第14話
しばらくして蒼樹が落ち着いたのか、鼻をかみ始め「もう大丈夫」と声を掛けてきたところで三人は本題に入ったのは三十分ほど時間が経過した時だった。
「さて、そろそろ本題に入ろうかしら」
そう言い出したのは輝夜だった。
いよいよか、と姿勢を正した洸太郎と蒼樹の二人は視線を向ける。
輝夜の口から語られたのは二人にとって予想以上で想像を絶するものだった。
「まずはこの世界―――――『
輝夜は立ち上がると窓に近付き外を眺め始めた。
「この世界は統一世界とも呼ばれて、大樹が地面の下に根を張る様に様々な世界に行き来する事が出来る全世界の中心とされている世界なの」
釣られるように二人は同じように窓の外を見る。
そこに広がっている光景に絶句する。
まず眼下に広がる世界は広大だった。
空はオーロラのように輝いており今が朝なのか昼なのか夜なのかがまず分からなかった。
そして校庭が広がる先は何もなく、ただその場所だけ切り取られているような光景が広がっているだけだった。
何より二人が驚いたのは、その空だった。
「あれって――――――」
「ドラゴン?」
ゲームなどでしか見たことが無い生物が天空を縦横無尽に駆け巡っている。
その中でも一番目立っていたのが至近距離で見た飛行機のようにその巨躯を自由に飛び交う爬虫類のような見た目の生物、いわゆる『ドラゴン』が空を飛翔していたのだ。
「あれは〝
その言葉に二人は全力で首を横に振った。
ただでさえ情報が一杯でパンク寸前の二人にこれ以上の情報は今は遠慮しておきたいところだ。
「残念、またの機会にするわ」
悪戯っぽく笑う輝夜に洸太郎は手を挙げる。
「はいコタローくん。質問をどうぞ」
「じゃあ、質問―――――そもそもそんな世界に何で俺達はいるんだ?」
この世界の事は少し理解が出来た。
だが、根本的な事がまだ分からないのだ。
その質問に少し寂しそうな表情をした輝夜は困ったように笑った。
「そうね…………次にその事なんだけど、二人はまだ記憶は無いままかしら?」
輝夜の言葉に二人は無言になった。
蒼樹は分からないが、少なくとも洸太郎はあの学校より以前の記憶は戻ってきていない。
自分は何処の誰で何をしてここにいるのかが分からないのだ。
「じゃあその事についての説明を始めるわね―――――実は、私も記憶は完全に戻っていないの」
輝夜の告白は二人にとって予想よりも斜め上をいっていた。
その様子に輝夜は慣れているのか、それとも諦めているのかは分からないが話を続ける。
「でも分かる事はあるわ。まず簡単に言うと、私が来た世界はもう消滅してしまったの。突如として世界を崩壊させた終焉の災害―――――『
聞き慣れない単語に二人は首を傾げる。
「オオマガドキ? それって―――――」
何なのか? その答えを輝夜は淡々と答える。
「大禍刻、まぁ簡単に言うとこの世界樹の園という大樹を腐らせる病気、と表現した方がいいかしら。順を追って説明するとね、そもそもこの『世界樹の園』が全世界の中心って説明したと思うんだけど、全世界って何だと思う? 答えはそのまま〝全ての世界〟、つまりは幾つにも枝分かれする
そこまでの説明を聞き洸太郎だけでなく、蒼樹も混乱していた。
事態はかなり複雑なようで理解するのにも時間が掛かりそうだと思ってしまったのだ。
「じ、じゃあわたし達の記憶が無いのって……その大禍刻ってのが原因なの?」
蒼樹が口を開く。
その身体は少し震えていたので洸太郎は蒼樹の肩を抱きかかえる。
無理もない。
自分一人ならば卒倒してしまう内容だったのだ。
蒼樹の質問に輝夜は少し違うかな、と答える。
「確かに『大禍刻』は原因の一つね―――――でも本当はそれだけじゃない。この世界に召喚された事による弊害とでも言うべきかしらね…………さっき見た上級古代龍が
ふと、
洸太郎の脳裏に、
あの冷たい『牢獄』が過る。
「特別な―――――力?」
蒼樹の声に現実に引き戻される。
ハッとした洸太郎は気を引き締める為に気になった事を訊ねた。
「じゃあ輝夜も―――――俺や蒼樹も、なのか?」
「うん、そうね。更に言えばあの『
その言葉に、洸太郎はあの〝道術〟という不思議な力を使っていた少女の顔を思い浮かべる。
この世の全てを憎む彼女の姿を思い出したのか蒼樹は下唇を噛み締める。
それに気付いた輝夜は少し休息を取る為に常備されていたお茶をカップに入れた。
「手伝うぞ」
洸太郎が輝夜のところへと立ち上がり横に立った。
ありがとう、と一言だけ言うと輝夜は作業に没頭する。
チラリと横目で彼女を見る。
あの騒ぎの中だったのでゆっくりと観察は出来なかったが、整った顔立ちは大和撫子を彷彿とさせるようなそんな第一印象だった。
身体は華奢で触れるだけでも折れてしまいそうなほどだ。
こんな細腕であんな大鎌を振り回していたのはどう言った原理なのだろうと考えていると、
「何?」
と輝夜がこちらを向いた。
燃えるような―――――いや、鮮血のように真っ赤な双眸に一瞬ドキッとしたがそれを振り払うかのように頭を軽く振る。
「いや何も」
そう言った洸太郎だったが、どうにも恥ずかしさが抜け切れなかった。
そんな様子を見て輝夜はクスリと笑う。
「………………惚れた?」
「アホか!?」
そんな軽口を叩きながらもどこか少し小悪魔的な要素も持っていると少し戦慄する洸太郎だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます