第9話 バタバ村の戦い

 イライザたちがバタバ村討伐対へ加わっている!? その事実が信じられないミーヤはしばらく立ちすくんで泣いていた。しかしいつまでもこのままでいても仕方がない。ミーヤは涙を拭いて戦士団が進んでいった方向へ目をやった。


 こうなったら追いかけていくしかない。レナージュから返事がないのは気になるけれど、今目の前にいたイライザのほうがもっと気になるのだから。


「チカマ、私イライザを追いかけたいの。

 一緒に来てくれる?」


「ボクはミーヤさまといつも一緒。

 だからもちろんいくよ」


「私、えっと、あの……

 お供します……」


「ナウィンは宿屋で待ってて。

 多分危ないし、何があるかわからないのよ」


 無関係のナウィンまで連れて行くわけにはいかない。もしもの時はチカマだけなら逃がすことができるだろう。でも二人とも逃がすとなったらミーヤ一人で何ともできない可能性もある。ミーヤの我がままで誰かの身に不幸が訪れるなんて、それだけは避けなければならない。


 置いてきぼりになるナウィンは不服そうだが、戦闘能力にも不安があるし連れてはいかれない。なんとか説得し理解はしてくれたようだ。


 街の東門を出て戦士団が向かった方角へ進む。以前フルルから購入した地図によると、バタバ村まではおよそ六日ほどの道のりのようだ。ナイトメアを出してもいいが、戦士団も徒歩なので急ぐ必要はないだろう。


 それともさっさと追いついてイライザと話をしてみた方がいいのだろうか。悩むところではあるけど、王様直々の命によって進軍している戦士団へ脇から接触するのはいかがなものだろう。邪魔者扱いされてトラブルになっても困る。


 それに万一チカマがバタバ村の出身だと知られたら、それこそ大騒ぎになってしまうかもしれない。ひとまずはただ後をつけることにした。



 街を出てから五日目、どうやらここで大規模キャンプを張るようだ。神術隊はここに陣取って戦士団だけが村へ向かうように見える。と言うことはイライザたちには危険は及ばない可能性が高い。とりあえず一安心だ。


 翌朝になって昨日までの考えが覆されたことを知る。どうやらここに建てているのはキャンプではなく罠か檻のようだ。つまりとらえてきた盗賊たちをここへ収監するための施設と言うことになる。


 それを証明するかのように、戦士団と神術隊はバタバ村へ向かって進軍を始めた。残ったのは罠を作り動作させるための狩猟漁獲スキルを持った人たちと、少数の護衛兵のみだった。


「やっぱり村まで行くしかないね……

 チカマは平気? 怖くない?」


「恐いけどミーヤさま一緒だから怖くない。

 道もわかるから平気なの」


「もし危なそうなときは絶対に逃げてね。

 知らなかったかもしれないけど、私は死んでも生き返ることができるのよ。

 だから守ろうとか、最後まで一緒に戦うようなことは絶対にしないでね。」


「やっぱりミーヤさまはすごいね。

 わかった、ボク危なくなったら逃げるよ」


 チカマがミーヤの言うことを素直に聞いてくれたのは予想外だったがホッとした。そのことだけが気がかりだったのだ。


 六日目の夜、いよいよバタバ村のすぐそばまでやってきた。村の周囲は高い柵で覆われており、攻め込まれることを前提に暮らしている様子がうかがえる。事前に情報が漏れているのか、それとももともとそうなのかどちらかはわからない。


「ねえチカマ? バタバ村は元からあんなに高い柵を建てていたの?

 随分警戒しているように見えるわね」


「うーん、前から高かったかも?

 でも低かったかも?

 覚えてないや」


 チカマも覚えていないくらいだから元々だったのだろうか。村に居た時と大きく違っていれば違和感を持ってもおかしくない。それがないと言うことは変わっていないのだと思いたかった。


 辺りはもうかなり暗く、普通の人ならはっきりとは見えないかもしれない。ミーヤのような獣人やスキルを使って夜目が効くようにしてなかったら、大人数での混戦は厳しそうな暗さである。


 その時一斉に光の矢が放たれた。柵の内側に次々と撃ちこまれていき内部が明るく照らされていく。その直後、バタバ村の外周を守っている柵にある出入り口が打ち壊されたのが見えた。


 どうやら壊した一か所を除いた他の出入り口は封鎖しているようで、盗賊たちは一か所から次々に飛び出してくる。盗賊たちは固まらず広がって逃げようとしているが、出口のすぐそばには神術使いたちによる魔法盾(マジックシールド)が張り巡らされており、一直線でしか動けない。


 そこへ戦士団が次々と打撃を喰らわせていって盗賊たちを捕らえていた。神術隊と戦士団の連係プレイであっという間に盗賊が山になっていく。


「すごいね、ミーヤさま。

 あれならイライザもマルバスも心配いらないね」


「そうね、王国側に犠牲者が出る気配もないわね。

 さすが戦士団なんて名乗るだけのことはあるわ」


 日々訓練しているのかはわからないが、これだけ連携が取れているのはすごいことだと思う。以前レナージュが戦士団は命を賭けているわけではなく冒険者よりも弱いと言っていたが、この光景を見るとそうは思えなかった。少なくとも王様への忠誠心はかなり高いように感じられる。


 村の中から飛び出してくる盗賊がまばらになってきた。そろそろ全員捕縛されたのだろうか。意外にあっけなく片付いているし、一方的な戦いになっていて、イライザたちの身に何かあるかもしれないなんてミーヤの取り越し苦労だった。


 しかしそう思った矢先、村の中からなにか大きな影が表れた。その影は実態があるようには見えず、言うなれば黒いオーロラのようなものだ。その影が戦士団や神術隊を包んでいく。これは魔法か何かだろうか。


「下がれえええ!! 引くんだ!!!」


 戦士団の隊長らしき人が大声で叫んでいるのが、少し離れたミーヤたちのところまで聞こえてくる。村の出口に近いところにいた神術師と戦士数名がその場に倒れ込んだのが見えた。まさかイライザかマルバスだったらどうしよう。


「チカマは動かないでね。

 私ちょっと行ってくるから!」


「えっ、うん」


 急いですぐ近くまで行くと、イライザたちの姿は無かった。しかし逃げ遅れた討伐対の数名は地面から生え出た黒い手に掴まれて動けずにいる。そこへ村の中から飛んできた矢が突き刺さるのが見えた。


 さらに続いて叫び声のようなものが聞こえると、村に近いところにいる人たちから次々に倒れていく。ミーヤもなんだか悪寒のようなものを感じて足がすくんでしまった。


 やはりこれば何かの魔法のようなものに違いない。今まで見たことの無い魔法攻撃に戸惑っているのは確かだが、意識とは無関係に怯えていることが不思議だ。だがその謎はおそらく、出入り口の向こう側にいる何者かの呪文によるものだろう。


 あの黒いローブの術者をなんとかしないと犠牲者が増えてしまう。その中にもしイライザやマルバスがいたなら…… もうミーヤはいてもたってもいられず、戦いに加わることを決めていた。

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