第13話




 二章『統一世界〝世界樹の園エデンズ・ユグドラシル〟』



 百鬼洸太郎なきりこうたろうが目を覚ました時、見慣れない白一色の天井が広がっていた。

 鼻に付く薬品の臭いが充満したその室内を見回していると体重計や身長を図る器具などが置かれておりそこが保健室だと言う事に洸太郎は気付いた。

 「ここ、は?」

 身体を起こすと下半身に何やら違和感を覚える。

 そちらへ視線を向けるとスヤスヤと静かな寝息を立てながら白鐘蒼樹しろかねそうじゅがそこにいた。

 「………………何この状況?」

 健全な男子生徒からすれば甘酸っぱい状況なのだろうが、それでもまだ洸太郎の頭はまだ覚醒はしていない。

 「あら? 目が覚めたのね」

 声の方へ今度は視線を向けるとそこにはパイプ椅子に腰を掛け、優雅に本を読んでいる紅月輝夜こうづきかぐやがいた。

 「――――――――――輝夜?」

 彼女の名を口にした時、色々な出来事がフラッシュバックされた。

 夕暮れ時の校舎。

 突然始まった『鬼ごっこ』。

 記憶を無くした生徒達に『僵屍』という異形の存在。

 そして『道士』と呼ばれる術士に小燐という少女。

 その小燐が最後の力を振り絞り蒼樹へを飛ばし、その術が自分に降りかかった所までは思い出した。

 「そう言えば―――――何か俺、術式を食らったんじゃ?」

 洸太郎の問いに輝夜は簡潔に言い放つ。

 「ええそうね。恐らくは呪詛―――――呪いの類でしょうけどそれを貴方は受けた、と言ったところかしら」

 淡々とした物言いに、洸太郎ははて? と疑問が浮上する。

 「呪い…………って、食らったら死ぬってヤツ?」

 確認を取ると簡潔に「そうね」と言われた。

 「―――――いやいやいや! 何で普通にしてんの!? 俺死んじゃうじゃん!?」

 ベッドの上で騒ぐ洸太郎に、

 「落ち着きなさい。調べてみたけど。どう言った原理かは分からないけど、今の所は命に別状はない状態ね」

 と、不思議と納得がいった。



 ―――――カカッ! あんなちっぽけな道士の呪詛なんぞ簡単に食らった挙句いつまでも気を失うほど腑抜けとったから好機とは思ったんだが…………存外しぶとい奴だ。まぁそれもいつまで続くかのォ?



 夢で〝誰か〟が言っていたのを思い出す。

 頭に靄がかかったように記憶がまだ曖昧だった。

 洸太郎が呆然としていると、それをどう捉えたのか輝夜がフォローのつもりで話し始めた。

 「まぁこればかりは仕方がないわ。彼女の『道士』としての実力は確かだったもの―――――恐らく、彼女が狂う事無く本来の実力だったら私でも少し厳しかったかもしれないわね」

 そこでふと、洸太郎は思い出す。

 そもそも、? と。

 洸太郎が口を開きかけた所で下半身の辺りでもぞもぞと蒼樹が動いた。

 「んもぅ、うるさいなぁ…………今何時よぉ」

 寝ぼけながら身体を起こし周囲を見回す。

 しばらくきょろきょろと目を擦りながら洸太郎とばちッと目が合った。

 「よ、よォ」

 「―――――――――――――――」

 そして、

 「―――――ふぇっ」

 その瞳に大粒の涙を溜め整った顔をくしゃっと崩したかと思うと、

 「よがっだよおおおおおおおおおおっ!!」

 と大声で泣きだした。

 あまりの声量に至近距離にいた洸太郎だけでなく少し離れた場所にいた輝夜も耳を塞いだ。

 「大丈夫っ、大丈夫だから落ち着けって」

 「うわーん!!」

 蒼樹が泣き止むまでに十分ほど時間がかかり、そのまま中々に重傷だったはずの洸太郎がフォローしなければならないと言う地獄のような時間が過ぎていった。

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