるせえ……。
「しょうがねえ奴だなぁ。どうする? おっぱい揉む?」
ゆっさゆっさと胸を持ち上げながら高橋は言った。
「え」
「え」
ちょ、やめろよ……何、顔を赤らめてんだよ……変な空気になるじゃん……。
「い、いやそれ言うならお前もガッツリ食いつくなっつー……」
「お、お前も元男なら分かるだろ? 男はおっぱいで簡単に釣れる生き物なんだよ」
「いやそれはない」
「あるね。お前はカッコつけだから認めたくないだけだ」
高橋も鈴木もさァ! 変に硬派ぶっちゃってさァ!
男同士なのにそういうお高くとまっちゃってるの、正直どうかと思ってたからね。
「黙れ変態」
「黙れムッツリ」
ったくしょうがねえ奴だ……呆れつつ、温くなったコーヒーを啜る。
っぱこの甘さだわ。苦いを100%楽しむためには甘さがなきゃいけん。
「そういや逆ナン旅行とか言ってたが戦果はどうなのよ?」
「あ~? ダメダメ。全敗。お陰で皆、飲んだくれちまってるよ」
「お前は平気そうだな」
性自認は完全に女で身体も同じくだ。
カレシの一人二人欲しくはねえのか。それともまたムッツリ?
「何でか、そういうのにあんま興味ねえんだよ」
「ほーん?」
「そういうお前はどうなんだよ? 大人になったらビッグになって沢山女侍らせるとか言ってただろ」
おぉっと、白けた眼差し。
「特定の相手は居たことねえな」
「……ふぅん?」
「あ、そうだ」
「どった?」
「いやお前には一応言っておこうと思ってんだが……柳、覚えてるよな?」
「忘れるわけねえだろ」
だろうな。かつての同志なんだから。
「お前が殺った柳がどうしたんだよ?」
柳と鬼咲を倒したのは高橋と鈴木を倒した後だ。
だからアイツらが死んだと思っているんだろう。
「アイツ、実は生きてたよ。最近、ホームレスから復帰した」
「はぁ!? ほ、ホームレス!?」
「それと鬼咲も生きてた。アイツはオカマになってた」
「オカ……ッ!?」
それから俺と高橋は色んな話をした。
真面目な話、馬鹿な話、思い出話、これまでの空白を埋めるように。
そうして語らい続け空が白み始めた頃、俺たちは無言で空を見上げていた。
(……帰ったらギャルもののAVを探そう)
明るくなり始めた空を見ながら俺は強く思うのであった。
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