その温もり
魔術師、呪術師、陰陽師、悪魔憑き、化け物とのハーフ、超能力者、シャーマン。
裏の世界にゃ色んな出自の奴が居る。
今でこそ色々な技術を身に着けているので明確な区分はないが、俺の出発点はどこかと言えば一応は超能力者になる。
まあ一口に超能力者と言っても色々種類はあるんだがな。
人体実験の結果、異能が発現した奴も居れば死にかけるような経験を経て力に目覚めるなんてパターンもある。
掘り下げるとそれぞれに呼称があり俺は“星の落とし子”と呼ばれる超能力者に分類される。
かつて地球が異常に活性化していた時期があった。
その時期に子を宿した母親が活性化した力に影響を受けた結果、異能を宿す子が多く誕生。
その生まれた子供らを指して星の落とし子と呼ぶ。
分類で言えば千佳さんもそれだ。つってもレアリティ的には月とスッポンぐらいの差はあるがな。
俺の物語はその星の落とし子にまつわるものだったわけで……。
「おのれぇ……またしても、またしても阻まれるのか!? 正しい世界が! 真なる黎明が!!」
どうもコイツらはその際に敵対してた組織の残党らしい。
(……ど、どっちだ?)
敵対していた組織は主に二つ。“真世界”と“混沌の軍勢”っつー組織だ。
見た目の年齢からして当時は若いから主要メンバーじゃなかったぽいが……。
(――――いやどっちでも良いか)
敵が誰であれ千佳さんと梨華ちゃんに害を及ぼそうってんなら捨て置けん。
何やら喚いている二人を無視し俺は即座に意識を刈り取ってやった。
そして厳重に梱包した上で仔細を記したメモと一緒に会長の下へ飛ばした。
餅は餅屋。こっから本格的に手を入れるなら本職に任せた方が良い。
暴力が必要ならあちらから要請が来るだろうし俺が動くのはその時だ。
(さっさとずらかるべ)
転移で外に脱出した俺は少し歩いてから大きく息を吐き出した。
昨夜から続いていた思春期男子の性欲はもうすっかり消え失せている。
代わりに胸を満たすのは安堵。未然に千佳さんたちに降り注ぐ災禍を察知出来たのは本当に良かった。
防げたかどうかは全容が見えてないのでまだ分からんが、そういう動きがあったことを知れたのは本当に大きい。
心構えさえしとけば即応出来るしな。
(いやー、良かった良かっ……た……)
コーヒーを購入し開けようとしたところでふと思った。
(…………あれ? これ新世代の物語潰しちゃったんでね?)
あれから十数年。
子世代に焦点を当てた星の落とし子たちの物語が始まる……みたいな展開だったんじゃないか?
そうなると腑に落ちる点も多い。
俺は言うなれば前作主人公の立ち位置なわけじゃん? 実際は主人公になり損ねたけどポジション的にはさ。
前作主人公が出し抜かれるとかあるあるやん。実際アイツらも一度は出し抜ける策を練ってたっぽいし。
「……」
……仮に、仮に新世代の物語というものがあったとして。
運命に選ばれた誰かが居るとしてだ。そいつはもう、彼しかあるまい。暁 光くん。
黎明とか抜かしてたもん。新たな夜明けを連れて来るのは……。
(うわぁ、うわぁ……)
ファーストコンタクトからしてさぁ!
梨華ちゃんとのフラグ折っちゃった感あるのに! この上更に!?
……俺は主人公になれなかったけどさ。その機会はあったわけじゃん?
