「今のアンタの目的は?」
目が覚めると、廃れてはいるが何処か豪華な雰囲気がする部屋の恐らくベッドの上だった。
状況がわからず起き上がろうとすればすぐに起き上がれたが、しかしこれまたすぐにクラクラして再びベッドに体を預けることとなった。
思うように動けないのなら仕方がないと、目だけ動かし状況を改めて確認すれば、ベッドの横、すぐ隣に例の男が居た。男はとても愉快そうにニヤニヤとした笑みを浮かべ俺の様子を観察しているようだった。
「殺すんじゃなかったのかよ」
「誰が少年を殺すなんて言ったんだ?少年の勝手な妄想だろう」
言われて記憶を掘り返してみれば、確かに目の前の男が俺を殺すなんてことは言ってなかった。勝手に俺がそう勘違いしただけだった。
しかし、だ。
「刺した筈の短剣が自分に突き刺さるとか絶対有り得ないだろ。アンタがなんかやった以外考えられないよ」
「そう思い込んでるだけで、本当は本当に少年自身が無意識の内に自分を刺してたかもしれないだろ?その可能性を何故考えない?」
「仮に俺の考えが妄想で、アンタの言う通りアンタは何もやってなかったとしても、結果的に俺は自分を刺してる。なら治療の手立てが無い俺にはどちらにせよ助かる見込みは無かったと思うが?」
「でも現に少年はこうして、少年の持っていたポーションを使って俺に治療されて生きている。少年の持っていたポーションにそれだけの力が有ったってことだ。なら冷静になって飲んでれば良かっただけの話じゃないか?」
「アンタがそれを許したのかよ?」
返ってきたのは道化のような笑みだけだった。
「そのカオと沈黙ってことは当たってんじゃねぇか。なら結局、俺に出来ることなんて僅かだったってことだ」
そう言って男から視線を外し、所々剥げた天井を見上げた。
特に意味はない。ただ男と目線を合わせるのが億劫になっただけだった。
「少年は半日ほど寝ていたよ。あぁ、この部屋は旧城主の寝室だ。マトモなベッドが残ってるのはここだけだったんだよ」
聞いてもない、しかし知りたかった情報をサラッと口にする男。
それからも男はこちらが聞いてもないのに色んなことを話し始めた。
何故このプラムの城へ来ているのか、そこで何をしていたのか、果てには男自身の身の上話まで。
男の言葉を信じるのなら半日前に俺がやったことを今度は男がやった。
目的や知りたいとも思わなかった男の身の上話を聞き続けることで、色々謎が解けた。
まず男の目的は情報収集と過去に人族に貸した物を回収しに来たとのことだった。
前者は俺の話で、後者はこの廃城に来た時点で達成されたらしい。
男はやはりというか、魔王だった。しかも身の上話を聞く限りでは魔族の父と天族の母の間に生まれた存在で、種族で言えば天魔という種族らしかった。あと妹が居るとか。属性は両親の族属性を受け継いで闇と光で、更には創造とかいうあのクソ野郎の破壊と対を為す属性の3つを持ってることがわかった。そして妹は破壊属性とも。
あぁ、まさにあのクソ野郎は魔王と対を為す存在なんだと改めて突き付けられてるような気がして、その天魔の妹とかいう存在も破壊属性ということで一瞬頭の中が怒りで真っ白になったが、それだけで収まるように我慢した。しかし、続くそもそも創造属性と破壊属性とはどういう物なのかという話を聞かされた時、思わず舌打ちしてしまったのは誰に乞う訳でもないが許してほしかった。
内容はこうだ。
元々創造属性も破壊属性も天族の支配者層(人界で言う王皇貴族のこと)達が用いる属性で、そもそも人族には絶対発現しないこと。魔王の母親は2つとも持っていて、そんな母親と出会った魔王の父親は魔王の母親に力とか関係無く一目惚れ。そのまま天族の居る天界に殴り込み魔王の母親を掻っ攫った。そうして生まれたのが魔王とその妹。生まれた2人は、兄が魔族寄りで創造の力を、妹は天族寄りで破壊の力を持っていた。だからそのまま兄は天魔に於ける成人後は魔界で、妹は天界で過ごすこととなった。
話の内容が壮大なようで、話されてる内容はただの魔王の両親の馴れ初めだったため至極どうでも良かったが、俺が舌打ちした理由はここからだった。
さっきも述べたが、そもそも天族の支配者層の特権とも言うべき属性が創造と破壊だった。2つを同時に持ってることこそが天界での支配者層の証明だった。その証明を魔族の身で半分だけでも継承したのが魔王で、半分魔族の血が流れてるために半分しか継承出来なかったのが妹だった。
そしてこの力は、己が気に入った物に一時貸し与えることが出来るとかいう訳のわからないものらしい。
なんとも都合の良い話だと思うが、この気に入られた存在は親しき者の証明である指輪は一生何があってもすることは叶わないが、死後その魂は貸し与えたが滅びるまで一緒に居るのだとか。
今代の総帝であるフォルティス・サクリフィスが破壊属性を使えるのは、十中八九魔王の妹があのクソ野郎に憑いてるかららしい。だから奴は基本属性を全て使えるし、破壊属性を持っているんだと説明された。
事実がどうかはわからない。
わからないが、少なくともやはり奴はトクベツらしい。
1回ぐらい舌打ちしても罰は当たらないと思う。
これを聞かされた俺の心はより荒れた。思わず舌打ちをして、血が抜けて弱った体なりに自身の寝るベッドに拳を叩き落としたが、仕方がなかった。
そこでふと、1つのことに気付いた。
何故魔王が俺を生かしたかだ。
魔王は最初、あのクソ野郎やサクラ共和国のことについてだけ聞いてきた。そしてそれを話し終えたあと、さぁいよいよ完全に意識が遠退き死ぬって時に無理矢理意識を覚醒させられて、俺の個人的な感情のことを聞いてきた。
魔王にとって、俺の感情のことなんて至極どうでも良い筈だ。これまで一切関わりの無かった魔王の身の上話なんて至極どうでも良い。他人の身の上話ほどどうでも良いものはない。それを散々今聞かされた俺が言うんだ、魔王も同じ筈だ。
しかし魔王はそこに興味を示した。
魔王を見る。
「やっと話が出来そうだね少年」
俺が思い至ったことに気付いたであろう魔王の口から出た言葉はそれだった。
横になることである程度マシになった体を無理矢理起こし魔王を見詰める。
あのクソ野郎とはベクトルは違うが、この魔王も魔王で美形だ。ワイルド系ではないが男らしい顔をしてる。
そんな魔王の目を見ながら聞いた。
「今のアンタの目的は?」
魔王はその問いに胸の前で小さく拍手をしたあとこう言った。
「俺はね、思うんだ。たぶん俺達、指輪が生まれるほどじゃないにしろ、友達になれんじゃないかって」
● ● ● ● ●
今回の話の1番おかしな点は、魔王の父親は決して先代魔王だとか先々代魔王だったというわけではなかったという点です。
はい、魔王の父親はただの一般魔族でした。それを人界で一目見て惚れた魔王の母親への愛の力だけで天界に殴り込み、そして彼女の身内とも『話し合い』をし、彼女を嫁として魔界に連れ帰った傑物が魔王の父親です。
もう1度言います。
魔王の父親は特殊な血筋とかそういうのが一切無い本当にただの一般的な魔族です。
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