VSフォルティス・サクリフィス


 最初に俺達がやったことは、牽制に魔法を放つことだった。


 当然俺は水の、クソ野郎は火の槍を相手に向け放つ。俺の水の槍はその表面に螺旋を描いた形状で、クソ野郎の火の槍は返しの付いた、双方殺意の高い槍だ。


 2つの槍はぶつかり拮抗したあと横にずれて相手へと飛んでいく。

 それを俺はトラトトを薙ぐことで潰し、奴は剣を払うことで防いだ。


 だがここで俺達の間には明確な差が生まれた。


 俺のトラトトは横からブッ叩いて火の槍を消した訳だが、トラトトは水の権化とも呼べる武器だ。そしてその素材もただの鉄ではなくダンジョンの魔物が持っていた物を使った特別製だ。

 対してクソ野郎の剣はその場に有る物で創った粗悪な物。しかも水の槍は回転して飛ばしていたため、クソ野郎の粗悪な剣では例え横から力を加え払い退けたとしても相応の傷を与えることになった。その証拠に当たった刀身の中心から先の刃が刃毀れしているのが肉眼で確認出来た。


 だがクソ野郎は、そして俺は、そんなこと関係無いとばかりに、牽制で放った槍に追従するように近付いており、トラトトの三股の間とクソ野郎の剣がぶつかる。


 得物の長さと三股ということを活かしてクソ野郎の剣を折りに掛かる。

 驚いたことに抵抗されることはなく、簡単に剣が半ばから折られた。


 そのままクソ野郎の身を突き刺そうと1度手元に腕を戻せば、俺が手を引くと同時に更に踏み込んでいたクソ野郎が伸ばした腕の内側に居た。



 「先手は貰うよ!」



 その言葉と共に肋の下にキツい痛みを覚える。感触的に刺されたことはわかったが、何故奴が刺せるような得物を持っているのかという思考が脳内を駆け巡る。


 左手で刺して来た方の手首を掴み、トラトトを手放して右手で牽制のために使った水の槍と同じ物を指それぞれに展開し、その手でクソ野郎の頭を掴もうとする。

 だがそれも、続く手を貫通する刃で防がれた。


 そこでようやく俺を刺しているこの刃物の正体に気付く。

 それは先程折った筈のクソ野郎の粗悪な剣だった。


 しかしその形状は完全に短剣のソレで、クソ野郎は、奴は、そんな物を持っている筈が無かった。

 では何故奴が短剣を2本も今この瞬間に使っているのかと言えば、



 「テメー、何処でその技術を覚えた」


 「何も黙って体を明け渡していた訳じゃないってことだよ!」



 腹部からも手からも肉が焼ける臭いと痛みを感じる。

 どうやら火属性を纏ったらしい。


 短剣2本の正体は竜人族から俺が学んだあの技術と同じだ。

 刀身が折られるのと同時に、懐に入るまでの僅かな時間でクソ野郎は短剣を2つ完成させやがった。俺でもまだ戦いながら創ることは出来ないというのに。



 「本当にテメーは腹立つな!!」


 「サースほどじゃないよ!」



 そのまま身を焼かれるのを感じながら、俺は俺で右手に展開した物を左手にも展開し、腹と右手を焼かれながらクソ野郎の手と手首を掴み、こちらはこちらでクソ野郎の手を肉片に変えてやった。


 それによりクソ野郎の火力と力が弱まったため腹へと蹴りを見舞い、水の腕を出してトラトトを回収しながら後ろへ退く。

 クソ野郎もクソ野郎で手の怪我は感化出来ないのか、1度退いて水属性で手の治療を行っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る