情熱を言葉に
柳という前例があったお陰だろう。
鬼咲の生存と協力体制の取り付けについては柳の時よりはあっさりと受け入れてくれた。
ただそれはそれとして、
『何で、オカマに……そういう生き方もアリかもって……いやそういう生き方を否定するつもりはないけどお前は……』
まあ抱えてたよね、頭を。
多分千佳さん的にはエロを期待して俺ん家来た部分もあったんだろう。
だが鬼咲の件があまりにも衝撃的過ぎてそういう気分が霧散したのかその後はヤケ酒キメてたよ。
結局、ぐでんぐでんになるまで飲んだので俺が転移で送ったからね。当然、送り狼にはならなかった。
そりゃそうだ。家には梨華ちゃんも居るんだもん。
さて鬼咲についてだ。
互助会の方にも柳と同じ措置を取るよう伝えるとこちらも二度目だからかあっさりと受け入れてくれた。
政府の方にも話をつけといてくれるということなので任せることにした。
だが、まだ話を通しておかねばならない男が居る。そちらは俺の役目だろう。
「お、ヒデさんじゃないかい」
「や。これ土産ね。教授は居るかい?」
会社終わり。俺は柳に会うべく河川敷を訪れていた。
これから一緒に動いてもらうからな。話を通さないわけにはいかんだろう。
契約があるから嫌だとは言わんだろうが、それでもかつての宿敵同士だ。
いきなり会わせるよりはまず俺から一言入れておくべきだ。
「教授かい? またどっかブラついてるみたいでまだ帰って来てないねえ」
「そうか。んじゃ、ちょっとばかり待たせてもらって良いかい?」
「勿論さ。土産も貰っちまったしな」
輪の中に入れてもらい、どっこらせと腰をおろす。
するとホームレスの一人が俺の前にカップを置いてくれた。
「うん? これ、コーヒー……か?」
「タンポポを炒って作ったコーヒーさ。中々いけるぜ。
「じゃ遠慮なく」
ぐいっと軽く流し込む。
コーヒーに似てはいる……しかし、独特の風味だ。
「美味いなこれ」
何なら普通のより好きかもしれん。
「へへ、気に入ってもらえて何よりだ。おかわりもあっから遠慮なく飲んでおくんな」
「いやぁ、悪いねえ」
「何の何の。こっちも土産もらってんだからな」
「気にすんねえ。それよか、何の話してたの?」
輪の中心にはエロ本が大量に積まれている。
この光景だけ切り取れば何か変な儀式しているようにしか思えんのだが。
「性癖談義だよ」
……ほう?
瞬間、全身の細胞が覚醒した。なるほどなるほど性癖談義。エロトークね?
そうとなれば俺も生半な気持ちで混ざるわけにはいかない。礼を失するというもの。
「折角来てくれたんだ。あんちゃんの性癖を聞かせておくれよ」
「ああ。俺の性癖は」
お前の性癖何よ? 言葉にすれば簡単だがあまりにも深奥な問いだ。
でっけえおっぱいが好きな男が居る。ならそいつの性癖は巨乳好きってことになるのか?
いやちげーだろ。でけえ乳だけじゃなくでけえ尻だって好きかもしれねえんだから。
性癖ってのは複合だ。これというものを挙げるのは難しい。
でも敢えて一つ挙げるべき場面が訪れたのならばその時は思い出せ。
エロ本なりAVなりを選ぶ際、自然と気にしてしまう要素を挙げれば良い。
一番ってわけじゃないんだ。そうと断言するには他の性癖も捨て難いからな。
「――――コスプレだ」
「おぉぅ、ストレートなんきたな」
「奇を衒えば良いってもんでもないだろ」
詳しく語っても? 目で問うと皆は頷いてくれた。
「勘違いしないで欲しいのは俺が好きなのはあくまでコスプレってことだ」
例えばナース。ナースのコスプレをした普通の女性とリアルナースが職場の制服持ち出すの。
どっちに軍配が上るかって言えばよ、俺は前者だ。
「リアルを求めてるわけじゃねえんだ。俺が求めてんのはあくまで“嘘”。
ナースのコスプレとかでさ。パンツ丸見えレベルにスカートの丈短かったり、胸元ガン開きのあるじゃん?」
リアルナースだと無理だろ。
スカートの丈だったりはあくまでコスプレという嘘の中でこそ許される要素だ。
「変にリアルに寄せたのより、ああこれコスプレなんだなって分かるチープさが好き」
「めっちゃ語るじゃん」
語るよ。語りますよそりゃ。
「最近熱いのがブルマなんだけどさ。あれもそう。好きなのはファンタジーブルマなんだよ」
「ファンタジーブルマ」
「ケツのラインがエロくて食い込みも良い感じのエロ100%のブルマが好きなんであってリアルブルマは違う」
俺が小学校の頃にゃもうブルマはなかった。
短めの半パンで、中学ぐらいにはちょい長めのパンツとかになってた気がする。
でもリアルブルマを見たことがないわけではない。おとんおかんのガキの頃の写真とかでな。
運動会の写真とか結構残してるタイプなんだようちの両親は。
「リアルブルマってぶっちゃけ野暮ったいでしょ?」
「ま、まあ……そうだな。俺がガキの頃はブルマだったが別にどうとも思わんかったし」
「だろ? じゃあリアル要素はまったく要らないのかって言えばそうでもない」
あくまでリアルありきのコスプレなのだと言いたいのだ。
「例えばナース。何でナースのコスプレをして欲しいかって言えばそりゃリアルナースにエロさを感じたからだろ?」
ナースを知らない人にナース服着た女の子だけ見せたとしよう。
伝わらないだろ。ナースを知ってる人が感じてる魅力がさあ。
「目の見えない人に空の青さをどう伝える? それと同じさ」
「いやちげーだろ」
「急に詩的になる……」
「リアルナースで感じたエロさ! 妄想があるからこそコスプレに興奮するんじゃねえのかよ!」
更に舌を回そうとギアを上げる俺だが、ふと気配を感じ急ブレーキ。
見れば遠くから柳が歩いて来ている。
「悪い、ちょっと抜けるわ。教授に話があるんでな」
「温度差半端ねえ」
ててて、と柳の下に走っていくと奴はきょとんとした顔で首を傾げた。
「何か用かね? まだ時間はかかるはずだ。ここに来る用はないはずだが……」
「ああ。実はな、鬼咲乱丸の生存を確認したんだわ。オカマになってた」
「は? いや待て。奴が生きて……オカマ?」
「んでまあお前と同じように改心してるみてえだから部下にすることにした」
「ちょ」
「お前と一緒に動いてもらうことになっからさ。一応、話だけは通しておこうと思ってな」
「待て待て待て! 順序立てて話せ……っておい! どこへ行く!?」
「うるせえな。俺ぁ今忙しいんだ。話なら後にしてくれ」
さあ、性癖談義の続きだ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます