忍び寄る影
「キャンプ用具とかは用意しなくても大丈夫なんですよね?」
「ああ、俺が用意する。光くんたちは着替えと財布、スマホぐらいで大丈夫だ」
何なら財布も俺が全部出しても良いんだがそこまですると光くんがキツイだろうしな。
本当にしっかりしたお兄ちゃんだよ。
双子ちゃんからすればちょっと口うるさく感じるかもだが、いずれあの子らが大人になった時は光くんのすごさが分かるはずだ。
「藍と翠はスマホ持ってなーい」
「お兄ちゃん、何時になったら買ってくれるの?」
「お前らにはまだ早い」
「「んもう! そればっかりー!!」」
「あはは、暁くんお兄ちゃんやってんねー」
「それよりほら、水着売り場についたぜ。選んでおいで」
「「「はーい!!」」」
女子三人が水着売り場に突っ込んで行った。
「俺らもテキトーに見繕うべ」
「そうですね。学校で使ってるので良いかとも思いましたがやっぱり恥ずかしいですし」
まあ、学校の水泳で使うやつはね。
パツンパツンだからな。それでも今の子はロングスパッツみたいなんもあるらしいから俺らん時よりマシだろう。
「俺らがガキの頃はマジ、ブーメランみてえなんだったからなぁ」
「……思春期の男子にはキッツイですねえ」
「それな。恥ずかしがるだけならまだしも妙な性癖が芽生えたら事だぜ」
「せ、性癖って……」
「まさか、アイツが……なあ?」
駄弁りながら俺と光くんはテキトーにトランクスタイプの水着を購入した。
会計を済ませ女性水着売り場に向かったのだが光くんはそわそわしてる。恥ずかしいのだろう。
別に下着売り場に居るわけじゃねーんだから堂々としてりゃ良いのにな。
「キョドってると逆にやばい奴に見えるぜ」
「そ、そうですね」
「それより梨華ちゃんと双子ちゃんは……」
あ、居た。梨華ちゃんの姿は見えないが双子ちゃんがビキニのとこでキャッキャしてる。
隣に居る光くんを見るとさっきのそわそわっぷりはどこへやら。地蔵のような顔になってた。
「アイツらは……ホント、もう……」
項垂れる光くんに気づいたのだろう。
双子ちゃんたちがこっちこっちと声をかけて来る。
「どうお兄ちゃん? セクシー? 藍、セクシー?」
「翠のがセクシーだよね?」
あっはーん、とビキニを平坦な胸に当てしなを作る双子ちゃん。
微笑まし過ぎてオジサン、そろそろ浄化されそうだわ……。
「お前らみたいな幼児体型に誰が興奮するんだ。恥ずかしいからやめなさい」
「「あー! あー! お兄ちゃん酷いこと言った! 酷いこと言ったー!!」」
まあうん。純然たる事実だが小さくてもレディだもんね。
光くんも他の子どもが同じことしてたら言葉を選んでたかもだが身内だとどうしてもなぁ。
でもそういう身内には雑なとこが出ちゃうってすごく良いと思う。
「ねえねえ、オジサンはどう思う!?」
「似合ってるよね!?」
おっと、俺に矛先が向いたか。
光くんは申し訳なさそうにしてるがこれぐれえ何てことはねえさ。
「残念ながら今の双子ちゃんにはそりゃあ、ちょっち早過ぎるわな」
これだけじゃダメ。ちゃんとフォローも入れんとな。
むぅ、と頬を膨らます双子ちゃんたちに言ってやる。
「イイ女ってのはな。自分の武器を上手に使えるものなのさ」
「「武器?」」
そう、武器だ。
「ママは美人だし藍ちゃんも翠ちゃんも俺の目から見て将来性はピカイチ。
十五、六にでもなりゃそいつも似合い始めるだろうが今は残念ながらそいつを活かすことは出来ないな。
花も恥じらうような可愛さを全面に押し出してった方が魅力を存分に発揮出来ると思うぜ? 一躍ビーチのスターさね」
さてどうだ。
「「やだもう! オジサンってばオジョーズー♪」」
成功らしい。
「まー、オジサンがそう言うなら仕方ないかな!」
「じゃあさ、翠たちの水着選ぶの手伝ってよ! 勿論お兄ちゃんも!」
こら光くん。そんな露骨にめんどくせぇ……って顔しないの。
「将来、彼女出来た時のために頑張ろうぜ?」
「いや……別に彼女とか欲しくないですし……」
この子はもう……ん? 双子ちゃんたちがクイクイと裾を引っ張っている。
「ちなみにだけどぉ、梨華お姉ちゃんはこれ似合うと思う?」
「うーん……まだ早いかな。今の梨華ちゃんはセクシーよりスポーティな感じのが輝くだろうね」
梨華ちゃんもスタイルは良い。似合うか似合わないかで言えば似合う方だろう。
ただこういう露出多めのビキニタイプをフルに活かそうってんならやっぱお肉がね。重要だと思う。
「あのお姉ちゃんみたいな?」
「こら翠、人を指さしちゃいけ……ま……」
「?」
何故か言葉を途切れさせる光くん。
釣られるように翠ちゃんが指さした方を見ると、
「――――」
デッッッ! エッッッ!?
色んな美女美少女を見て来た俺をして、一瞬マジで我を失うほどの逸材が居た。
外人さんか? やっぱ外人さんはちげえなぁ。顔もスタイルも半端ねえわ。
確かにあの子が着たらさぞ映えるだろうねえ。
「あ、サーナちゃん」
と、そこで梨華ちゃんが戻って来た。
「ごめんね暁くん、双子ちゃんから目を離しちゃって。ちょっとトイレ行ってた
「いや大丈夫……え、西園寺さんの知り合い?」
「ほら、前に話したじゃん。外国からド級の転校生が来たってさ。あの子だよ」
JC!? マジかお前! 将来有望とかそういうレベルじゃねえだろ!
あの子が勇者なら旅立ちの朝、おかんに起こされた時点で30レベルぐらいはあるじゃん!
「おーい、サーナちゃん!!」
「? あ、梨華さん。ご機嫌よう」
「ご機嫌YO! サーナちゃん、お買い物?」
「はい。暮らしも落ち着いて来ましたからここで少し以前から興味のあった便利な調理器具などを揃えたいなと」
「サーナちゃんお父さんと二人暮らしなんだけど忙しくて家事も全部自分でやってるんだっけ」
「ええ。と言っても好きでやっていることですから」
「えらいな~」
雑談に花を咲かせる二人。
梨華ちゃんの様子を見るにかなり心を許してるっぽいな。
梨華ちゃんが陽の者であることを差し引いても、あのサーナちゃん中々のコミュ力と見た。
あと何気ない所作を見てるだけで育ちも良いことが分かる。生真面目な親御さんにしっかり育てられたんだろうな。
「「ありがたやありがたや」」
「こ、コラ!」
「? 梨華さん、あの子たちは……」
「私の友達の妹ちゃんだよ。可愛いでしょ? 藍ちゃんと翠ちゃんっていうんだ」
「ええ、とても愛らしいですね。胸がほっこりします」
これは……いけるか?
そんな顔をしたかと思えば、光くんの隙を突いて双子ちゃんがサーナちゃんの胸にダイブした。
サーナちゃんは咄嗟に抱きとめたものの、困惑しているようだ。
ただ嫌悪感などはなく突然の奇行に驚いてるだけって感じだな。
「すいませんすいませんすいません! お前たち、離れなさい!!」
「あはは、構いませんよ。元気があって何よりです」
「「女神様だ……女神さまが居る……やわらかい……」」
微笑みを浮かべ双子ちゃんの頭を撫でるサーナちゃん。
……子供って良いなぁ。クッソ、オジサン羨ましさで死にそう。
と、そこでサーナちゃんが俺と光くんに視線を向けた。
「あ、ごめんなさい。名前も名乗らずに。私はサーナ・ディアドコスと申します」
「これはご丁寧に。俺ぁ、佐藤英雄。梨華ちゃんのお母さんのダチだ」
「暁光です。妹が大変ご迷惑を……」
自然な流れでおしゃべりが始まった。
まあそれは良いんだけど光くん……露骨に視線逸らすのは逆に怪しいよ……。
いや分かるけどね? 俺も十代ならサーナちゃんのとんでもねえ兵器に心かきみだされまくってただろうし。
「時にサーナちゃん」
「はい、何でしょう」
「今月のこのあたりだけど予定とかあるのかい?」
スケジュール帳を開き日付をなぞって見せる。
「? いえ、特にはありませんが」
「そうか。実はこの三日ぐらいで休みとって遊びに行く予定なんだが君もどうだい?」
ここで会ったのも何かの縁だろうしな。
いや俺も普通の子ならいきなりこんなことは言わんよ?
会ったばかりの男二人と泊まりで旅行とかハードルたけえだろうし。
ただ話してて分かったがサーナちゃんはそういうの気にするタイプではなさそうだから誘ってみたのだ。
穏やかで物怖じせず、双子ちゃんたちも懐いてるなら問題はなかろう。
「え!? い、いえ……会ったばかりの方にそこまでご迷惑をおかけするわけには……」
「良いじゃん良いじゃん。甘えちゃいなって! オジサンは懐の広さに定評のある男だからさ」
「……で、でも」
そう言いつつもサーナちゃんの目はどこか期待に満ちている。
大人びているが、やっぱり子供なんだなぁ。
「「さっちゃんも行こうよ~」」
「……どうでしょう? 妹たちもこう言っていますし」
「…………で、ではお言葉に甘えさせて頂きます!」
「決まりだね! あ、サーナちゃんも水着選ぼ! 渚の視線を独り占めしちゃうぐらいのすんごいやつ!」
こうして旅の仲間が一人、増えたのであった。
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