チーム・ユベルカ

ダンジョンのある街・レヴィーク


「よし…………決めた」

「おー!」


 ラキエルと散々話し合った結果、せっかくの転生なのでということで俺は半亜人として二度目の人生を謳歌することにした。

 人間のクラスにも『鬼神』や『赤人』など、DLCで追加されたと思われるラキエルですら知らない面白そうなクラスもあったが、そういった特別そうなクラスを選んでしまうと俺の出自がややこしいことになってしまわないかということで、そういったクラスは避けることにしたのだ。


「にしてもメデューサって…………やっぱり毒殺する気満々じゃん!」

「…………まあ、その気がないとは言わないけど」


 普通に石化とか使えたら強そうじゃないか。あと蛇とかも好きなんだよ。


「ちなみに成長型とかはどーしたの?」

「補助型の格闘術だ」

「格闘⁉メデューサにそんなイメージないけど!」

「俺もそうなんだが、なんか選択肢にあったから」

「えー!めっちゃ気になる!」

「だろ?」


 珍しくラキエルと意見が合う。

 ラキエルは俺がクラスの選択を終えたことをしっかりと確認すると、何か呪文のような言葉を詠唱して俺の足元に魔法陣を展開させた。


「それじゃあ行ってらっしゃい!ボクはちょっと仕事があるから、後から参加するね!」

「はいよ」


 俺は、天使の仕事って何だろうと思いつつも、そこまで興味があるわけでもないので言及はしなかった。

 すると間もなくして俺の視界は光に包まれ、同時に意識も宙を漂い始めたのだった。








「───ちゃん!嬢ちゃん!もう着いたぞ!」

「…………ん」


 目を覚ました俺を待っていたのは、見知らぬ男の怒鳴り声だった。


「ったく。こんなに熟睡してるやつは初めて見たぞ?道中だいぶ揺れたろうに」

「えーっと…………」


 ひとまず周囲を確認する。

 どうやらここは街の入り口のような場所で、俺は馬車の中で熟睡をしてしまっていたようだ。

 いきなりすぎる展開だったが、ゲームのオープニングと考えればこんなものだろうか。


「すみません。ここってどこでしたっけ?」


 ただ一つ違うのは、ゲームならあるであろうメニューといった機能や画面上での指示がないことだ。

 つまり、突然の展開すぎてここがどこで何をしたらいいのかもわからないということである。


「おいおい、大丈夫か?ここはレヴィーク───マドリカダンジョンのある街だ。というか、嬢ちゃんもダンジョンで一稼ぎしに来たんじゃねえのか?」

「…………そうでした」


 MDのストーリーを知らないのでよくわからないが、とりあえず適当に言って誤魔化しておく。

 そんなやり取りをしながら不自然な笑顔をその男に向けていると、一番大きな路地の奥からなにやら騒がしい集団がこちらへと向かってきた。その様子を一言で言い表すなら、パレードといったところだろうか。

 その男は目を凝らしてそちらの方を眺めると、こんな言葉を漏らした。


「おっ、ルヴェールんとこの次男がまたやりやがったのか。こりゃああそこは次男が継ぐことになりそうだなぁ」

「継ぐ?」


 何の話か全く掴めずにそうオウム返しをすると、その男は丁寧にその意味を説明してくれた。


「ん?…………ああ、お前さんは半亜だから知らねえのも無理はないか。人間領じゃな、次期領主争いにダンジョンが使われんだよ」

「領主争い…………次男ってことは、長男と争ってるんですか?」

「あそこんとこは三男もだな」

「そんなことで決めちゃっていいんですか?」

「あん?まあダンジョン攻略をやらせれば人望やら指揮能力が測れるだの、人間同士で直接争わない方法だのと色々言われてはいるが、言っちまえば文化ってやつだろうな」

「…………なるほど」


 俺は三人それぞれが一人で潜っているのかと思ったが、その男の口ぶりからして部隊を持って動いているのだろう。

 しかし、領主争いと言ってそんなことに時間を割く余裕があるということは、この世界はだいぶ平和ということなのだろうか?領土が分かれているなら人間と亜人が仲良しこよしってわけでもなさそうだが…………まあ、これについては後でラキエルに確認すればいいだろう。


「ありがとうございました」

「おう!気ぃ付けろよ!」


 軽くその男にお礼を言ってその場を立ち去ると、俺はその次男とやらのパレードの流れに逆らうようにして、その大通りを真っすぐ進んでいった。真っすぐ進んで何があるのか知っているというわけではないが、ここがゲームの舞台だというのならとりあえず一番大きな道を道なりに歩くのが正解だろう。

 しかし、随分と人が多い。それだけダンジョンも賑わっているということなのかもしれないが…………


「なんつーか、派手だな」


 道沿いに並ぶ店の数々。それに、行き交う人々も。それらはどれも煌びやかな雰囲気を纏っており、それが普通の世界観なのか、それともこの街の景気がいいということなのか、どちらにせよ俺はどこか着心地の悪さを感じずにはいられなかった。


 そしてしばらくそんな街並みの道を歩き続けると、ひとまずの目的地と思われる一際大きな建物が視界に現れたのだった。

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