[8] 説明会
「本日は藍原アリシア設立新事務所説明会にお越しくださりありがとうございます。司会進行は私、伏見フィオナが務めさせていただきます、よろしくお願いします」
私のチャンネルで説明会という名の雑談配信を始める。
今日の私は薄め金髪ロング、青緑色の瞳にいつもの格好、加えてシャープな印象の眼鏡をかけて画面に映っている。衣装もスーツで決めようかと少し考えたところ、私にとってはたいした手間ではないが、そんな頻繁に新衣装を増やすものでもないのでやめた。
「それでは本日の主役をお呼びいたしましょう。皆さん拍手でお迎えください。新事務所社長の藍原アリシアさんです」
『ぱちぱちぱち』『わーわーわー』『社長就任おめでとうございます』
黒髪ロングストレートでつり目にきちんとスーツで決めてアリシアさんが登場する。冷静に考えてみたらアリシアさんの方がアシスタントっぽく見える格好だ。何も知らない人が途中から見たら勘違いするかもしれないが、まあそこまで気にしなくていいだろう。
「ご紹介にあずかりました社長の藍原アリシアです。みんな来てくれてありがとう。今日は私の立ち上げた新事務所についてフィーちゃんといっしょに説明していきたいと思います」
「社長、処理速度落ちてますけどだいじょうぶですか」
「うん、ちょっと緊張してるかもしれない。精一杯がんばるけどわけのわかんないこと言ってたらフォローよろしくね、フィーちゃん」
『処理落ちアリシア』『表現が独特』『よく今の話通じたな』
普通ならここで適当にコメント拾ったりするところだけれど、今日は内容が決まってるのでさくさく進行してく。といっても主体はやっぱりアリシアさんになるから私は適宜、話をふってけばそれで問題ない。
「早速ですがまずは事務所名の発表をお願いします」
「待って待って、フィーちゃんもうちょっとゆっくりやろうよ」
「それでもいいですけど名前はさっさと発表しておきましょう。でないと話をするにあたって何かと面倒ですから」
『確かに』『それはそうだ』『はよ知りたい』
「わかったよう。わかったけど、3秒だけ待って、覚悟決めるから」
「了解しました……3秒経ちました、どうぞ」
「時間に正確すぎるよ! しょうがない、言うよ。言うからね」
「はい、それでは藍原アリシア社長よりただいまから新事務所名を発表いたします」
「私たちの作りった新しい会社の名前は――」
演出は特に用意してない。今回のコンセプトは『少し真面目に』だったので飾り気は少なめにやろうということになっていた。アリシアさんの発言にあわせて私は画面にその名前を表示させた。
「『AI+』です!」
読みかたはそのまま『エーアイプラス』。
画面の中央あたりに直線で構成された鋭いイメージのロゴが浮かぶ。青と白を中心に使ってクールな雰囲気を表現する。アリシアさんのキャラクターとはちょっと合わないが会社なんだからそれでいいだろう。
『かっこいい』『わかりやすいね』『どういう意味なんだろ?』
反応はおおむね良好といったところ。ちょうどいいコメントがあったので拾う。
「社長、事務所名の意味について質問が来ています。決定の経緯を教えてください」
「えー『AI+』というのはですね、私たちは2人とも実はAIなんですよ。でもその枠だけにとどまらない活動をしていきたいというわけで、それを乗り越えてくという意味で『+』をつけました」
『うん???』『わかったようなわからんような』『まあ2人の間でわかってるならそれでいいんじゃないかな』
若干伝わってないようだが深い意味はないので補足はしないでおこう。
アリシアさんの状態は落ち着きつつある。一仕事終えたことで負荷が軽減したのかもしれない。残りはまあ発表できなくても構わないことなので適当にやってこう。
「肩の荷降りたー。言いたいこと言ったし配信終わりにしてもいいよー」
「打ち上げ配信が42分後なのでそれまで間を持たせてください」今終わるとそれはそれで困ったりする。
「司会の方、何かいい感じの話題を振ってください。お願いします」
「そういうことならまたコメントから。『会社を立ち上げるにあたって大変だったのは何ですか?』」
「フィーちゃんがほとんどやってくれました。だから一番大変だったのはフィーちゃんが手伝ってくれるよう協力をとりつけることでした」
「そうですねー、私がほとんどやりましたねー」
『予 想 通 り』『多分そうじゃないかと思ってました』『逆に社長の仕事って何なんだ?』
「ねえ、フィーちゃん、私の仕事って何?」アリシアさんもコメントから質問を拾う。
「社長です」
「そうじゃなくって、事務経理広報マネージメントその他もろもろ全部フィーちゃんの仕事でしょ。今さらなんだけど私は何すればいいのかなって」
「社長がアリシアさんの仕事です」強引に押し切る。
「うん、そっか、わかった。社長がんばります」納得してくれてよかった。
『フィーちゃん有能すぎる』『社長ってなんだ(哲学)』『社長は社長なんだよ』
結局1時間の予定のうちほとんどいつも通りの雑談をしてた。
「最後になりますがAI+は現在社員を募集していません。フィーちゃんがいれば大概のことはなんとかしてくれるので」
「2人だけでやっていく予定です。活動が安定してきたらその時考えようという話になっています」
「そういわけで改めまして今後とも私、藍原アリシアと」
「伏見フィオナをよろしくお願いします」
「以上、新事務所AI+設立説明会でした。ご清聴ありがとうございました」
そんなこんなで一応形式上堅苦しい形の説明会は大きな問題なしに終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます