第6話 同等

「両統迭立だと言うなら、それも分かり易い話になるだろ」

 蓮の言葉に回向は、納得を示す。

「まあ……そうだな。国主の家系が二つに分かれ、それぞれに臣下が揃っていると言ってもいい訳だな……」

 蓮は、回向の反応を見ながら、話を続けた。


「迭立ならば、各系統交互に即位させるが、だがそれも一系統、直系への独占に変える流れにはなっていたはずだ。そう考えれば、来生は当然、邪魔な存在であり、右京もまた同然だ。独占の流れが自然になるよう、中継なかつぎ的に来生の弟が即位し、逝去すればこの系統に後継はいない。どういう経緯かは知らないが、来生は継承権を失っていた訳だから、右京もいなくなれば、もう一方の系統が継承権を独占出来るという訳だろ。そしてそこからは、完全にその系統の直系になる」

「そんな話になるのも、曖昧さの結果だ。国主の家系を二つに分けた事が、曖昧な判断だったと俺は思うよ。それが争いを生むんだからな」

 回向はそう答えると、気鬱そうに溜息を漏らした。


「曖昧ねえ……敵か味方かも区別出来ない程に……か?」

 蓮のその言葉に、互いの目線が重なったまま、止まった。

「臨時祭を執り行う前に、神祇伯……回向、お前の父親に訊かれたよ。参列した者たちの境界を見抜けるかと」

「……そうか」

「お前だってそれに気づいていたから、目を見張らせていたんだろ? 確実に事が起きると知っていたんだからな。お前はその境界……つまりは二つに分かれた国主の系統を見抜いていた……そうだろう?」

「……ああ、まあな」

「それに……祖神おやがみだ。それがお前の言った、必要な物語だろ」

「ああ。神は多数いても構わない、だが、この上ない神はたった一つである事……それが天孫降臨に於いても必要なものだ」

「来生は何故、継承権を失ったか知っているか? 高宮から聞いた事はないのか」

「そうは言っても、かなり以前の話だからな……右京も俺も、まだガキの頃の話で、そもそも、物心ついた頃から、右京は神社にいたんだからな。まさか自分が国主の家系だとは思いもしなかっただろうよ。そういった話なら、総代の方がもう少し詳しい事、知っているんじゃないのか?」

 回向の言葉に、蓮の表情が翳る。それは僕も同じだった。


「……どうした……紫条……?」

 蓮の表情の変化に、回向は真顔になる。

「……消えないんだよ」

 呟くように言った蓮に、回向は何がと訊ねる。

「鱗の痣が消えていないんだ」

 そう答えた蓮に回向は、表情を曇らせた。

「おい……それって……あの時、河原で人形に移したんじゃなかったのかよ……それは親父が河原に沈めただろ……」

「邪は邪に返る……呪詛返しは呪詛を行った者に返るんだ。分かるか……? 呪詛返しを受けても、返された呪詛を自身に受ける手前で、留まらせている……邪が返れば、痣も消える。それが消えないんだから、そういう事だ」

「それで……? 総代は?」

「痣は呪詛を行った者との媒介のようなものだ。それは呪詛の痕跡であり、それを辿って呪詛を行った者に辿り着く……」

「それが……辿り着けていないと……? いや……ちょっと待て……違うな。媒介って事は、互いに辿り着けるよな」

「互いに引き合っている……と言ったら、どう思う?」

 蓮と回向の目線が、少し強張った表情を見せて重なった。


 僅かにも震える回向の声が、不安をもって流れた。


「総代と……その力が……同等だと言うのか……?」

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