卒業試験:VS総帝Ⅵ
奴の顔が、その体本来の持ち主であるフォルティス・サクリフィスの顔が衆目に曝け出されたことで、その顔を見た面々は一様に息を飲んだのがわかった。
特に同級生だった奴等や同じクラスだった奴等からすれば、その顔は散々見た顔だったからだ。
周囲が俺の思った通りの反応をしてくれたことで、俺の中で1つの安堵が生まれた。
その上で、奴にだけ聴こえる声量で語り掛ける。
「この場にはサース・ハザードとフォルティス・サクリフィスしか要らねぇんだよラズマリア。テメーの居場所はもう何処にも無いんだ。テメーがテメーの癇癪で全部破壊したからな」
反応は、驚いたことに無かった。
不自然に思い投げるように地面に下ろして顔を見てみれば、その表情は白目を剥いているのに血の涙を流し口からは泡を噴き出すというものだった。
不気味だ。
そう思いながらも怪しい反応をする奴の腹に1発入れてやれば、それで意識が戻ったのか数度痙攣したあと静かに上体を起こした。
「手荒が過ぎるんじゃないかな、サース」
その反応で、目の前の奴がラズマリアではなくフォルティス・サクリフィスだと直感的に察した俺は、返答の代わりに奴の顎目掛けて蹴りを放つ。
それに返ってきたのは脚に突き刺された土属性で創ったであろう短剣だった。
「この時を、10年待ったぞクソ野郎」
「奇遇だね、僕も君とは大人になる前に決着をつけたいと思ってたんだ」
敢えて俺は大きく後ろに退いて、突き刺された土の短剣を抜いて傷口を水で流したあとポーションを掛けた。
クソ野郎もクソ野郎でローブを脱いでその辺に捨てたあと、土属性と火属性で何やら作っているようで、お互いがお互いの準備をやり始めた。
こうなった時、混乱するのは周りだ。
先程まで一方的に戦っていた2人が急に冷静に各々何かやり始めたんだ、隣の奴との会話は伝播し、それの数が増えれば大きなどよめきへと変わる。
流石に自由が過ぎたのか、それとも先程までので十分と判断されたのか、帝達が近寄ってきて俺達を交互に見た。
「何が、起こっているんだ?」
「結果はもう十分だと思うが、どうする?」
土帝はどうやら混乱しているらしいが、炎帝は何やら訳知り顔で俺達2人に問い掛けて来る。
恐らく色々聞きたいだろうに、フードから見える表情は俺達2人を心配するようなカオだった。
クソ野郎を見る。すると目が合った。それだけで、あぁ、本当に腹立たしいが、俺達は意思の疎通が出来てしまった。
「「もちろん続行で」」
俺達の言葉が重なる。それによって目頭に力が籠るの感じるが、奴も奴で似たカオをしていたため、それがより一層腹立たしい。
「本当に気に喰わない奴だな、テメーは」
「サースもいい加減鬱陶しいよ」
「なんだその目。見下してんじゃねぇぞ泣き虫」
「泣き虫は君の方だろ。毎回誰に負けて泣かされたのか忘れたの?」
「泣いた覚えはねぇし負けた覚えもねぇよ。自己愛極まってんな?精神クソザコ」
「自己愛強いのは確実に君の方だろ。それに見下して来てるのも確実に君の方だからねサース」
「テメーの目線は常に上からなんだよ。常に他人を下に見てるからまるで全ての人間は自分の庇護下みたいな態度が出来るんだ。まぁそうすることでしか自分を表現出来ない可哀想な奴だった訳だが」
「あはは、誰からも相手にされなかった結果がその僻みに繋がったかと思うと痛々しくて涙が出るね。もちろん笑いの涙だけど」
舌戦を繰り広げている間に、俺は指輪からトラトトを取り出し諸々のポーションを飲んで魔力を練っていた。
クソ野郎もクソ野郎で、どうやら剣を作っていたらしい。途中で手を切ったり俺が切り落としたフルフェイスヘルムを使って1本の剣を作り上げていた。
何を言うまでもなく、お互いに準備が整った。
それを帝達は静かに感じ取ったらしく、何も言わずに離れて行った。
「思えば、お前を刺すのはこれが初めてだな」
「そうだね、君を斬るのは楽しそうだ」
「「……………………」」
「「ブッ殺すッ!!!!」」
今ここに、ようやく俺が待ち望んだ展開が訪れた。
● ● ● ● ●
とても簡単に一言で纏めると、この2人は『似た者同士』ってことです。
もしくはアイデンティティの衝突。
サースがこれまでに知り得た情報がどうとか、魔力量がどうとか属性がどうとか、そんなことは彼等には関係無いってことです。
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