全部自分でふいにしちゃったけど機会そのものは誰にも奪われなかった。
若い子が面倒なことに巻き込まれずに済んだのは良いことと言えなくもないが……。
(でも、終わってみなきゃ何が本当に良かったかんて分からないし)
ただ徒に機会を潰してしまったのでは? そんな考えが頭から離れない。
罪悪感に苛まれながらあてもなく歩いていると、気づけば商店街に足を踏み入れていた。
食欲をそそる匂いが鼻をくすぐり、思わず腹が鳴ってしまう。
(……弁当屋か)
匂いの元を辿ればチェーンではない個人経営っぽい弁当屋を発見。
空腹には勝てないガキみてえな俺はふらふらとそちらに向かってしまった。
……色々考えなきゃいけないことはあるがとりあえず腹を満たしてから考えよう。
そう自分に言い訳して店の中に入ると、
「いらっしゃいませ! って……佐藤、さん?」
「ひ、光くん……?」
店の奥からエプロン姿の光くんが現れたではないか。
「あ、俺ここでバイトしてるんですよ」
「そ、そっか」
こんなとこで会うかよ普通……運命的じゃねえか……。
「何にします? 基本全部おススメですけど」
「そうだな……」
考えるのが面倒になり弁当を物色していると、
「光ちゃん、あとはあたしがやるからそろそろあがりな! 妹ちゃんたちが待ってんだろ!!」
「あ、はい。じゃあ弁当選ばせてもらいますね」
カウンターから出て来た光くんがどれにしようかと弁当を選び始めた。
「夕飯かい?」
「ええ。うち母子家庭でして」
何でもお母さんは夜勤が多い看護師だからバイトがある時は弁当を買って帰っているのだという。
……く、苦労人かよぉ……ぬくぬく高校生満喫してた自分を思い出し泣けてきた……。
しかしそうか……そういう事情ならしっかりしてるわけだ。
裏の世界になんて巻き込まれたくねえよなぁ。
「……それならオジサンが奢るよ」
「え、いやそんな」
「オジサンこう見えて稼いでるから遠慮しないの。あれだ、浮いた弁当代でデザートか何か買ってあげなさいよ」
「……ありがとうございます」
はにかむような笑顔が眩しい……薄汚い中年の心に刺さりまくる……。
何だよ……朝っぱらから猿みてえな性欲に振り回されてるとか俺馬鹿みたいじゃん……。
「うーん……こないだは魚系だったし今日は肉にしようかなぁ」
「サイドとかも遠慮なく頼んで良いからな」
「はい!」
「あ、それと家まで送ってくから」
「へ? いやいや俺男ですし、そんなことまでしてもらわんでも。家もそう遠くないし」
俺も今回のことがなきゃそうしてたろうさ。
「……ここらでちょいとキナ臭い動きがあってな」
そう耳打ちすると光くんは顔を強張らせながらも、それならと頷いた。
敵の出鼻は挫いたが連中、梨華ちゃんの存在を把握してたからな。
巻き込まれた経緯を知ってるなら光くんの存在も認知してる可能性が高い。
妙な目や耳がないかぐらいは調べておかにゃいけん。
「じゃ、行こうか」
「はい」
弁当を購入し、帰り支度を整えた光くんと合流し歩き出す。
「……あのキナ臭い動きっていうのは?」
あんまり詳しく話せないがと前置きした上で軽く説明してやる。
「実はここからそう遠くない場所で悪いこと企んでる奴が居てな」
「ッ……」
「大丈夫。ボスっぽい奴らをシバキ回して何かする前に盛大に出鼻挫いてやったよ」
「そうですか……え、でもそれなら……」
「企ての全容が分かってないんだ。どれだけの人間が関わってるかもな」
詳しいことは尋問の結果待ちだ
「ボスっぽいのを捕らえたから直ぐに何かあるってことはないだろうが」
「……念のため、ですね。すいません、お手数おかけして」
「いや良いさ」
そこからは雑談に移行し、駄弁りながら歩くこと十数分。
自宅付近のコンビニでスイーツを買って彼が暮らしているアパートの前に到着。
「……とりあえず妙な気配とかはなさそうだな」
ほっとしたのか肩の力を抜く光くん。
それでも油断は禁物。ちょっとでも気になることがあれば俺に連絡をするよう言っておいた。
「じゃ、俺はこれで」
「あの!」
「うん?」
「良かったら、その……うちで食べて行きませんか?」
「へ?」
「ほら、今から家に帰るとなれば折角のお弁当も冷めちゃいますし……あ、勿論ご迷惑でないならですけど」
「い、いや迷惑なんてことは……むしろ俺のが迷惑じゃね? 妹さんたちも戸惑うっしょ」
「大丈夫です。うちの子らは全然人見知りとかしないタイプなんで!」
「あ、ちょ」
そんなこんなで暁家で食事をすることになってしまったんだが……。
(あ、あ、あ……裕福ではないが優しさと思いやりに満ちた温かい家庭の空気がしょっぱいオッサンの心に……!)
俺は心で泣いた。
ちなみに後日聞いたところによると何か思いつめた感じがしたので気晴らしになればと思い誘ってくれたらしい。
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