4-5 予知


 玉藻前たまものまえの封印された、可愛らしいページを眺める。

「あのー。ずっと思ってたんですけど、何で絵巻これに入ると、みんな『サンリオ』みたいなゆるカワな絵柄になるんですか?

 普通、百鬼絵巻と言ったら『ザ・妖怪!』って感じの、水墨画的なイメージなんですけど?」

 百鬼絵巻のイラストを見ながら、守は以前から気になっていた疑問を尋ねる。

 すると天は「ふむ…」と声を漏らし、どう説明しようかと思案する。

「…以前にもお話ししましたが…、我々妖怪の姿形すがたかたちは、その時代に合わせて変化してゆきます。ですから、この絵巻が作られた当初は、守のおっしゃる通り、水墨画で描かれていましたよ。

 しかし現代は『多様性』の時代なので、ジェンダーレスを狙ってのデフォルメ…つまり、『サンリオ』です!」

「……ほう?」

「人間だって、お洋服とか髪型とか、流行りに合わせて変えてみたりするでしょ?それと一緒だよ!ちなみに今回の僕たちのテーマは、『黒を基調としてカッコよく、それぞれ好きな差し色で個性出してみました!』って感じだよ!」

「こっちだって色々と空気読んで、時代ごとに頑張ってんだよ。察しろや!」

「なるほどです…」

 ジェンダーレスでサンリオ…のくだりは謎ではあるが、水墨画の時代もあったという事なので、納得することにしよう。

 だがそれよりも、守にはもう一つ気になっている事がある。

「皆さんも、一度入ったりできませんか?」

 彼らが絵巻に描かれた際の、『サンリオ化』した姿をぜひとも見てみたい。

「出来ますよ」

 すると、その申し出は思いの外、あっさりと承諾された。そしてすぐさま、彼らは目の前から姿を消し、代わりに百鬼絵巻が光を放つ。


 それではいざ、ご対面!


「どれどれ〜、あ!やっぱり可愛い!」

 最初に見つけたのは水だった。

 彼は片手を上げてウィンクをしている。前に見せてくれた、『水妖術みずようじゅつ』を使う時のポーズのようだ。可愛いの一言である。

「次は…あったあった、藤さん。わー、イラかわいいー」

 最初に言っておくが、イラかわいいとは『イラッとするけどかわいい』の略である。

「何このポーズ?これで可愛いのすごいな」

 彼は、両手の人差し指をツノに見立て、頭ににょきっと当てた、いわゆる『鬼のポーズ』をしている。しかも満面の笑顔で。こんなに可愛いヤンキーが存在していいのだろうか。

「さてさて、天さんは……こ、これは!!」

 そして早々にめくったページの先で、天の姿を見つけた。彼は両手を横にめいっぱいに広げ、足も肩幅よりも大きく開いて立っていた。

 よく見ると、天狗が持つとされる『錫杖しゃくじょう』を頭の上に乗せている。

「…これってもしかして、『天』ってやりたかったのかな?ふっ、かわいいっ。『尊い』ってこういう事か…くっ…」

 イラストだと、錫杖が細すぎて『大』にしか見えない。だが、そこがまた可愛らしいポイントである。もしも狙ってやっているのだとしたら、これはかなりあざとい。

 三人とも見終えての感想は、とりあえずサンリオは可愛いという事だった。

 そして一言、これだけはどうしても言わせてもらいたい。


「『激レア』お前らなんかい!!」


 その声を合図に、三人はスタッと絵巻から戻ってきた。

「言ってませんでしたっけ?」

 そして悪びれもせず、爽やかな笑顔を向けてくる天。

「聞いてません!…あ、でもまだシークレットが残ってますね?最後に一つしかないし…ここは誰なんですか?」

 守がそう尋ねると、彼はたっぷりとした沈黙の後に、こう言った。

「……さぁ?」

 天は変わらぬ笑顔でそう言うものの、よく見ると、どこか眉を落としているようにも感じる。こういう時、彼はいつも答えをはぐらかす。そして守もまた、この顔をする天には、それ以上、答えを求める気にはなれないのだ。

「あ!人気の秘訣、聞き忘れたな!」

 するとその時、藤の騒がしい声が聞こえてきた。そのおかげで、守と天の間に流れていた、どこか湿った空気が晴れてゆく。

「じゃあ代わりに、件ちゃんに守の行末ゆくすえを見てもらおうよ!」

「お、いいな?お願いしてもいいか?」

 そして気が付けば、なぜか自分の未来を見てもらう流れとなっていた。

「もちろんですよ!では、いきます」

「え?待って心の準備が…」

 そんな守の制止を待たずして、牛耳の美少女は守の未来予知を開始する。

「よいしょっと!」

 彼女はどこからともなく、音楽プレイヤーを持ってくると、そこへ平成初期に流行っていたらしい『MD』なるものをセットする。

 すると唐突に、聞き覚えのある国民的アニメのイントロが流れ始めた。『デデンデンデデン』を三回繰り返し、『デン!』で終わる感じの、日曜夕方的なあれである。

 そのリズムに合わせて、彼女は笑顔で語り始めた。

「さーて、来週の百鬼夜行は〜?

 松坂です。

 先日、メンバーの神戸ちゃんがバイトをしている、ハンバーガー屋さんに行ってきました。そこで思い切って、神戸ちゃんにスマイルを頼んだら、売り切れだと断られてしまいました。残念!でもそのあと、一万円札でお支払いをしたところ、『一万円入りまーす』と、素敵な笑顔を見せてくれました。お釣りはもらえなかったけど、嬉しかったです。


 さて次回、『百鬼夜行、回収します!』第5話。

『守、びしょ濡れで帰宅』

『守、寝不足で眼鏡っ子』

『守、死す!?』

 の三本です。

 それでは次週も百回見てくださいね〜?じゃーんけーんぽーん♪うふふふー♪」


 牛耳の美少女はぺこりとお辞儀をすると、いそいそとプレイヤーの電源を消した。

「と、いう感じです!」

 こうして、達成感溢れる笑顔でドヤ顔を決めた彼女。

 そんな彼女の予知姿を初めて見たのか、藤を筆頭に、スタンディングオベーションを送るイケメンたち。

 だが一人、混乱してる守。

 どうか、今のは聞き間違いであってほしい…!


「俺…、次回死ぬの?」


『件』の予言は正確だと、彼らはさっきそう言った。

 もしこれが本当に彼女の見てきた守の未来ならば、守は相当なピンチである。現に最初の二つはすでに体験した事実だ。なんなら二つ目は今日の事である。ならば三つめも……

「イーーヤーー!!!」

 そんな絶叫する守に、天たちは彼を取り囲むと、安心させようとポンっと手を置いてくる。

「大丈夫だよ!

 未来予知なのに、過去のことが含まれてるじゃん!って思って、びっくりしたんだよね?妖怪にとって、人間の一生ってすっごく短いから、誤差の範囲だよ!」

「そこじゃないよ!」

「大丈夫だ!

 何で自分のテーマ曲はあれなんだ?って思ったんだろ?次回予告の曲は数パターンあるんだ。俺が好きなのは、『汎用はんようヒト型決戦兵器がたけっせんへいき』バージョンのやつだ!サービスサービス!」

「そこでもない!」

「大丈夫ですよ。

 問題の三つめにだけ、末尾に『!?』と付いていたので、多分死にません。…多分」

「そう、それです…けども!!やだやだ!って二回も言ってるじゃん!それにそんな、週刊誌のあおり文句みたいな言い訳で、俺が安心するとでも!?」

「いやお前も今『!?』使ってんじゃん!?」

「守どんまーい!?」

「みんな他人事すぎない!?」



 この後。

 放心状態の守は、彼らに励まされながら、なんとかエドガーまで帰ってきた。

 そこで待っていた環に、守は混乱しながらも、メイド喫茶での出来事をすべて報告した。

「…日本一のウシ娘…ね?」

 やがて環はそう呟くと、ニコリと妖しく微笑む。

 今の話を聞いた感想がなのかと、守は不思議に思わなくもなかったが、この時は突っ込む気力もなかった。

 だが後日。

 守はその理由を知ることとなる。

 今回、市場調査を依頼してきた依頼人、春元はるもとに、環はなぜか松坂率いる『件坂』のみなさんを紹介したのだ。

「共に日本一を目指そう!」

 すると春元は、彼女たちをとても気に入り即採用。 とんとん拍子に事は進み、やがて彼女たちは『ウシ娘!ジューシーダービー』という名の、本格ステーキを味わえるメイド喫茶をオープン。

 そして近い将来、彼女たちはアイドルとしても一世を風靡ふうびするのだが…


 それはまた、別のお話。



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