第9話


バスタオル1枚のまま、布団の中に潜り込んだ隣に俺は、部屋の灯りを着けたまま、布団を少し持ち上げて、するりと静かに横たわる…。


そして、アヤのうなじの下に腕をそっと押し滑らせた。


アヤは、布団を少し下げ、俺の胸へ頭を乗せる。


「ねぇ…ぐりっち…」


「なんだよ…」


「私さぁ…なんでキャバ辞めないと思う?」


「さぁ…なんでかな?」


「うん…仕事が好きだからかな?」

「自分の店を持ちたいからかな?」



「そっか…」


俺は天井の灯りを見つめ、アヤの話を聞いている。


「それも、これも辞めない理由だけど…」


「ホントの理由が他にもあるのか?」


「うん…」


「まぁ、話したくなったら話せばいい…」


「もう少ししたら、ちゃんと話すから、ちゃんと聞いてね…」


アヤはそう言うと俺のパジャマの胸で瞳を擦った…。


パジャマは少し濡れていた…。


「アヤ…」


名前を呼ぶとアヤは無理矢理笑顔を作り、少し戯けて、パジャマの上から俺の胸を噛む…。


「痛えな…」


「だって、ぐりっち、天井ばかり見て、私の方、向かないんだもん」


俺はまた、腕枕をし、少しだけアヤへ顔を向けた。


すっぴんのアヤの顔は幼女みたいにあどけなく、灯りに照らされとても可愛い。


「アヤ…俺は化粧のアヤより素顔のアヤが好きだぜ」


「嬉しい!ぐりっち!口説きに入った?もっと、口説いて…」


「ば〜か…口説いてなんかいねぇよ…」


「でも、ぐりっちに素顔を褒められると本当に嬉しい…キャバ嬢のアヤじゃなくて、ホントの私を見てくれてるから…」


「バカだなぁ…今のアヤも店のアヤもおんなじアヤだぜ」


「それでも嬉しいの!」


アヤがベッドから立ち上がり、少し乱れたバスタオルを直し、クローゼットからパジャマを取り出すと、ハラリとバスタオルを投げ捨て、下着も着けずにパジャマを羽織る…。


アヤの白い小振りなヒップが俺の目に焼きついた…。


「ぐりっち、まだビール、飲むでしょ?」


そう言いつつ、アヤは小さなテーブルを枕元へ引っ張って、ビールとひとつのグラス…そして、俺のタバコをテーブルに置いた。


また、アヤが俺の隣に滑り込むと、うつ伏せになり、空のグラスにビールを注ぐのを横目で眺め、俺はベッドに腰掛ける。


うつ伏せのまま、アヤから渡されたグラスでひと口飲むと、俺はタバコに火を着けた…。


その俺の仕草を見ていたアヤが、突然、ガバっと起き上がり、俺を後から抱き締めて、俺の肩にアヤは顔を乗せた。


「ねぇぐりっち…私にもひと口…口移しで…」


「バーカ」


俺は肩越しにグラスを渡す。


アヤはゴクンとひと口飲む…。


「あはは、ぐりっちと間接キッスだね」


「バカだなぁ…キスぐらい、店で何度もしてるだろ?」


「あんなの誰とでもしている、ご挨拶のチュ〜じゃん!ホントの私だけのキスが欲しいんだよ!…ねぇ、ぐりっち、私にはキスしてくれないの…?」


アヤの瞳が潤んでいた…。


「しない…」


しないよ…と、言う前にクルリとアヤは回り込み、俺の膝に座るや否や、俺の首に両腕を回し、俺に強く口づけた。


俺の唇を強引に押し開き、アヤの甘い舌が入って来た。


執拗に俺の舌を絡め取り、長く甘い口づけだった…。


「ぐりっちのキスを奪ってやったぜ!」


アヤは戯けた…。

しかし、目は真剣だった。


それを察した…だがあえて今度は俺が戯けてみせる。


「やりやがったな〜、ならこうしてやる〜」


アヤをベッドに推し倒し、目を瞑り、期待で待つアヤのホッペを口をすぼめ、強めに吸い付いた。


「アヤのホッペ、喰ってやったぜ!」


アヤは起き上がり、俺の胸をひとつ叩き、


「も〜…跡が残るでしょ?」


「跡なんか残すヘマなんかする訳ないだろ?それに、気になるなら、チーク塗って誤魔化せよ」


「えぇ〜、跡、付いてないの〜?付いてたら、ぐりっちにキスマーク付けられたって、みんなに見せびらかすつもりだったのになぁ~」


アヤは俺の上を行く戯けっぷりで、俺の首筋に噛み付いた。


「ぐりっちには、ホントにキスマーク付けちゃった…」


「しょうがないなぁ…つか、俺はキスマーク付けられても、なんも困らん…」


ひとしきり戯れ合った後、灯りを消して、ふたりベッドに横たわる…。


薄暗い闇の中、アヤは俺に囁やいた…。

 

「ねぇぐりっち…ホントに私を抱かないの…」


俺は静かにアヤの唇に指を置いた…。

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