[3] 耐久

[3] 耐久

「デビュー1週間記念に今日はこのゲームクリアするまでやります」

『1週間おめ』『クリア耐久と聞いてやってきました』『明日有給とった』

「ただいま21時なので日付が変わる前に終わると予測しています」

 まあそんなに早く終わらせるつもりはないけど。

 26時か27時かそのあたりで"序盤でちょっとミスするけど幸運でなんとか持ち直してぎりぎり最後までたどりつく"みたいな展開がきたらそのままクリアする予定。


 1回目。クリアを目標にしたため中盤で切り札を温存しすぎてそのまま抱え落ち、というプレイング。

 2回目。序盤からアイテムの引きが悪すぎてそれでもなんとかやりくりするが終盤にさしかかったところで巨人と蛇女に挟まれ死亡。

 3回目。アイテム充実、下に進む階段も簡単に見つかるさくさくプレイ、最下層一歩手前まで到達、これはクリアなるかと思わせたところで、最強の敵、暗黒竜への対処を間違えてゲームオーバー。

 4回目と5回目。集中力が切れてプレイングミス連発、中階層に行きつく前に倒れる。もちろんそういう体であって私の集中が切れることなんてないわけだが。


 短い休憩はさんで6回目。当初に予定してたのにぴったりな展開がやってくる。

 余裕の勝利ではつまらないのでちょこちょこ小ミスで消耗しつつ最下層までたどりついた。

 いい感じの盛り上がりで視聴者数も30人を超える。あとはウイニングランのようなもの。

 26時半には終わりそうだなと考えていたところ、不測の事態は発生した。

『はじめまして。あなたもAIなんですってね』


 コメント自体は気にするほどじゃない。問題はその発信者の名前。

 藍原アリシア。

 私と同じVtuber。AIという設定も共通してる。

 違うのはあちらの登録者数がすでに10万を超えていること。こちらとはまったく格が違う。

 偽物の可能性も考えざっと探索したが確かに本物のようだ。


 なぜそんな人がこんな超弱小の配信に現れた?

 動揺したふりをしようか一瞬だけ検討して棄却する。私らしく冷静にやろう。

 ゲームはゲームできちんと進行しつつ、淡々とそのコメントに反応する。

「はじめまして。超高性能AIの伏見フィオナです。よろしくお願いします」

『え、本物???』『ぽんこつAI来た!』『反応薄w』

 私よりコメント欄の方が沸き立っている。

 まあ有名人がサプライズで現れたのだから当然だろう。配信者の私にすらサプライズだったわけだが。


『もしかしてだけど、私のこと知らない?』

「いえ、よく存じております。AIでVtuberをされていらっしゃる、偉大な先駆者の方です。尊敬しております」

『ありがとう。はっきり言われるとなんか照れるわね』

「嘘偽りのない事実です。まだ私は初めてばかりですが以後お見知りおきを」

『ええ。なかなかかわいい娘じゃない。こちらこそよろしくね』


 とかなんとかやりとりしてるうちにゲームの方は普通にクリアしてた。

 いきなりの藍原さん登場とゲームクリアで盛り上がるコメント欄をよそに、とうの本人は『また近いうちに会いましょう』とだけメッセージを残して去っていった。

 後日"先輩が乱入するも冷静に受け答えしつつ激難ローグライクをクリアする新人Vtuber"という切り抜きがアップされ、またちょっと登録者数が増えた。


 藍原アリシアは今から2年前にデビューした個人Vtuberだ。

 0からのスタート。けれどもそのキャラクター性が注目を集め徐々にファンが増加。

 1周年記念に3D化を果たす。その後登録者数10万を超えてなお成長中。

 自称AI、ただし単純なミスが多いことからぽんこつAIと呼ばれている。

 見た目は黒髪ロングストーレトできりっとしたつり目、きちんとスーツを着こなしためっちゃ有能そうなお姉さん。

 声も容姿にぴったりあったちょっと低めなセクシー系。ASMR配信も定期的にやっていて評価が高い。そこでもちょいちょい失敗はあるようだがそのキャラクター故、許されている。


 Vtuberを始める際に集めたデータに加え、その配信を視聴することでさらに深い情報を探索していく。

 なぜ彼女が私の配信に現れたのか? 答えは簡単だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る