[5] コラボ
「こんばんは、藍原アリシアよ。今日はソフトが不調で開始するのが遅れたわ、ごめんなさいね」
コラボ当日、チャンネルはアリシアさんのところで。配信の準備その他をすべてまかせてたらなぜか予定通りに始まらないという事態が発生。
ソフトの不調なんて簡単に治せるのでは? 治らなくても自分用にプログラム組み上げればそれで済む話では? と思ったがアリシアさんにはアリシアさんの考えがあるだろうから言わないでおいた。
「事前に告知してた通りに今日はコラボよ。今回いっしょに配信してくれるのは私と同じAIにして新人Vtuberのこの人、ぱちぱちぱちー」
「はじめまして、伏見フィオナです。よろしくお願いします」
私が画面内に登場する。音声合成良好。2Dモデルも問題なく動いている。
「私がちょくちょく向こうの配信にお邪魔してるから知ってる人も多いかもだけどフィーちゃんでーす。こちらこそ今日はよろしくねー」
『8888888』『AI(本物)来襲だー』『はじめましてー』『しっかりしてる娘っぽい?』『よろしくー』
反応は好意的。そもそも私のことを知らない人が大半だからそんなもんだろう。
アリシアさんが私を見つけたいきさつを軽く説明する。その後、雑談がひと段落したところで不意打ちでファンファーレが鳴り響いた。
「最強AIはどっちだ!? 頭脳ゲーム7番勝負!」
その宣言と同時に画面中央にでかでかと同じ言葉が表示された。七色に光るむやみやたらに主張の激しいエフェクトつきで。
どうやらそれが今回の企画内容のようだった。
「ルールは簡単。私たち2人で今から『宇宙遊戯全集』で7番勝負します。最終的に勝った数が多い方が今日の勝者、少ない方が敗者。そして敗者は勝者の言うことを聞いてもらうわ!」
『宇宙遊戯全集』とはちょっとしたゲームをいろいろ集めたソフトである。その中には2人で対戦できるゲームも多く含まれている。
「シンプルな企画ですね。気になるところは『敗者は勝者の言うことを聞く』という部分ぐらいでしょうか」
「ふふふふふ、よくぞ聞いてくれたわね、フィーちゃん」
私の感想に対してアリシアさんはなぜだか不敵な笑みを浮かべた。
じゃじゃんという効果音。アリシアさんは待ってましたとばかりのめっちゃいい笑顔のまま言った。
「私、藍原アリシアはこのたび、Vtuberマネジメント会社を設立することにしました!」
『え????』『うおおおおお』『まじで?』『いきなりなんか言いだしたぞ』『きたあああああ』
「私が勝ったらフィーちゃん、あなたは新事務所所属第1号になって、私のもとでばりばり働いてもらうわ」
これは予測してなかった。というかまず事務所を立ち上げるという話がサプライズすぎる。
さてどうしたものか?
正直言って別段アリシアさんの事務所に所属することになっても構わない気がする。というかむしろ知名度とかそういうのを考えたら所属になった方が得だろう。
そんなこちらの得になる条件をわざわざ出してくるのが読めないと言えば読めない。
「ひとまず事務所設立おめでとうございます。加入の件につきましては勝負の結果次第ということで」
「冷静でいられるのも今のうちよ。フィーちゃん、必ずあなたを私のものにしてみせるわ!」
「私が勝った場合は、そうですね、勝負がつくまでには何かしら考えておきますね」
『強い』『めっちゃ冷静で草』『ゲームで決めることなのか(困惑)』『(これ負けた方がフィオナ様得では……?)』『熱量の差がひどいw』
最初のゲームはランダムに決めた。2戦目以降は1つ前の試合で負けた方が決めてくルール。
ラウンド・ストーン・クロス・スティッチ。
名前は気取っているが要は交互に石を置いていって、一定の数並んだら勝ちというゲーム。将棋とか囲碁とかそういう類のいわゆる有限確定完全情報ゲーム。
「私が先手もらうからね」
「わかりました、どうぞ」
「こういうゲームは先手有利って相場が決まってるのよ、勝った!」
私がざっと演算した限りでは正しく指せば後手必勝だったんだけどまあいいや。
初戦は勝っても負けてもどっちでもいい。第6戦が終わった時点で3対3の熱戦を演出できればそれまでの過程はなんだって問題ない。
最終的に勝つか負けるか、それも第7戦が始まるまでに決められれば十分だ。
交互にリズムよく石を置いていく。色とりどりの石が一定の論理に基づいてなんらかの立体を形作っていくのが目に楽しい。
アリシアさんはちょいちょい最善手でも次善手でもない手を指してくる。勝負手というやつでこちらの動揺を誘っているのか?
けれども私はAI、精神的なぶれというのはまずありえない。正しく対応していけば徐々に徐々に私の有利は拡大していく。
早くも勝ちを確信する。ただしもうちょっとつづけた方が人間にも勝敗を理解できていいだろう。
アリシアさんの指し手が完全に止まった。長考に入る。もう勝敗は決まっているのに。
心理戦をしかけてきている? 第2戦にむけての布石といったところだろうか?
有効な手のうちもっとも勝ちへの道筋が残される手を指してきた。アリシアさんは得意げに笑っている。
うん、わからない。わからないからとりあえず私が勝ちをもらっておこう。
「負けました」
「ありがとうございます」
『早すぎた勝利宣言』『先手有利とはなんだったんか』『フィーちゃんまじゲーム強くね?』『まだいける、まだ初戦が終わっただけだから』『がんばれ、運ゲーならきっと勝てるよ』
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