運命すらも踏み越えて

 ゴールデンウィークである。

 去年は直近の案件が立て込んでて休日も返上で会社に詰めてたが今年は休めることになった。

 いやゴールデンウィークでも働いてる奴は幾らでも居るだろ――仰る通りだ。

 でもうちは違う。いわゆるホワイト企業なのよ。


『ぼかぁね! 気持ち良く仕事がしたいから起業したんだよ!!』


 というのは社長の言である。

 転職でうちに来たガツガツ行くタイプの社員に絶妙な上から目線で業務改善を勧められた際にキレた社長が言い放ったのだ。

 そりゃまあ、お仕事ですもの。何もかんも理想通りとはいくまいよ。

 繁忙期だってあるしさ。何時でもゆったり仕事出来るわけじゃない。

 でもそうあろうとする心がけを忘れるべきではない。大事だよね、初志って。

 ちなみに件の社員は半年ぐらいで辞めた。あとで調べてみると前職でも職場の空気を乱して居辛くなり辞めたとのこと。


 ま、それはさておき連休である。

 初日は家で一日中酒かっ喰らい寝て過ごしたが……ふふ、無駄な時間の使い方ではないぞ?

 一日完全なチャージタイムを設けることで残りを存分に満喫しようという高度な戦略だ。

 十一時前に起きた俺は敢えて朝飯を食わず空きっ腹のまま事前に目をつけておいたエッチなお店に直行。

 まあまずはね。スッキリしてえなって。スカっとした気分でお休みを始めようというね。戦略戦略タクティクス。


(うんめえ……)


 スッキリした後は飯だ。更に増した空腹を解消するために選んだのはチェーンのバーガー屋。

 学生の頃にこういうとこ入り浸ってた反動かな?

 就職してからは徐々に頻度が減って行き、最近だと……多分一年近くは来てなかった。

 それゆえのチョイス。俺の狙いは当たりも当たり大当たり。マッジうめえんだこれが。

 実際の味より何倍も美味しく感じるのは久しぶりだからだろう。

 そうなることを狙ってたが効果は予想以上だった。


(口に山ほどポテトを放り込んでバーガーと一緒に食べるの……好きなんだよなぁ)


 芋と肉のタッグがね、良いんだこれが。

 テーブルに山と積まれたバーガー、ポテト、ナゲット。シェイク。食べてるのはオッサン。それも一人ぼっち。

 絵ヅラ的にゃちょっとアレだがそこは問題ない。

 何のための超常の力だよ? こういう時でも人目を気にせずに居るためのものだろう?


(あー……良い、良いぞぉ……良い感じにポイント貯まってる……)


 個人的にだが連休ってのは徐々にギアを上げてくもんだと思うんだ。

 折角の休みだからって何かしなきゃと焦るのは良くない。

 コツコツ小さな幸福ポイントを積み上げて緩やかな上り調子に持ってくの。

 んで最終日は家でダラダラするぐらいが丁度良いのよ。

 それだと休み明けもわりと良い気分のまま仕事に戻れるんだわ。

 ま、あくまで俺個人の感想だが。


「ふぅー……ごっそさん」


 店を出てあてもなく歩き出す。

 さあ、これからどうしようか。雀荘にでも行って軽く一局打つか。

 映画館に入ってテキトーに何か見るのも悪くない。

 前評判とか一切調べず完全にフィーリングだけで決めるのだ。

 外したら外したで後々の笑い話に出来るから損はない。


「……」


 ふと、映画で千佳さんとのことを思い出した。

 何でそういう流れになったかは忘れたが日常パート的なとこで映画見に行ったんだ。

 けどクソつまんねえんだこれが。終わった後、公園で散々二人で映画に関わった連中の悪口言いまくったっけ。

 んで一しきり文句を垂れた後で、何かおかしくなって死ぬほど笑ったんだ。

 ああ、外れ映画でも前向きに捉えられるようになったのはその時の思い出があるからなんだと今更ながらに気づいた。


(……今度、千佳さんを映画に誘ってみようかな)


 んでこう、ワンチャンあの頃の彼女に戻らないかな。

 今の綱渡りみたいな関係が改善されて「昔はヒロくんのこと好きだったんだよね」みてえなことを冗談めかして言える感じに。


(千佳さんと言えば)


 梨華ちゃん。あれから彼女は俺が紹介した宿を結構な頻度で利用してるらしい。

 あっこのスタッフにそれとなく様子を教えてくれと頼んだから定期的に話が入って来るのだ。

 男連れ込んでるとかそういう感じもなく、何ならフリースペースで勉強とかもしてるそうだ。

 根っこは真面目なんだろう。見た目だけじゃなくそういうとこも母親似だ。


(家に帰りたくねえってのは千佳さんと旦那が悪いんだろうなぁ)


 かと言って俺が口を出すのもちげえしな。

 よそ様の家庭のことで偉そうに説教出来るほど俺は立派な人間じゃねえ。


(はぁ……とりあえず一度、しっかり梨華ちゃんと話をしてみるかねえ)


 金と場所だけ与えて知らん顔、は流石に酷いしな。

 どうなるにせよ一度会おう。会って話そう。

 そう決めたのなら即行動。宿に向け歩き出そうとした正にその時だった。


“――――たす、けて……ッ”


 キィン! と頭の中に声が響いた。

 この現象、この感覚、覚えがある。共鳴だ。


(梨華、ちゃん……!?)


 昔、とある事情で千佳さんの血を体内に取り込んだことがある。

 そのことで一時期、俺は彼女と深く結び付いていて強い感情が伝わって来ることがままあった。

 次第に解消されていったし、戦いが終わってからも一度として共鳴はなかった。

 まだ繋がりが残っていたのか、或いは再会したことで眠っていた血が励起されたのか。

 何にせよ母と同じ力を持つ梨華ちゃんの声が繋がりを通して聞こえたのは間違いない。


(クッソ! どこだ、どこに居る!?)


 繋がりを利用し逆探知を図るが……繋がったのは一瞬だけだったらしく今は途切れている。

 場所が分かれば転移することも出来たんだが……こうなればもう仕方ない。


(あんまり使って良いもんじゃねえが……手段は選べねえ!!)


 運命を可視化し、思いっきり殴り付ける。

 運命を脅しつけて望んだ事象を引き寄せる“運命カツアゲ恐喝呪法アルティメット”。反動やら何やらが怖いがこれが一番確実だ。

 俺は俺と梨華ちゃんが今すぐに邂逅する運命を無理やり作り出した。

 瞬間、俺はどこかの上空に居た。眼下には異形と……梨華ちゃん!


「大丈夫! 君は俺がまも――――……」


 死ねぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!

 空中を蹴りつけ急加速、勢いそのままに化け物をブチ殺す。

 梨華ちゃんが俺の攻撃の余波で傷付かないようフォローも万全。攻撃の刹那に空間を完全隔離したからな。


「梨華ちゃん! だいじょ……う……」


 振り返る。そして気づく。

 ぽかん、と俺を見つめる梨華ちゃん……と見知らぬパンピーらしき少年。


「おじ、さん?」


 ……。


(何か、やっちまった感ある)


 多分、気のせいじゃない。

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