卒業試験:VS総帝Ⅴ


 奴の首を後ろから圧迫しながら、空いた手でこれだけ激しく動いたのに一向に中が見えなかったフードに手を掛ける。


 どうやらフードの内側に薄い鉄の板が入っていて、フードはそれに添うように縫い付けられていた。要は鉄のフルフェイスヘルムを被ってたってことだ。これがフードが取れなかった理由のようだ。


 水を発生させて首を切らないようにその鉄仕込みのフードの内側に水を通して、鉄板だけを水を加速させて削り切る。


 削り切れる前に、俺は、敢えてこの場に居る全員に聴こえるように生い立ちを話すことにした。



 「俺には一般的に『家族』と呼べる者は居なかった。当然この世に生まれた訳だから血の繋がった親に当たる奴等は居るが、ソイツ等も生まれた村の周りの奴等も、俺と同い年のとある男にご執心だった。


 俺が言葉を話し始めた時に褒められた記憶は無い。だが近くに住んでいたソイツは反応1つする度に村全体で大喜びだった。


 俺が読み書きを覚えてもむしろ遅いと親含め周囲の奴等に怒られたが、ソイツが言葉を喋っただけで村の奴等は我が事のように喜んだ。


 俺が魔法を覚えるのに苦戦していたら、ソイツは「なんだ簡単だ」とか抜かして俺が1000回やって出来なかったことを1回で成功させやがった。


 何をするにもソイツと比べられ、何を言っても俺の言葉は誰からも相手にされなくて、食事もマトモに与えてもらえず、やること全ての成功は全てソイツの手柄になった。


 だから俺は次第に、ソイツを越えることを目標に生きてきた。


 大人になってからソイツを倒しても時間が掛かれば掛かるだけ俺が勝っても周りは認めないだろうと考えた。だから俺は学生の間にソイツを越えることを目標に生きてきた。


 中等部の時、それまでの人生と比べればとても充実した生活を送っていた。

 気付けばソイツは1番近くの街に在る学校にも来なくなったし、俺の作ったポーションは高値で売れた。

 そうした充実した日々の中、世間では新たな総帝が現れたと話題になった。


 最初は気にしていなかったが、ある日、久し振りにソイツが俺の家を訪ねてきた。

 正直存在を忘れるほど充実していたから、まぁ話しぐらいなら聞いてやるかと思い部屋に上げたが、それが間違いだった。


 ソイツは俺に言ったんだ。自分が総帝だと。


 敢えてその時の俺の感情は語らないが、それでソイツへの恨みや妬みは憎悪へ変わった。


 そのクソ腹立つクソ野郎の名前はフォルティス・サクリフィス。

 俺の宿敵とも言える殺したいほど腹の立つソイツはつまり、コイツだ!!」



 語りに合わせて敢えて遅く切っていた。

 だから言い切るのと同時に切断されたフード付きフルフェイスヘルムを取ってやれば、衆目に総帝フォルティス・サクリフィスの顔が曝け出された。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る