第12話

アヤの部屋に行くようになっても、アヤと俺の関係は進展しない…。


夜になると店で飲み、店が上がり、アヤが断りきれないアフター以外はアヤと朝まで一緒に過ごす…。


「ねぇ…ぐりっち…もう、一緒に暮らそうよ…」


「ダメだな」


「だって、アフターに行く時は、ぐりっち、来てくれないでしよ?」


「あぁ…行かないな」


「アフター終わって部屋に着くと、ぐりっち居ないから、泣いちゃうんだ…」


「ふ〜ん…」


「ふ〜んって、ヒドくない?」


「最近さぁ…みほがしつこいんだよ…アヤがアフターの時、自分もどっかへ連れて行けってさぁ…」


「で、行くの?」


「2人では行かないよ、残ってる娘達にも声を掛けて、皆で行くようにしているよ…」


「ふ〜ん…」


「って、お前だって、ふ〜ん…じゃん…まぁ、いい…」


「で?」


「なんか、説明するの面倒くさくなった…兎に角、俺は、みほの事は店だけでいいってことだよ」


アヤは、自分が他の卓に着いて、みほがぐりっちの隣に座っている時は、本当は気が気でなかった。


ぐりっちに寄り添って、献身的な振る舞い、飽きさせない会話、自然なボディタッチ…流石は、みほ…ぐりっちも優しく微笑んでいる…。


こんな接客されたら、誰だってみほに堕ちて行く…。


「ぐりっち…みほさんねぇさんには何の想いも無いの?店では、あんなに優しい顔、ねぇさんに向けてるじゃん…」


「そっか?」


「そうだよ~なんか、ムカつく!」


「おっ!ジェラシーか?」


「バカ!ホントに何とも想って無いの?」


「バカだなぁ…みほも他の娘も俺には一緒だよ…」


「ホント?じゃあたしは?」


「教えない…」


「バカバカ!」


アヤは薄っすら涙を溜めた…。


「ヤキモチ妬くなよ…アヤはもう、俺の中では特別だ…そうじゃなきゃ、部屋に来ないよ…」



どうして俺なんだ?

俺なんかで良いのか?


いや…違う…。

今まで、自分に問うた答えがやっと出た…。


俺がアヤを好きになった…。

俺がアヤに惚れていたんだ…。


初めて俺からアヤへ口付けた…。



長く長い口吻の後、アヤは俺に話をする。


「ぐりっち…あたし、まだキャバ辞めれないって言ったよね…あれはあたしの父親の借金返しているんだよ…あたしの実家は食べ物屋の店をやってて、それが潰れて借金だけ残った…でも、先が見えてきたんだ…後1年…1年頑張れば、返し終わる…」


「やはり、そんな事だっのか…何で俺に言わない?俺が綺麗にしてやるよ…」


「それじゃダメなんだよ…親の事はあたしがケジメをつけないと…だから、1年待ってて欲しい…あたしは、キャバを辞めるから…そしたら、あたしと一緒に暮して…」


「判った…1年待つよ…だけど」


「だけど?」


「俺は今からお前と暮らす…店ではお前ひとりの客になる…飛びっきりの客になり、お前のランクは落とさない…それはお前の為だけじゃない…俺はお前に惚れたから、俺の為にもお前を守る…」




アヤと俺の前にはひとつのグラス…。


中には、俺の好みのバーボンと丸い氷が1個だけ…。


それは、誓いの固めの杯…。


ふたりで持って、ふたりで飲み干し、そして、ふたりは結ばれた…。


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グラスの中 ぐり吉たま吉 @samnokaori

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