英雄、襲撃
「しゅ、襲撃だ!」
「なんでここにアロイツ侯爵家のドラ息子が『炎姫』を連れて来るるんだよ!?」
「逃げろ! 巻き添えを食らうぞ!」
時は過ぎて翌日。
王都のとある一角の屋敷にてそんな悲鳴が響き渡る。
屋敷はところどころ燃え、焦げ臭い匂いが充満する中、老若男女問わずの人間が屋敷の外へと逃げ始めていく。
その屋敷の中には二人の人影が―――
「はっはっはー! さぁ、燃やせシェリー! 文字通り囚われの姫様を炙り出そうじゃないか!」
「はぁ……まさか、こんな方法だとは」
嬉々として燃える屋敷を闊歩するクロ。
日頃の鬱憤が溜まっていたからか、クロ・アロイツとしての彼はとても生き生きしていた。
一方で、やって来る騎士達をほどよく殺さない程度に腕を振って燃やしていくシェリーは絶賛ため息を吐いている。
「あなた、こんなことをしてあとで問題になっても知らないわよ?」
「なんとでも言うがいい! 俺の評判はそもそも地に落ちている! 下限がない以上、これを最大活用しなければもったいない! こういうちょっとした工夫が家計を支える節約術なのだ!」
「節約のために黒に手を出す方もどうかと思うけど……」
クロが考えた救出方法は至ってシンプル。
―――手あたり次第に第三王子派閥の場所を襲撃してみよう!
さぁ、そうすればいつかはお姫様に出会えるから。
英雄ならこのような行動をしてしまえば問題になる。しかし、クロ・アロイツならやってもおかしくない。
とはいえ一応問題にはなるだろうが、第一王女さえ見つかれば槍の投げどころは第三王子に変わり、燃やしたものなどの費用は第二王女が負担してくれるだろう。
こそこそと時間をかけて行うよりも効果的。
効率的に捜して早く終わらせるのであれば、これほど完璧な作戦はないというもの!
全ては天才クロくんの完璧なプランの元、行われているのだッッッ!!!
「や、やれッ! やらないと主人が死ぬ!」
「相手は魔術師だろうが女だ! 侯爵家の面汚しはあとでどうとでもなる!」
「この人数で囲めば……ギィ!?」
発言の途中、正面にやって来た騎士達に向かってシェリーは容赦なく炎を飛ばす。
実際問題、何人集まろうが魔術師であるシェリーに勝てるはずもない。
ましてや、今は力を隠しているが本来同じ席に座るクロまでいるのだ。
どう転んでも、この悲劇から逃れられることはできない。
「それで、このあとどうするの? これまで結構屋敷を潰してきたけど」
「んー……俺の読みではそろそろ見つかりそうなものなんだけどなぁ」
「その根拠は?」
「これまで第三王子の姿を見てない」
「確かに」
ならそろそろ見つかりそうね、と。
そう言いかけた時、ふと突き当りに燃えていない大きな扉を発見する。
辺りの壁は崩れ始めているのに、この扉だけ姿形を保っている―――ということは、ここが避難場所の可能性が高い。
「お先にどうぞ」
「えー、やだよ。ここまで来たんなら最後まで頑張ろうぜ」
「レディーにあんな分厚い壁を壊せって言うの? やめてよ、箸も持てない綺麗な手が自慢なんだから」
「嫁の行き手に困りそうな発言をどうも。まぁ、壊すぐらいなら俺がやるか」
模倣の魔術によって手に入れたユランの魔術であれば、いくら頑丈そうな扉でも芥同然。
クロは頭を一つ掻くと、一気に地を駆けてそのまま扉に飛び蹴りをかます。
「さぁさぁ、お目通し願う通行券を持って参上しましたよ! 白馬は予算外にて持ってはおりませんが!」
ドゴォォォォォォォォォォ!!! と。
大きな土煙を立てて、扉が一気に吹き飛んでいった。
開けた視界、立ち上がる煙が晴れていくと、そこには—――
「……ぶ、ぐぅ」
頑丈そうな扉に圧し潰された、いかにもお高そうな服をまとった小太りの少年。
そして—――
「あ、あなたは……?」
椅子に括りつけられた、一際艶やかな銀髪が目立つ女性であった。
(……ほほう、これはこれは)
テンションアゲアゲ。
久しぶりの自分だひゃっほーい。
そんな気持ちで嬉々として扉を破壊したクロは思わず固まってしまった。
(俺の想定では扉を壊し、第三王子がいたら「流石はシェリー! 魔術師は流石だぜ!」とアピールするつもりでいた)
恐らく……そう、恐らく。
今まで見た中で一番お高そうな服を着て、今まで見た中で一番贅沢環境で肥えたような体型をしている人間こそが第三王子。
その第三王子はクロが破壊した扉に圧し潰されており。
(それで「第一王女はどこだ!?」と、居場所を吐かせるのが俺のプラン)
一方で、何故かアリスと似た雰囲気を持つ女性が何故かこの場にいる。
恐らく……そう、恐らく、だ。
アリスを成長させた時のような美しさを見せている女性は第一王女だろう。
「もしかして、ジョーカー敵さん倒して囚われのお姫様をみっけた感じでよろし?」
想定外の幕の降ろし方に戸惑いこそあったものの、クロは無事に第一王女を見つけたのであった。
しかし―――
「あの扉を……いとも簡単に、壊した?」
「……おっふ」
さて、どうしよう?
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