21 湖底の宮殿でまったり相談
「ごめんなさい。私、見境なく攻撃して、大変な事を引き起こしてしまいました」
何だかそこらにあった物を感情に任せて全部吹き飛ばしてしまったような気がする。大事になってなければいいが。
「仕方がないのう、神の御意志であろうか」
シレっとそんなことを言うヨエル様。
確かに周りは湖賊の船だったけど、迎えに来たのは王国の船じゃないのか。
「アレは侯爵家の船だ。周りに味方はいなかった」
エラルドが頭をポンポンと撫でてくれる。
「そ、そうなの」
落ち込みそうだった菜々美はその言葉に少し浮上した。
「ところで蛇はどうした?」
「ええと、何か青っぽい服を着た綺麗な男の人が来て──」
エラルドが心配そうな顔をすると、ラーシュが「もしかして、そいつがヴリトラかもしれません」と、こそっとエラルドに教える。
「何故か私、聖水の瓶を持っていたんですよ」
握っていた手を見る。
「でも、さっきは何だか何も思い出せなくて、思い出すのが怖くて、頭がぼんやりしていて、瓶にポーションって書いてあったから飲もうとしたんですよ」
みんながふんふんと頷く。
「そしたらその男が瓶を攻撃して割っちゃって、聖水が其処ら中にばら撒かれて男の人が苦しがって──」
みんな、ポカンと口を開けて呆けた顔をした。
「男の人が小さな蛇になって、何処かに行っちゃったんです」
誰も何も言わないで横を向いちゃって、気まずそうな沈黙だ。
コホンと気を取り直してエラルドが聞く。
「ナナミ、逃げた蛇はどのような模様だったか言えるか」
気遣わしげな顔をしている。怖かったし思い出したくもないけれど。
「森でよく見た緑と黒の奴でした。そういえば、ヴリトラと同じですね」
「そうか、あいつが眷属に後をつけさせていたんだな。あの森に蛇ばかり出るのでおかしいと思っていた。普段はもっと普通の魔物が出る筈なんだ」
「普通の魔物って?」
「イノシシとか魔狼とか角ウサギとか丸キジとか、まあ色々だな。魔物を狩れば食料で困る事は無いと思っていたから少し慌てた」
「そうなんだ」
(そっちの方がいいなあ。虫とか蛇とか最低ーー!)
菜々美は顔を顰めた。
ヨエル様が気を取り直して、感心したように言う。
「そなたの聖魔法の威力はすごいのう」
「そうですわ、宮殿がすっかり浄化されたのでございますよ」
クレータが手を広げて感心すると、ルイーセ様も嬉しそうに両手を広げる。
「わたくしもですわ、すっかり浄化されましたの」
ここで瓶を割ったのに、一体どこまで浄化してしまったのか。恐ろしく凄まじい威力の聖水であった。
「多分、エラルドさんに貰ったペンダントのお陰だと思うのです」
菜々美はペンダントを出して見せる。
「フム、加護があるのう。聖なる力が増幅するような加護のようじゃ」
「はあ……、でも私は聖女じゃないですよ、一応聖魔法は出来ますが。ちょっと今の状態を見てみますね」
そして例によって何度か心の中で(ステータス、オープン!)と叫んだ結果、菜々美のステータスが表示された。
名前 ナナミ 女 18歳
スキル 聖魔法 生活魔法 食鑑
【異世界言語習得】【巻き込まれた異世界人】【アイテムボックス】
【山羊妖精王の加護】【聖女のアミュレット】
「これ【聖女のアミュレット】だそうですけど、私が持っていていいの?」
菜々美は【巻き込まれた異世界人】のままで聖女になっていないが。
「お前が持ち主だ」
エラルドはきっぱりと言い切った。その言葉でオレンジがかった赤いペンダントの宝石がキラリと瞬く。何だろうコレ、心に反応しているのかな。
「ヨエル様の加護があります。これ最初から付けて下さっていたのね。あの時怒ってらしたもの。私ものすごく失礼でしたよね、それなのに、ありがとうございます」
ステータスを時々チェックした方がいいのかしら。なかなか出てくれないから面倒なんだけど。
「何の、我らは気まぐれなのじゃ。それに、そなたの側は精気が漲るのじゃ」
精気が漲るのはとても良いことなのだろうな。きっと。ヨエル様とその隣のルイーセ様、そしてクレータも顔色がいい。
「あら、じゃあわたくしの加護も差し上げましょう。受け取って下さいまし」
「まあ、ありがとう」
サーペントのルイーセ様に加護を頂いた。
「私はおそばでお仕えしますわ」
「ありがとう、クレータ」
「私も護衛を頑張ります」
ラーシュまで言ってくれる。
ここに来て巻き込んだ人がちょっと増えたような。
* * *
取り敢えずお腹が空いたのでルイーセ様の宮殿で食事をして休むことにした。
大きなテーブルのある食堂で、妖精3人はお茶だけなので、エラルドと菜々美とラーシュの食事を【アイテムボックス】から適当に取り出すと、クレータが上手い具合に盛り付けて並べて、ラーシュがお茶を入れてくれた。
「これからどうしたものか」
食事の後で腕を組んで言うエラルド。
「一度王国に帰った方がいいとは思うが」
少し憂鬱そうだ。
パウリーナがいない。ヴリトラもいない。アールクヴィスト侯爵はどうするだろう。聞いた話とかパウリーナの性格からあまりいい感じは受けない。そもそもアンベルス王国からして感じ悪い。
「ルイーセよ、ここからならどこが近いかのう」
ヨエル様が聞く。
「ウスリー村かしら」
「ああ、それならば」
ラーシュが提案する。
「イリュリア共和国のウスリー村でしょうか。近くの町に港もございます。そこから船でアルスターに向かえば──」
「アルスターに行くにはアールクヴィスト侯爵領に水門があって行けぬ。湖からならムルマンスク帝国側から行かねばならん。今行くのはどうだろう」
「ああ、そうでございました。ですがウスリー村からは陸路ですとイリュリア共和国のジャムス辺境伯とマオニー侯爵家が黙っていないでしょうね」
「そうなるか。私はクライン公国から山越えで行こうと思っていたからな」
「湖を戻るのは危険かもしれません、クライン公国の船も出ておりましたし」
「そうだな、どこも雲行きが怪しい。どうしたものか」
エラルドとラーシュは腕を組んで考え込んでいる。
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