第7話 系譜

 当主様の力と同等……。

 それが共に肩を並べる立ち位置なら、恐れる事などないだろう。

 だが、相対するのであれば、不安要素でしかない。


「なあ……あの時……水景 瑜伽だから准胝じゅんでい観音の真言を使ったんだろ」

 回向は、ああ、と頷くと、言葉を返す。

「六字河臨法か……。その名の通り、六観音の真言を使う。確かにその中には、准胝観音ではなく、不空羂索ふくうけんじゃく観音の真言を使うものがあるが……成程。処は分かれるが、それは当然、同等のものだ」

 ……という事は……。

 僕の抱えた不安を、回向は言葉に表した。

「総代が役を解かれた今……表に出て来るだろうな」

「神祇伯は、その境界は既に分かっているはずだ。それなのに何故……」

「排除って事か? そうは言っても、明らかに敵意剥き出しなら、その方向にもなるだろうが……なあ、紫条。お前さ……相性合わないと思っても、付き合わざるを得ない状況って分かるか?」

 回向のその言葉に、羽矢さんが笑い出した。

「ほらな? 問題ねえだろ?」

「羽矢……お前な……」

 蓮は、不愉快そうに顔を歪めたが、ハッとした顔を見せる。


「おい……それって……」

 蓮は羽矢さんをじっと見つめる。

 何かに気づいた蓮の目線を羽矢さんは、言葉を返さず、真っ直ぐに受け止めていた。

 その様子に怪訝な顔を見せる回向。

「なんだ……? お前ら……」

 蓮と羽矢さんを交互に見る回向だったが、二人が目線を合わせたままでいる事に、眉を顰める。

 回向が怪訝な表情をする中、羽矢さんは回向の肩にポンと手を置いた。だが、目線は蓮の方だ。

 蓮の目をじっと捉えながら羽矢さんは、口を開いた。


「そいつにしか出来ねえもん、持ってるって事だろ」


 羽矢さんの言葉に蓮は、不快に顔を歪めた。

 蓮は、長い溜息をつくと、羽矢さんと同じに、回向の肩に手を置いた。

「……なんなんだよ……お前ら……?」

「やっぱりいいや……さっきの死口の話」

「あ?」

 回向の表情が不機嫌さを見せる。

「悪かった……邪魔したな」

 蓮は、回向から手を下ろすと、歩を進め始める。

 羽矢さんは、少し困った表情を見せながら、羽矢さんも回向の肩から手を下ろした。

 回向は、訳が分からずといった様子だったが、それ以前に気づいていたものがあったのだろう。


「紫条!」

 蓮が足を止めて振り向くと、回向は蓮に伝える。

「氏族ってな……祖神あってのものなんだよ」

 回向の言葉に、蓮は回向へと真っ直ぐに体を向き直した。

 蓮は、一直線上に立つ回向の言葉の続きを、待っているようだった。


「天と地を分け、それぞれに神が住み、地を与えられた神は、その地を国と称して統治する……そして、その地を統治する神には、統治を補佐する神を置く。それが氏族だ。だが……」

 回向の言葉を聞きながら、蓮が引き返して来る。

 一歩一歩、ゆっくりと地を踏み締める足は、回向が話す言葉に納得を示しているようだった。

 そして、回向も歩を踏み出し、蓮との距離を縮めていく。

 擦れ違う瞬間に、二人は同時に足を止めた。

 蓮と回向は、互いを振り向く事なく、自分が向いた方向に目線を向けている。


 回向の言葉を真横で聞く蓮は、目線を変えず、呟くように言った。


「……物語……か」

「ああ……そうだ」

 蓮は、目を伏せ、ふうっと息をつくと、空を見上げた。

「その物語……聞く意味はあるよな……?」

「ふん……意味も何も、それこそが証明そのものなんだよ。そこになぞらえているんだからな」

 そう言って回向は、蓮を振り向く。


 そして、続けた言葉に蓮は、そうだなと呟き、ふっと笑みを見せた。


「神には系譜が付きものだ。そうだろう?」

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