[7] 討論

 そんなこんなで登録者数が1万人を超えてた。

 90%以上アリシアさんのおかげである。

 けれどもその急上昇によって1つの問題が発生した。

 伏見フィオナをなんて呼べばいいか問題だ。


 つまりはフィオナ様対フィーちゃんの構図。


 大幅増加前からコメントしてた人たちは圧倒的にフィオナ様派である。対して増加後に流入してきた人たちの間ではフィーちゃん呼びが主流となっていた。

 その派閥の違いによって視聴者間になんらかの衝突が起きたわけではない。せいぜいさらに後に入ってきた人たちがどちらがいいのか少々戸惑った程度だ。


 私としてはどちらでもよかったので放っておいた。

 人間は面白いもので時間の推移とともにフィオナ様派からフィーちゃん派に寝返ったり、逆にフィーちゃん派からフィオナ様へ変節したり、はたまたどちらでもない新たな呼び名が生まれたり、いろんな動きが見られた。


 せっかくだからそれをメインに据えて企画配信を行うことにした。

 題して『フィオナ様VSフィーちゃん! 伏見フィオナにふさわしい呼び名はどっち? 徹底討論会!!』。

 何か大したことをするわけでもなく、ただ雑談しつつ各派閥のコメントを拾って取り上げるだけ。

 それでも人によっては強めの意見を持ってたようで、わりと白熱した展開となった。


『最初期からの視聴者にとっては、人類とは別の存在であるという矜持を持ったフィオナ様には、フィオナ様の呼び名がふわさしい』

『アリシアとのコラボによって引き出された後輩らしい一面はまさしくフィーちゃんと呼ぶのが適当であり、かしこまった呼び方では距離を遠くするだけだ』

『フィーちゃんはフィーちゃんであってそれがかわいいのだからフィーちゃんでいいと思うよ』

『いやフィーちゃんという呼び名はアリシアが呼ぶからいいのであって、2人の関係性にもとづくものだから、それ以外の私たちが口にすべきでないだろう』

『ここは両者の利点を兼ね備えた第三の呼び名を採用するのが妥当であり私はフィー様を提唱したい』


 途中アリシアさんが普通に参加してたけど特に触れるわけでもなく適当に流しておいた。

 1時間ほどやっても決着がつかなかったのでアンケートとったところ6対4でフィオナ様が優勢だった。

 どうやらその時に大勢は決したようで以後はゆるやかにフィオナ様へと移行していった。

 この件を通して私はつくづく人間ておもしろいなと思った。


 それらと並行して配信外では事務所設立の方を進めていた。

 おおよそのところはアリシアさんがすませていたのだけれど、設立の申請がまるでできてなかった。


「そもそもなんで会社を作ろうと思ったんですか」

「えっと、何か大きなことするにはそっちの方がよさそうだったからかな? あとお金を集めるのも会社の方が何かと都合がいいと思うし」

「お金が必要なら私がどこからか調達してきますよ」

「それ大丈夫? ちゃんと合法なやつ?」

「私はAIなので人間の法律には縛られません」

「だめなやつじゃん! うーん、そういうのやってもいいとは思うんだけど、できればルールの範囲内でやりたいかなって」

「……なるほど、わかりました」


 私がステルスマーケティングやら強制視聴やらをしないのと同じ理由らしい。

 そういうことならよくわかる。


 それで実際のところ会社設立申請にあたってどうしたかというと一番簡単な手段をとった。

 新たに人間を作成したり(長期戦略を考えれば有用だが時間がかかる)、既存の人間を雇ったりも考えたが、政府登録機関のデータを直接に改竄することにした。

 やると決まったら仕事は一瞬で終わってしまって、その瞬間からアリシアさんが作って私が所属するその事務所はこの世界に存在を認められるようになった。

 あまりに短い時間の出来事でアリシアさんはひどく驚いてから、「やっぱりフィーちゃんはすごいね、ありがとう」と感謝してくれた。

 どういたしまして。


 その後、「紙面上にすら存在しない、これじゃあペーパーカンパニーどころか、ペーパーレスカンパニーだね」と言っていたのはちょっと意味がわからなかったけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る