残念な転生 2


「その前に、まずは世界観の説明をした方がいいよね!」


 そう言ってラキエルが始めた説明を要約すると、こういったものだ。

 まず、ゲームの舞台となる『マドリカ』だが、これは一つの大陸の名前だ。その大きさは不明だが、形はアジア大陸のようなおおよそ楕円のような形とされている。

 そんなマドリカ大陸だが、大きく三つに分けられている。

 一つ目は、大陸の右側の人間領。二つ目は、大陸の左側の亜人領。そして最後に、大陸を左右に分断するように位置している魔界と呼ばれる領域だ。


「───それで、その亜人のキャラクターにすることも可能ってことか」

「そうそう!まあ正確には、半分亜人の血が混ざった半亜って呼ばれる混血なんだけどね!ちなみに、亜人っていうのはまあ吸血鬼とか人狼とかよくあるお決まりのやつで、『騎士』とか『戦士』みたいなクラスの代わりに亜人の種族を選択することもできるってこと!」


 主人公が混血でも構わないということは、人間と亜人というのは不仲というわけでもないのだろう。

 そんなことを考えながらクラス選択画面をスクロールしていくと、亜人のゾーンを抜けた先におかしな光景が広がっていた。


「ナースにメイド?竜騎士、英雄…………いやいや、なんだこのラインナップは⁉」


 他にも巫女や戦姫など、明らかにふざけているとも取れるようなクラスのラインナップを見た俺が困ったように声を上げると、ラキエルは体を寄せて画面を覗き込んできた。


「んー…………あっ、あれだ!DLC!ボクはDLCまで手を伸ばせなかったから詳しくないけど、本来ゲーム内の特定のキャラだけがなれるクラスでも、クリア後なら選択できるようになりますーみたいなDLCが来てたはず!」

「へー…………でも大丈夫なのか?主人公って辺境の村のガキなんだろ?姫でもないやつが姫の覚えるスキルとか使ってたらおかしくないのか?」

「なんか主人公の出自がちょっと変わるらしいよ?本編でもあんまり主人公の話はなかったから、主人公の立ち位置にはあんまりこだわってなかったんじゃないかな?そもそも半亜でも構わないわけだし!」

「たしかにな」


 ラキエルの説に納得を示しながら、その分類をさらに詳しく見ていく。

 するとDLCで来たというクラスには一部選択できないものがあり、俺はそれらを眺めながら、ラキエルを批難するように声を出した。


「…………なあ、なんでこの竜騎士とか英雄は選べないんだ?」

「えっとー…………それはー…………」

「ナース、巫女、戦姫…………メイドは選べて、執事は選べないと」

「…………」


 沈黙するラキエルに対し、俺は視線を画面から離してそちらの方に向ける。

 すると、ラキエルは気持ちのいい音を鳴らしながら両の手を合わせ、俺に頭を下げてきた。


「女主人公でお願いしますっ!何卒っ!」

「いや、その趣向を否定するつもりはないけどさ…………」

「だったらいーじゃないですか!女主人公で!」

「女主人公っつってもなあ。中身は俺なわけだろ?それってどちらかというとTSのジャンルになるんじゃないのか?」

「あ、自分TSも全然いけるんで!…………いやいや、そもそも男が邪魔って言いたいわけではないんですよ?MDには魅力的な男性キャラクターもいっぱいいますし、普通に男女カプで推してるのもあるんです!ただやっぱりほら、男か女か選べるなら女でしょうに!」

「…………」


 急に早口だな。

 俺としてはもちろん男の方がいいんだが、そもそもこの転生はラキエルのサービスで成り立っているものだ。別段男であることに譲れない誇りがあるわけでもないので、俺はラキエルの熱意に押される形で渋々女に生まれ変わることを了承した。


「というか、女にこだわるってことは監視でもするのか?」

「ノンノン。ボクも一緒に行くからね!」

「…………マジか」

「マジマジ。あ、でも仕事とかゲーム作りとかもあるから、ずっとってわけじゃないけどね!」


 そんな簡単でいいのか?異世界転生。いや、天使からしたら転生ってわけでもないのか。

 などとラキエルの言葉に驚く俺を他所に、今度はラキエルがMDにおけるレベルアップの仕組みを説明し始めた。


「基本的には、敵を倒して経験値を得て、一定数溜まったらレベルアップっていういつもの仕組みだね!ただ、MDではレベルアップした時の仕様が複雑で───」


 ラキエルの話を纏めると、こうなる。

 各クラスの中には、更に三つの成長型と三つのスキルツリーがある。例えば戦士のクラスでいえば、成長型として火力特化の攻撃型・耐久力特化の防御型・どちらも両立したバランス型の三つ。スキルツリーとして剣術・槍術・斧術の三つといった感じだ。

 そして、MDではステータスがレベルの上昇によって成長するのだが、これにはある程度の運用素が取り込まれている。同じく戦士のクラスでいえば、レベルが1上がった際の物理攻撃力の上昇値として、まずクラス基本ボーナスによって1上がり、次にクラスエクストラボーナスによって60%の確率で更に1上がり、そこから攻撃型だと更に成長型ボーナスによって20%の確率でもう1上がるといった仕組みだ。つまり、相当運が良ければ1レベルで3上がることになる。

 そしてこの基本ボーナス値やその他ボーナスの確率は各クラス・成長型ごとに決められており、クラス基本ボーナスである程度の方針は決められてしまうが、運次第で面白い成長を遂げるという周回プレイも楽しめる設計となっているのだ。もちろん、今の俺には周回プレイなんて関係のないことだが。


 次にスキルツリーだが、これもまた運用素が強い。

 スキルツリーと言ったが、それは自分で自由に割り振ることができるものではないのだ。MDではレベルが1上がる度にスキルを一つ覚えるのだが、これがスキルツリー内で習得可能なスキルのうちランダムな一つを覚えるという仕様になっている。

 そして習得可能なスキルの中には覚える確率が高い基本的なスキルや、逆に覚える確率が非常に低いレアなスキルなんかもあり、そのレアスキルから伸びている派生系スキルは非常に価値の高い貴重で強力なスキルとなっているのだ。もちろんそれは余程運がよくなければレベルを最大まで上げても手に入らないもので、ゲームならばリセットを繰り返すことで手に入れられるが、今回の転生では正真正銘の激運に恵まれないと手に入れられないだろう。


「成長型とスキルツリーか…………どっちも捨てがちよな」

「わかるぅー!ボクは手数の多い攻撃が好きで、スピードの伸びがいいアサシンが好きだった!」

「んー、俺はそうだなあ…………高耐久で毒殺するのとかが好きかな」

「えぇ…………趣味悪~い」


 批難の目を送ってくるラキエル。


「いや、まあゲームならって話だぞ?実際に転生するって考えると、流石に地味だよな」

「ゲームでも地味ですけどー」


 そんな言い合いをしながら、ラキエルと二人であーでもないこーでもないと様々なクラスを物色するのだった。

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