星の終わり

Tempp @ぷかぷか

第1話

 星の引力が突然強くなったらしい。

 僕はその時、自分の部屋にいた。

 丁度PCからはストリーミング放送が流れていた。

 突然の強力な引力の増加は僕を部屋の床にくくりつける。

 ガタリと音がしてPCが倒れる。

 それとともにピガという音がして音楽が途絶えた。

 僕はあのピアノの弾き語りの音が好きだった。

 リクエストした曲だった。

 丁度その配信が行われていた場所はカフェのオープンスペースだった。

 私はそこに設えたピアノのそばにスマホを設置し、リクエストに応じてピアノを弾いていた。

 突然の衝撃とともに地面に引き倒されて床に転がると、すぐそばの地面で木がずぶずぶと土にめり込んでいくのが見えた。

 全てのものが星の内側に落ちていく。

 歩いていたと思しき人は倒れてアスファルトに縫い付けられる。

 がしゃりと足元でピアノがその自重で崩壊し、由緒正しきエーセントルファーがただの木切れに変化する。

 スマホは遠くに飛んでしまってまだ配信が続いているかはわからない。

 体は動かないけど口は開いた。

 最後に弾いていた曲の終わりを口ずさんでいると、空に閃光が見えた。

 金属の塊がたくさん降り注ぎ、大気圏に突入して激しい閃光を巻き起こしながら空に明るい筋を描いていく。

 恐らくこの星の周りを回遊していた人工衛星やら極小の隕石が星に向かって次々と落下してきているのだろう。

 ドン、ドンという光に遅れて響くソニックブームは大きな何かの落下音だ。更におくれて届く風圧。

 髪の毛が激しく揺れたしばらく後に大きく振動する地面。

 おそらくどこかに落下した。けれども私はもう動けない。

 改めて見上げた昼間の月が大分大きい。

 こちらを目指して落下している。

 視界の端からゴオという低く重い音が響き、巨大な飛行機が街すれすれを落ちてゆく。

 電波塔の先端にぶつかり機体はさらに斜めに傾ぐ。

 先程から機内で警告音が鳴り止まない。

 着席を求める客室乗務員の声と鳴り止まない怒号。

 窓を見ると着陸する時のように地面は近く、そこにたくさんの人が横たわっている姿が見えた。

 崩壊する建物の地響きとあがる砂埃。

 辛くも町の端っこをかすめて海に軟着陸し、そのまま大陸棚を滑って深い海溝に落ちてゆく。

 景色はだんだん暗くなり、機内の明かりも突然途切れる。

 やがて機体はひしゃげ水圧がその形を変えてゆく、

 最後の吐息はまるで肺呼吸の深海魚のようだ。

 唐突に訪れたこの星の寿命。

 やがて全てが動きを止め、死の静寂が訪れる。

 星の内部で水素とヘリウムが引き起こした核融合が鉄原子を崩壊させ、その陽子が電子を吸収し、中性子とニュートリノに姿を変えて星の圧力を奪って重力崩壊を引き起こす。

 くしゃくしゃと全ては小さく縮んでいく。

 全てを星の内側に引き寄せる圧力に星は耐えきれない。

 最後に瞬き星の雲となったチリは、その後美しく幻想のように暗い宇宙に漂った。どこまでも。

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