よろしく
翌日。昨晩、千佳さんの家を出た俺は直ぐに梨華ちゃんに連絡を入れた。
明日会えないかという誘いに彼女は即座にOKを出してくれた。
そして今、千佳さんを伴い宿へとやって来たわけだが……。
「あ、オジサン!」
応接室の扉を開けると梨華ちゃんが笑顔で俺を迎えてくれた。
俺は無言でそっと身体を横にどかす。途端に梨華ちゃんの顔が驚愕に変わった。
「あ、アンタ……何でオジサンと……」
アンタ、か。こりゃまた分かり易いまでの反抗期ムーブだ。
俺自身は親が家に居なかったから拗らせることもなかったが周りの反抗期拗らせてる奴らは大体こんなだった。
「……」
「ちょ、何よ……ね、ねえオジサン。これ、どういう――――」
無言の千佳さんに気圧されたのか事の次第を俺に問い質そうとするが千佳さんのが早かった。
「ごめんなさぁあああああああああああああああああああああい!!!」
ノータイムでの抱擁からの謝罪。
「ごめん……ホントにごめんね梨華ぁ……梨華ぁああああああああああああ……」
「え、ちょ……何……何なの……あん……ま、ママってば! 止めてよ!!」
わんわん号泣しながら謝罪する千佳さんに梨華ちゃんも素に戻ったらしい。
ママか……可愛い呼び方してんねえ。
「今まで辛い思いをさせてごべんな゛ざぁああああああああああい!!!」
「もう……何なのよぉ……誰か説明してぇ……」
多分、千佳さん家ではクールで厳しめな感じなんだろう。
だからこそ恥も外聞もなくわんわん泣いてる姿に戸惑いを隠せない。
マジで混乱してる梨華ちゃんにゃ悪いが、俺は今めっちゃ胸がぽかぽかしてる。
どっちも良い子だからな。直ぐに昔のようにゃ戻れずとも関係は改善されていくだろう。
家族をやり直すはじめの一歩。それが今目の前に広がっている光景なんだと思うとねえ……。
(歳ぃ取ると涙腺が緩くなっていけねえや)
十分ぐらいして千佳さんが落ち着くと、改めて話をということになった。
どういうことか説明しろやという梨華ちゃんの求めに答え、俺は口を開く。
「まず最初に言っとくとな。俺ぁ昔、君のお母さんと一緒に裏の世界で戦ってたんだ」
「――――は?」
「まあそうなるよな。でも嘘じゃない。十七の頃のことだ」
若い子相手の昔語りって何か照れ臭いな。
「戦いが終わってからは自然と距離が開いて最近になるまでお互い何をしているかも知らなかった。
それが偶然、取引先で再会しちゃってさ……改めて思うが縁ってのは不思議なもんだなぁ。
それから飲みに行ったりして酒の席で娘さんが居ることも聞いてたんだ。
だからあの日公園で会った時も直ぐに分かったよ。若い頃のお母さんそっくりだったしな」
お陰でとんだ大ダメージを負ったよ……。
「……じゃあ、あの時私に色々してくれたのはママの子供だから?」
「ああそうだ。友人の子供が道を踏み外しそうになってりゃ普通、止めるだろ?」
「……あんなに必死で助けに来てくれたのも?」
「そうだ」
不満げな梨華ちゃん。
何を思っているかは大体察しが付く。なのでこう付け加えた。
「千佳さんの娘ってフィルターは不満か? でもな、人間関係って大体そんなもんだよ。
友達の友達を紹介されて友達にとかよくあるだろ? それと同じさ。
最初はフィルター越しでもちゃんと相手に向き合うつもりがあるならフィルターなんざ直ぐになくなる」
ふっと笑い告げる。
「だから改めて自己紹介だ。俺ぁ、佐藤英雄。最近、抜け毛が気になる34歳のオジサンだ」
よろしく。そう告げ手を差し出すと、おずおずとだが握り返してくれた。
「ありがと。これから梨華ちゃんのこと色々教えてくれると嬉しい」
「……うん」
さて、バトンタッチだ。
「千佳さん」
「うん、分かってる。ねえ、梨華」
「?」
「私も裏の世界に居たって話はしたけどね。梨華みたいにいきなり巻き込まれたわけじゃないの」
「どゆこと?」
「最初から裏の人間だったのよ。私は特別な生まれで特別な力を持っていたから」
そしてその力は梨華ちゃんにも受け継がれているのだとハッキリ伝える。
「それは大きな力。良からぬ人間に目をつけられるような危険な力。
でも、それも含めて梨華なの。出来ることなら私はちゃんと向き合ってほしいと思ってる」
その言葉に梨華ちゃんは、
「……いきなし、そんなこと言われてもわかんない」
「ええ、それで良いわ。今のあなたは子供だもの。ただ、ママの言葉を頭の片隅にでも置いてくれたら嬉しいわ」
「……うん」
この感じだと悪いことにはならんだろう。
俺と千佳さんはホッと胸を撫でおろすが、
「ってか特別な生まれって何? 何かあのー、すごい一族の末裔的な?」
「「……」」
「え、何で黙んの?」
「……まあ、そこは置いといて」
「……ああ、そこはまあ置いとこうや」
「ちゃんと向き合えって言ったのに!?」
いやだって……昔の千佳さんは世間ズレしてたからアレだけど梨華ちゃんは違うからなぁ。
言えねえよ。梨華ちゃんの祖父母にあたる人がパワースポット的なとこでやらかした結果、突然変異の赤ん坊が生まれたとかさぁ。
俺この話聞いた時、馬鹿じゃねえのって思ったもん。
DQNカップルがDQNなことしてやっべえ力の持ち主が生産されるとかね……。
「それより! ママ、離婚することにしたから」
「話の流れ! いや離婚自体は賛成だけど! あんな屑さっさと切り捨てるべきだと思ってたし!」
「だから梨華も家に帰って来てくれると嬉しいんだけど……あ、今のマンション嫌なら引っ越す?」
「誤魔化されないかんね!? 何なの!? 教えてよ!!」
「……まあ、その内」
「歯切れ悪い!?」
千佳さんに目で助けを求められたので俺も割って入る。
「ともかくだ。これからのことについて説明するから聞いてくれ」
「暁くんは?」
「彼には俺から後で伝えとくから大丈夫」
流石にこの話し合いには参加させられんしな。
「これから梨華ちゃん達には互助会っつー裏に足を踏み入れてしまった人間をサポートする組織に属してもらう」
「そこで自衛手段を磨けってこと?」
「そういうこった。教導役の人に鍛えてもらいつつ簡単な仕事を請けたりしてもらう。ああ、ちゃんと報酬は出るぞ」
素人同然の駆け出しに任せるのだから十万ぐらいだが子供からすりゃ大金だ。
「俺もそれで服やらゲームやら買いまくったもんさ」
「あー……お金貰ったら直ぐ使ってたよねヒロくん」
「そりゃそうよ。高校生だぜ? アイツらだって……」
言葉が途切れる。
「オジサン? ママも……どうしたの?」
「ちょっと古い友達を思い出してな」
この手で殺めた
(……アイツらは元気でやってるんだろうか)
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