第11話

エレベーターの5階を押して、扉を開く。


行きつけのカウンターバー…。


席に座ると、馴染みのマスターが俺の前ににグラスを置く…。


「はい、オールドクロウのロックね…」


グラスを前に、手もつけない…。


最近、ひとりの時間には、いつもアヤのことばかり考える様になる…。


アヤはどう言う訳か判らないが、店はまだ辞めれないと言う…。


横浜の夜の街で働く娘達は、皆、何かを背負い込んで、誰にも媚びす、身体を張って生きている…。



だから、手助けするのは簡単だけど、俺は彼女達を見守りたい。


アヤも、そう…。

決して俺には助けを求めない…。

銭金の事ならば、自分の技量で終わらせる…。


アヤは俺を好いていると言う…。

俺を自宅に招き入れ、一緒に過ごし、俺に金をなるべく使わせない。


アヤの部屋では、食費、酒代、俺の着替えまで全部アヤが支払っている。


これでなんでも払えよと、俺の財布を手渡すと、怒って俺に突き返す…。


「バカー!!」


「ぐりっちは、ここではお客じゃないんだよ!あたしの彼氏なんだから…そんなお金は飲んで遊びに使いなよ!」



アヤはただ、俺と一緒に居たいだけ、俺と一緒に眠りたいだけと涙を流す…。



何で俺なんだ…?

父親ほどの歳も違う…見た目も全て、アヤにはそぐわない…。


アヤは俺に抱いてと言う…。

俺は、引退するまでしないと言う…。


俺は意地になっているのか?

アヤの気持ちを弄ぶだけなのか?


売れっ子のアヤに俺が付いたなら、アヤの人気は下がるだろう…俺が居たならアヤの仕事の邪魔になる…。


だから、忍んで部屋に行く…。

だけど、忍んでアヤに逢う…。


アヤ…解らない…解らないよ…。




前のグラスがカタンと鳴いた…。

グラスを傾け、そっと置いた…。


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