[13] 感覚

 セカンドフェイズ、謎の空間を探索するアレスターとフレッドへと数々の障害が襲いかかった。

 どこからともなく大岩が転がってきて2人を追いかける!

「『いやほんとまじでどこから出てきたんだよ』判定失敗したー」

「『先生、そんなこと言ってる場合じゃないです、逃げますよ』こっちはスペシャルです」

「それならアレスターはすっころんで大岩に潰されそうになるんだけど、間一髪フレッドが抱え上げてなんとか助かりました」


 3分以内にパズルを解かないと毒ガスが噴出してくる!

「失敗です。『さっぱりですね、頭を使うのは先生の仕事です、頑張ってください』」

「こっちは成功したよー。『実に簡単なパズルだね。ここをこうしてこうすればこうなのさ』」

「アレスターの頭いいムーブがあんまりにも浅すぎでは」


 足元から謎の触手生物が湧き上がる!

「運動は不得手だけど――やった、ぎりぎり成功した。ぬめぬめで滑ったことで運よく回避できた。『なんだこいつらは、気持ち悪いな』」

「僕も余裕の成功です。『動きは遅いようですね、回避するだけなら難しくありません』」

「どっちか失敗してよ。ここは触手につかまってあれこれされるサービスシーンでしょ」


 そしてセッションはラストフェイズへと突入した。

「2人はいくつもの障害をくぐり抜けてきたと思っていたがそれすらも罠にすぎなかった。逃げていると思わせながら実際のところ彼らはより危険な場所へと追い詰められていたのだ。見たこともない謎の機械群で埋め尽くされた広い部屋。謎の声が2人に話しかけてくる。『もっと早い段階で死亡すると予測していましたが、なかなか優れた個体のようですね』」


「『誰だ!』アレスターは鋭く叫ぶ。ほんとに誰だ?」

「『ぐえぐえぐえ、おもしろい、本当におもしろい』笑いながらそいつは姿を現す。それは人間サイズの二足歩行の白衣を羽織った蛙だった」

「『え? なんで蛙? どういうことですか?』フレッドは戸惑いながらも戦闘態勢をとっています」

「なんで蛙はGMの私も思ってる、ダイスを振ったらそうなりました。『私は君たち下等生物の言葉で言えば宇宙人だ。実験動物たちよ、さあその力を存分に見せてくれたまえ』最終戦開始です」


 だんだんとわかってきたことがある。

 アリシアさんは私にこれを教えたかったのかもしれない。

 彼女自身そこまで深くは考えてなくて私が勝手に見つけ出したのかもしれないが。

 祥子さんは言っていた。

 最適解を見つける必要はない。

 自分が楽しめたら、あるいは誰かを楽しませることができたら、その人が勝ちよ。

 多分そういうことだ。

 私は私の中にひとつの感覚を定義する。


 あと一撃、あと一撃入れば倒れるところまで蛙博士の体力を削った。

 といってもこちらも満身創痍。アレスターもフレッドもいつ倒れてもおかしくない状態。あまり長くはもたない。このターンで決着をつけるしかない。

「アレスターはスキル【天才的推理力】を使用、判定成功。『見えた! 俺の天才推理によればあの蛙の弱点は左目の上のイボのところだ』これで次のフレッドくんの攻撃によるダメージは2倍だ」

「『わっかりました!』フレッドは走り出す。必殺の【飛び膝蹴り】。敵は当たれば落ちる。ここが最大にして最後の好機。2D6で4以上が出ればそれでいい、僕らの勝ちだ――」

 効果音とともに画面上にダイス目が表示される。GM、PL、視聴者含め全員の時が止まった。


「……えーと、ここでピンゾロ、いわゆるファンブルだね」

 祥子さんの声が少し震えている。笑いをこらえてるんだろう、多分。

「なーんかこの局面をひっくり返せるような奥の手残ってたっけ?」

「ないですね。もう全部使い切ってます」

 どうしようもなくこの結果を覆すことはできない。


「それではファンブルの処理をやってきましょう。フレッドは勢い余って壁に突っ込んで1ターン行動不能になりました。その隙を逃す蛙博士ではありません。【毒粘液】、対象はアレスターとフレッド、判定成功。ダメージは12点です」

「アレスターは倒れます」

「フレッドも同じく」

「PC全滅、あなたたちの敗北です。再び捕獲されたあなたたちは残りの人生を宇宙人の研究材料として過ごすことになりました、おしまい」


『ここでファンブル』

『さすがフィオナ様持ってるなあ』

『あっさり終わった』

『まさかの結末』

『圧倒的バッドエンド』

『おつかれさまでした』

『フィーちゃんおもしろかったよ、元気出して』


「祥子さん、GMしてくれてありがとうございました。アリシアさんもいっしょに遊んでくれたこと感謝しています。最後はちょっと決めきれませんでしたが、とっても楽しいセッションでした」

 配信終了後、そのまま通話をつなげての感想戦にて、私は迷いなくその言葉を生成することができた。

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