第4話
約束通り、俺は、早い時間にアヤの勤めている店へ行った。
「いらっしゃ〜い!今日は、早くから来てくれたんだね。」
席へ着くなり、アヤは俺の卓へやって来た。
「約束、守ってくれたんだね」
アヤは、俺の耳元へ近づくと、小声でこう言った。
俺も、小声で受け答える。
「お前の部屋に行ったことを誰かに話したら、もう、俺はこの店には来ないし、
お前の部屋の鍵も返す」
「判っているわよ。内緒ね。でも、あたしの部屋では、あたしの彼氏でいてよ」
「何、ヒソヒソ話しているの?私が来たら、お邪魔かしら?」
俺とアヤの内緒話に、アヤの先輩ホステスにあたる、みほがやって来た。
「おぉ!!みほかぁ。座れ座れ!アヤは、俺には色気無くて駄目だ」
「ひっど〜い!!じゃ、あたしは、ちょっとだけ、他の席に行くから、おねぇさ
んに相手して貰って」
「おぅ!!行け行け!」
アヤの代わりに、みほが俺の隣に座る。
とりあえず、乾杯をし、みほは、俺の太ももへと手を置き、話をする。
「ねぇ、聞いてよ。いつも来る、銀行の支店長とか言ってる、あのハゲ親父いるでしょ?」
「おぅ、常連のあいつだろ?ってか、俺もハゲなんだけど…」
「ぐりっちは、綺麗に剃っているスキンヘッドでしょ。あの人は、生ハゲだから…」
「つか、お前、酷いなぁ…。あの人、すげぇ金使う良い客じゃん。そう言えば、俺の誕生日にあの人も、俺に、花を贈ってくれたしな」
「ほんと!ぐりっちはお客なのに、なんで、ホステスみたいに、他のお客から誕生日にお花贈られるの?訳わかんない!それに、あたしの誕生日の時より、お花、多かったじゃない!」
みほは、そう言うと、俺のももを軽くつねった。
「痛ぇな…。でも、その花を、おまえらキレイって、みんなで分けて持って帰ったじゃんか。まぁ、そんなことより、なんであの人にそんなに怒っているんだ?」
「そうそう、聞いてよ!!昨日ね、早い時間に来たのね。でも、もう、結構酔っていて。座って、いきなり、『乳首当てゲーム!』って、叫んで、まぁ、しょうがないから、ノッてあげたわよ。そ〜っと手を伸ばして、触ってくるって思ったら、いきなり、思い切り私の胸を掴むのよ。もう、痛くって痛くって…」
「まぁ、乳くらい我慢したれよ」
「服の上から、そーっと軽くなら、我慢もするけど、力一杯じゃねぇ…」
俺は、相槌を打ちながら、グラスを空ける。
みほは、俺の水割りを作りながら、さらに話した。
「それでも私は怒らないで、その手を外そうとしたのよ。でも、握り締めたまま離そうとしないで、そのまま、私の耳に顔を寄せて、こんな事言うよ。『なま乳、触らせてくれたら1万、今日、やらせてくれたら、5万払うよ』って…。バカにしてると思わない?」
「それで、どうしたんだ?」
「もちろん、断ったわよ。」
「やらせりゃ良かったじゃん」
みほは、少し、俺にも怒ってこう言った。
「お酒の相手なら、いくらでもするけど、あんな人に身体は売らないし、それに、私だって相手を選ぶ権利あるから。ぐりっちは、私をそんな風にみてたの?」
「あはは。ごめんごめん」
俺は笑って誤魔化した。
「まぁ、帰りに謝って帰ったし、私も事を荒立てなかったけどさぁ、なんだか、悔しくって悔しくって…。」
「そっか…。そんな人には見えなかったけどな。まぁ、みほは、そんだけ魅力的ってことで、もう忘れろよ」
みほは、そう言う俺に、さらに密着し、俺のふとももを擦りながら、耳元で囁いた。
「ぐりっちなら、お金なんかいらない。なま乳、いいよ。えっちもいいよ…。」
困った俺は、その言葉に軽く冗談で返そうとした。
しかし、口を開こうとしたその時に、すばやく、みほは、俺の唇に自分の唇を重ねた。
一瞬の出来事だった。
しかし、その、一瞬に、俺とみほを見つめていた、アヤの目と俺の目が合った。
アヤは、唇を噛み締めて、俺とみほを見つめていた。
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