[6] 勝敗

「結果はっぴょー」

 アリシアさんのテンションはさがりきっている。初期はついてた効果音も鳴ってない。

 『どきどき』『わくわく』なんてコメントが流れるが結果はすでにわかっていたりする。

「10014対0でフィーちゃんの勝利です」

『知ってた』『圧倒的勝利』『おめでとう!』『最強AI決定』『最初の勢いはなんだったのか』


 7番勝負でなぜ10014対0になったのか?

 4戦目が終わった時点で私の勝利がすでに確定していたからだ。

 私がいい感じに手加減してアリシアさんを勝たせようとはしてたのだけれど、なぜかその手加減をはるかに上回るポカをやらかして、どうしても自然に勝たせることができなかった。

 仕方がないから私の方から提案してポイント制に変更、1~4戦目の勝者はそれぞれ1pt獲得、5戦目からは逆転可能なように5pt獲得ということになった。

 けれども5戦目と6戦目も私が勝ったので、仕方なく7戦目は勝った方に10000ptという強引な展開へ。なんかもうここまで来たらということでさっくり私が勝ちを拾わせてもらった。

 そんなわけで7番勝負は私、伏見フィリアの完全勝利で幕を閉じた。


「フィーちゃん、勝利コメントよろー」

「正直なところ苦戦するところはなかったです。楽勝でした」

『正直すぎる』『追い打ち』『このAI遠慮を知らないw』

「でもとても楽しかったです。ありがとうございました」

『いい笑顔』『後輩の鑑』『かわいい』

「負けた方がフィーちゃんの得になる条件を提示することでわざと負けるように誘導して、スーパーAIフィーちゃんを私の手中に収めるはずだったのに。私の完璧な計画がー」

 アリシアさんがぐちぐちこぼす。めっちゃ正直だ。

 というかそんな筋書きだったのなら私に前もって話を通しておいてくれればよかったのに。こちら側の利益がきちんと提示されているならその通りに勝負の流れをコントロールした。


「私が勝ったからアリシアさんは私の言うことを聞いてくれるんですよね」

「まあそういうことになるかなー。放送できる範囲でよろしくー」

「だいじょうぶです。わかっています」

 しばし間を空けて考える。といっても実は何を言うかはすでに決まっていた。

 コラボ配信をやっていく中で感じたことがある。それは人間の感情でいうというころの『楽しい』に近いものなのかもしれなかった。


「――私をアリシアさんの事務所に入れてください」

「……? どゆこと?」

「だから私が私の意志でアリシアさんといっしょに色んなことやってみたいんです。だから私、アリシアさんの作る事務所に入ります」

「まじで? いいの? もう決まったから撤回無理だよ? やったー!」

「これからよろしくお願いしますね、社長」

『まさかの結末』『フィーちゃんいい子』『逆転大勝利』『おめでとうございます』『これもすべてAIの完全な計算によるものなのか』『終わりよければすべてよし!』

 なんだか綺麗に話がまとまってしまった。今後アリシアさん主導でどうなるかちょっとわからないけど、まあ最悪私がサポートすればどうにかなるはずだ。


 あとはアリシアさんがいい感じにしめてくれて今日の配信は終わりでいいだろう。と思っていたところ、私は1つのコメントが目についたのでそれをとりあげることにした。

「『でもこれって敗者の願望叶えただけなんじゃ……』、言われてみればその通りですね」

「え、何、どうしたの、フィーちゃん? もう配信終わるところだったじゃん」

「結果的にアリシサさんの言うことを私が聞いたわけで、それなら勝者として別に何か要求してもいいんじゃないかと思いまして」

「待って待って待って、理屈は通ってるけど、今きれいに終わる流れだったでしょ!」

「皆さん、アリシアさんの嫌がる罰ゲームをこの動画のコメント欄までお寄せください。いいものがあったら採用しますので」

 こうして初めてのコラボ配信は、私の立場に大きな変化をもたらしつつ、わりといい感じに終わった。

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