第5話


みほにくちびるを奪われた瞬間、アヤと目が合い、みほの身体を押し戻す。

そして、何事もなかったように、みほに言う。


「あぁ、腹減ったな…寿司でもとってくれないか?他の娘にも食わせてやって…それと…」


「うん、ぐりっちは、いつもの太巻ね」


「うん、頼んだよ…」



みほが寿司屋へ出前の電話をかけている間にアヤが俺の席へやってきた。


こころなしか目が赤く潤んていた。


「バカだなぁ…気にするなよ…」


「だって…」


「とりあえず、笑顔を作れよ…今日もまた、朝まで一緒にいるからさ…」


「ホント?」


「あぁ…でも、また、腕枕で寝るだけだぞ」


「うん、嬉しい…」


やっと、アヤは笑顔になった。


アヤが戻ったので、みほは、他の席についた。

客と話しながらも、俺の方をチラチラ見てる。

俺はジェスチャーでこちらを見るなと伝え、まだ、不安そうなアヤに向かい、こう言った。


「まだ、早い時間で客も少ないから、ヒマしてる女のコ、みんな呼んでよ。寿司を頼んだから、みんなで食おう」



アヤは待機の女のコ達に声をかける。


 「ぐりっちがお寿司、食べなって〜」


頼んだ寿司屋も慣れていて、いつもの注文通りに、四っつの大樽で届いた大量の握りにいつもの俺用の巻寿司。


代るがわる、寿司をつまんで戻って行く。

アヤはすっと俺の隣で座っている。


「ぐり吉さん、ごちそうさま〜」

「ぐりっち、ごちそうさま」


「ごちそうさまの言葉はいらないから、感謝を態度で表してみ」


俺は唇を突き出して、店の女のコ達に、冗談まじりに言ってみる。


「きゃー」


と言いつつも、ごちそうさま、チユっと、俺にキスして、他の卓へ向かった。


今度はアヤもそれをニコニコしながら眺めていた。

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