第12話




 幕間



 百鬼洸太郎は目を覚ました。

 そこは石造りの大きな部屋だった。

 「何だ、ここ?」

 知識もなければ記憶もない洸太郎が最初に抱いた感想は、ここはまるで〝牢獄〟のようだと思った。



 「カカカッ! 『牢獄』か―――――そりゃテメェの考えは正しいぜぇ」



 何処からか声がした。

 考えを読まれた、という疑問よりも一体どこから? という疑問が勝った。

 目が段々と慣れ始めてくる。

 石造りの大きな部屋と言う表現は間違いなく、そして『牢獄』という表現も間違いでは無い事に気付いた。

 目に飛び込んで来たのは鉄格子のついた牢獄。

 しかも一つや二つなどではない。

 今洸太郎が確認できるだけでも数十もの牢獄が広がっていた。

 「なん、だよ…………ここ?」

 その質問にどこからか声が響いてくる。

 「カカッ、そうか―――――?」

 どうやら声の主はこちらの諸事情に詳しいようだった。

 「お前は、誰だ?」

 その質問に洸太郎は違和感を覚えた。

 何故そんな質問をしたのか?

 ? と。

 声の主は少年の質問に少し間を開け、そして盛大に嗤った。

 空洞に響き渡る嗤い声に耳を塞ぐ事はなく、睨みつけるように〝ある一点〟を睨みつける。

 この声の主は〝そこ〟にいる。

 そんな予感がしたのだ。

 そしてその予感は当たり、洸太郎の目の前にあった牢獄から声はしていた。

 「――――――――――誰だ?」

 ゆっくりと洸太郎が近付き声を掛ける。

 石造りの空間は洸太郎が歩む度に灯が付いていく。

 それを知っていたのか、彼の様子は一切の物怖じせず強気だった。

 「ほう、記憶が無くても態度は変わらんか……いや、少しでも恐怖心がありゃ貴様を殺していたんだがなぁ」

 牢獄の中は見えない。

 しかし強烈な殺気が洸太郎に襲い掛かる。

 それは先ほど対峙した小燐の物とは比べ物にならないほどだった。

 「――――――――――」

 洸太郎は何も言わない。

 だが彼の本能が告げている。

 と。

 そしてそれはどうやら当たっていたようだった。

 「カカッ! あんなちっぽけな道士の呪詛なんぞ簡単に食らった挙句いつまでも気を失うほど腑抜けとったから好機とは思ったんだが…………存外しぶとい奴だ。まぁそれもいつまで続くかのォ?」

 カタカタと空間全体が揺れている。

 それは目の前の牢獄だけでなく、幾つもある牢獄全体から響いていた。

 そんな強烈すぎる殺気を受けてなお洸太郎は意に返さない。

 ただ一言、

 「

 たったその一言に震えていた空間は静まり返った。

 「カカッ、いいねぇ。やはり百鬼洸太郎という餓鬼はそうでなくっちゃいけねェなァ」

 声の主は構わず喋る続ける。

 どうやらこの場所の主か何かなのだろうかと当たりを付けた洸太郎は更に牢獄に近付く。

 「ここは一体―――――それよりも俺は一体何なんだ? お前らは一体?」

 しかしその質問に声の主は応えない。

 徐々にだが意識が覚醒する、そう思った洸太郎は更に近付く。

 「答えろよ!! 一体、俺に何があったんだ!?」

 だが、

 牢獄に一歩近づいた時、鉄格子の隙間から黒鉄の腕が洸太郎の首を掴む。

 「いちいち五月蠅いぞ、餓鬼ィ」

 洸太郎の首を掴む手に力が籠る。

 いつでも、簡単に首をへし折れると言わんばかりの力だった。

 「いいか? 。それを努々忘れねェこったな」

 力が緩む。

 思わず崩れこんだ洸太郎は咳き込みながら目の前にある牢獄を睨みつける。

 「何があった? 。その方が面白ェからな」

 愉快に、痛快に嗤うとその声は遠ざかっていく。

 「どうやら意識が戻り掛けているようだなァ。この空間もそろそろ消えるだろうよォ」

 「ちょっと待て!! まだ俺の質問に答えて―――――」

 その続きを声の主は遮った。

 「それを知りたきゃァ今の貴様の状況を理解するこったなァ。それまでは真実ってヤツは迷宮入りだァ」

 意識が覚醒する。

 そう感じた洸太郎は最後に牢獄に向かって叫んだ。

 「最後に―――――テメェの名前教えろ。呼び方が分かんなきゃ不便だ」

 しばらく無言が続き、ポツリと牢獄から声がした。



 「オレ様は『悪戯童子あくどうじ』だ。まぁまた会おうや―――――今度会った時は必ずお前を殺してやるよォ」



 その言葉を最後に、洸太郎の意識は覚醒する。

 疑問や懸念が残る中、何故か先ほどの空間を懐かしく思っていた。

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