「ぶっ殺してぇ……」


 「トモダチ、ね……」


 「あれ、乗り気じゃない?」


 「乗り気じゃないとかそういうこと以前にって話だ」


 「?」


 「アンタの身の上話は聞いた。その前には俺も理由はどうあれ話した。それを理解した上で聞くが、なんで俺がアンタと友達になれるって発想が湧いて来るんだ?あの話の中にそんな話に繋がるような話が有ったか?」


 ここまで言えば俺が何を言いたいのかは伝わったらしく、魔王は手の平をもう片方の手で槌でも打つように叩いた。


 「あ、なるほど。つまり少年は友達の作り方や定義がわからないから、なんなら友達なんて居ないから戸惑ってるってことか」


 「言葉選びにかなりトゲが有るな。それに全部事実だが微妙にそこに含まれてるニュアンスがちげぇよ」


 「アハハ、恥ずかしがらなくて良いんだぜ少年。なんなら俺も少年が初の友達だ!」


 「友達になった覚えもねぇし、そんな悲しい事実を聞いた覚えもねぇよ」



 なんだろうか、最初の圧倒的な、それこそ絶対的な生物としての王のような威厳はもはや無い。今はなんだか少しめんどくさい絡みをしてくる友人のような感じだ。


 本当になんなんだろうかこの魔王は。何がしたいんだろうか。

 本当に言葉通りなら俺と友達になりたいらしいが、何故そう思うに至ったのか本当にわからない。何がしたいんだろうかこの魔王は。



 「少年は何故俺が少年の友達になりたいかわからないんだよね?一言で言えば見たいんだよ俺は」


 「は?」


 「見たいのさ!少年が妹のお気に入りを相手に、その少ない魔力と才能で何処まで足掻き勝利するのか!それを俺は特等席で見たいのさ!」



 自分の額にシワが寄るのがわかった。

 この男は俺を見世物か何かと思ってるのだろうか。何よりそんな話を聞かされて、俺が友達になると本当に思っているんだろうか?もしも思ってるのなら距離感おかしいだろ。ヘタクソか。


 「当然他にも理由は有る。俺は少年視点で言えば恐らく総帝と同じ部類の存在だ。そして妹はどちらかと言えば少年寄りの存在だ。そんな妹が兄と同じ部類の人間に手を出した。

 恐らくその力を得るのも目的の1つなんだろうね。


 しかしそれは本来禁忌だ。もう1度言おう、禁忌だ。自身の属性を、創造や破壊を、貸し与えること事態は行っても良い。しかしそれは必ず貸し与えたものが死ぬ前に回収しなければならない。なんなら貸し与えるのももっと限定的でないとならない。

 にも関わらず妹は幼少期から総帝に憑いてる。これは明らかに禁忌だ。

 妹が禁忌を犯したならば、それを止めるのは兄である俺の役目だ。


 それに、なんだ、妹はその、少々、というかかなりヒステリックで感情的で考え無しな奴でね、恐らく今回のことも考え無しだろうし、その割を喰ったのは間違いなく少年だ。だからその尻拭いというか、罪滅ぼしも兼ねていてね」



 なんかまた1人で語り出したかと思えば、またまたとんでもないことを聞かされた。いちいちスケールがデカい。


 しかし、そうか。俺がこんな環境に身を置いているのはあのクソ野郎の存在が大元の原因だと思っていたが、魔王の妹のせいでもある可能性があるのか。


 それは、なんと言うか、



 「ぶっ殺してぇ……」



 自然と言葉が溢れ出た。



 「ははは、そりゃまぁ少年からすればそうだろうね。なんせ少年が今の少年になった原因の1つなんだからそりゃ殺意が湧くだろうさ。


 ……少年の環境はね、恐らくだが、妹から見た世界なんだよ。例えばご飯の話。彼女はしっかり俺達と一緒に机を囲んで一緒にご飯を同じ量食べていた。でも妹には満足に食べ物を与えられてなかったってことなんだろう。

 例えば魔力量。妹は正直俺より魔力量が多い。にも関わらず、その他の部分が俺の方が出来るから、自分の魔力量は極端に少ないと思い込んでる。

 例えば妹は自分を頭が良い。動けると思ってる。実際は…、あー…、どうしようもないレベルだが、なんなら体に関しては太ってるが、自分は頭が良くてスタイルが良くて動けると思ってる。


 とまぁ、他にも色々有るが挙げたらキリが無い。そういう訳で、俺は少年と友達になりたい訳だ。言い方を変えるなら、同じ妹の被害者同盟とでも言えば納得出来るかな?」



 そこまで話されて、ようやく魔王が俺と友達になれるとか思ったのかがわかった。魔王の言う通り、被害者同盟と言われればしっくり来る。そこから友情が芽生えることは有るだろう。なるほどだから友達か。言いたいことはわかった。


 だがやはり納得出来ない部分が有る。


 「なぁ、アンタが妹をどうにかしたいってのはよーくわかった。だけどやっぱり、そこに俺をなんで巻き込むのかが理解出来ない。

 それは何処まで行ってもアンタ個人の都合だ。俺には関係無い。もしも俺に協力させたいなら何かしらのメリットを提示してくれ。このまま生きて帰った場合の俺にとってのメリットを提示してくれ。俺に、アンタと定期的に関わり続けるだけの余裕は無い」


 魔王は俺の言葉を聞いて何も反応をしなかった。ただジッと俺の目を見詰めて来た。

 特に外す理由も無いし、何故だかこれに応じないとダメだと思ったから俺も見詰め返した。


 どれだけ見詰め合っていたかはわからないが、先に視線を外したのは魔王の方だった。

 彼は何処か呆れた様子で溜め息を吐いたあと、こう提案してきた。


 「少年の言いたいことはわかった。俺からすれば別に少年じゃなくても良い訳だけど、今後一生を掛けても少年のような意志力を持つ存在と会う可能性はほぼ無いだろう。


 良いよ。少年の望み通り、少年にとって為になる時間を提供しようじゃないか。


 まずは知識。たぶんだけど、大半の魔法やそれに関する歴史や技術の多くが失われてるように思う。これは少年の話を聞いての推測だから、もしかしたら国の中枢に居るような奴等なら知ってるかもしれないけど、そんな失われたであろう知識の数々を知ってる範囲でいくらでも教えよう。

 次に戦い方。少年は恐らく独学で今の強さを手に入れたんだろうけど、それも結構頭打ちになってきてるんじゃないかい?俺ならそんな少年の悩みを解消してやろう。例えば俺との模擬戦をやりたいだけとかな。


 あとは、そうだな。少年の欲しい薬草も可能な限り提供しようじゃないか。


 とまぁ、取り敢えずこんなところでどうだい?」



 …………。



 「改めて聞くが、なんで俺なんだ。俺より才能が有って強い奴なんていくらでも居るだろう。そんな中で何故俺なんだ。

 アンタは肝心な部分を何も話してない。意志力がどうとかはただの方便で建前だ。その後のメリットについては俺が言ったって言うのも理由だろうが完全に取って付けたようなものだ。薬草とかの提供とかいうのがまさにソレだ。アンタになんのメリットも無い。にも関わらず俺を選ぶってことは他に理由が有る訳だ。そこを教えてくれ。じゃないと、例えここで殺されるとわかってても首を縦には振れない」



 そこまで言うと、魔王は今度こそ参ったと言わんばかりに両手を挙げ、そのあとパチパチと手を叩いた。



 「少年はかなりサディスティックなんだなぁ。ここまで天魔の魔王の秘密を暴こうと、その心内をある程度察しているだろうに本人に言わせるなんて、かなり攻めっ気が強いな……」


 「大事なことほど言語化したりされたり形に残さないと気が済まない質なモンでね、俺にとってそこは何よりも重要だ」


 「なるほどねぇ…。良いよ、わかった。今度こそ誤魔化さずに答えよう。


 と言っても最初に言った通りさ、単純に少年が気に入ったんだよ。それで友達になりたいと思った。それだけさ。理由は面白いから。少年という才能が有るにも関わらずその分野では勝負せず、相手の得意分野で抜いてやろうっていうハングリー精神が物凄く気に入った。足りない部分を得意分野で補って、必死に足掻く姿を想像しただけで胸が踊る。

 『コイツの行く末を見たい』と心の底から思った。そのために必要そうなことは協力しようと思った。


 だから少年なのさ。満足してもらえたかな?」



 言ってることはほとんど変わってない。ただこれ以上深掘りしても例え他に何か理由や思惑が有っても出てこないだろうこともわかった。

 それに魔王の提示した俺のメリットは確かに魅力的だ。目的も、妹をどうにかしたいってのと俺の行く末を見たいってことでハッキリしてる。


 ……………。


 本当は、

 本当は何もかもを1人でこなして、その上で奴を越えたかった。だけど最近伸び悩んでることも事実だ。


 …………。



 「サース・ハザード。いずれ幼馴染みの総帝をぶっ倒す予定の一般人だ」


 「サースね、よろしくサース。改めて、俺は天魔の魔王だ。

 残念ながら俺に名前は無い。両親からなんて呼ばれてたかももう忘れた。魔王でも天魔でも好きに呼んでくれ」



 色々思うところが無い訳ではないが、この時俺はマー君からの申し出を受けた。

 たぶん、というか絶対。絶対この時のマー君からの申し出を受けてなければ今の俺は無かっただろうし、何より既に死んでた可能性が有る。何より生涯唯一無二の親友が出来ることも無かったと思う。



 これが俺とマー君との最初の思い出。



 ●  ●  ●  ●  ●


 書き置きが底を尽きました。

 次ページからは1ページ最低文字数での更新が続く可能性が有ります。

 予め御了承ください。


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