第5話
気が付くと洸太郎は廊下で横たわっていた。
頭が割れそうに痛い。
「ってぇ―――――確か俺は逃げてて…………それからどうしたんだっけ?」
記憶が混濁している。
ゆっくりと辿って行くと、
「ッッッ!? そうだ! 蒼樹は!?」
慌てて周囲を見渡すも唯一の連絡手段である携帯電話が見当たらなかった。
盗られたのか壊されたのか、そう思った洸太郎は自分の身体を調べる。
殴られた箇所以外は外傷は無く、自分が〝鬼〟に成ったようにも見えなかった。
「どう言うことだ? 確かに俺は逃げてた途中で捕まったハズじゃ…………」
だがここで色々と考えていても埒が明かない。
洸太郎はそっと廊下を見渡す。
だが、
「鬼が―――――いない?」
鬼だけでなく、阿鼻叫喚の地獄と化していた校舎が静まり返っていた。
「一体何があったんだよ」
すると微かにだが、洸太郎の耳に聞き覚えのある音が聞こえる。
何処か潜んでいるかもしれない〝鬼〟を刺激しないようにそっと音源へと近付いていく。
とある教室に入ると洸太郎の時と同じように机の上に一台の携帯電話が置かれていた。
恐る恐るそっと手を伸ばす。
手に取ってみると先ほどまで洸太郎が使用していた物と全く同じだった。
通話のボタンを押し耳に当てる。
「―――――もしもし?」
少し前の洸太郎なら何の躊躇いもなく電話に出たのだろうが今となってはその時の自分が懐かしいとさえ思ってしまう。
それほど密度の濃い時間だったと思えるのだ。
「もしもし? ―――――蒼樹、なのか?」
しばらく間が空くと聞こえてきたのは自分の知らない声だった。
『良かった無事で』
凛としが透き通ったような声。
先ほど対話した蒼樹が元気な少女のイメージなら、この声の主はどこか大人びた感じの雰囲気だった。
「誰だアンタは?」
『私? 私は
怪しさはあるが今はどのみち手詰まりなのだ。
ここで渋っても意味は無いだろう。
なので洸太郎は自分の名を名乗った。
「百鬼だ。百鬼洸太郎」
すると輝夜は洸太郎の名前を呟きながらフムフムと勝手に納得している。
『百鬼くん? 百鬼さん? んー、どうもしっくりと来ないわね…………コタローくん―――――うん、その呼び方でいいかしら?』
別に好きに呼べばいいと洸太郎は思ったが今は名前の議論をしている場合ではない。
その旨を伝えると何故か輝夜は少し落ち込んでいた。
『そう、それは残念ね。ではコタローくん、今貴方が置かれている状況はどれだけ理解できてるかしら?』
「それって―――――」
このイカれた『鬼ごっこ』の事を言っているのだろうか?
そう思った洸太郎は今自分に起きている出来事や自分の置かれている状況、そして白鐘蒼樹との事と話す事にした。
今は少しでも情報が欲しい。
大体の話を聞き終えた輝夜は何やら独り言をぶつぶつと言いながら少し考えた後、ポツポツと話し始めた。
『まず私が知っている事を順を追って話すことにするわ。一つ目、貴方達の記憶喪失は近い内いつか必ず戻るから安心して欲しいの今は言ってる意味が分からなくてもすぐに分かるわ。次に二つ目、その〝鬼〟と言うのは恐らく『
聞き慣れない単語が出てきたので洸太郎は聞き返す。
『僵屍は東洋に伝わる硬直した死体が動き回る妖怪みたいなものね。西洋風に言えばゾンビと言ったものかしら? それを使って鬼ごっことはその世界を創り上げたドミネーターは悪趣味ね』
「ドミ…………何だって?」
再び聞き慣れない単語が出てきた。
情報が多すぎるこの状況に洸太郎の頭は爆発寸前だ。
『そうね…‥‥今はその話は置いておきましょう。今後の話なんだけど―――――取り合えずもう少しその場から動かないでもらえるかしら? 助けに行きたいのだけど少し手間取ってるの』
助け? つまりこの紅月輝夜という女性は今この場にはいないという事なのだろうか?
「輝夜―――――だっけ? 今お前はここにいないのか? ならこの電話はどうやって?」
『詳しくは無事そこから脱出する事が出来た時に伝えるわ。今その場所の生体反応は貴方を含めてもう三つしかないから』
洸太郎を含めて三つ―――――つまり三人しかこの校舎の中にいないという事だ。
一つは百鬼洸太郎。
ならば、もう二つの反応とは一体?
するとその考えが伝わったのか輝夜は淡々とその疑問に答えてくれた。
『一つは貴方と同じ生存者。ならもう一つは―――――』
背筋が凍り付く。
先ほど輝夜の言っていた『僵屍』が動く死体ならば生存者などと言い方はしないだろう。
洸太郎は教室を飛び出した。
誰かが死ぬ。
その事実は何故か洸太郎にとって重く動かない理由にはならないと判断したのだ。
「輝夜! 助けに来れるまでどのくらいだ!?」
『そうね、大体三十分―――――いえ二十分もあれば』
二十分。
その時間がタイムリミットであり、生き残っているのがもしかしたら自分の知っている人かもしれないと思ってしまうと動かずにはいられなかった。
声しか聞いたことが無く、
どんな人物かも分からない。
だが、
「(知らないふりをして見殺しに出来るほど人間は出来ちゃいねぇッッッ!!)」
いつまでも夕日が沈まない校舎の廊下を洸太郎は疾走する。
廊下にはパニックホラー映画で見たような光景が広がっており、洸太郎の存在に気付いた僵屍達が襲い掛かってくる。
「悪いな、お前らと遊んでる暇は―――――ねぇんだ!!」
最早そこを表現するなら『地獄』なのだろう。
その中を洸太郎はなんの躊躇いもなく突き進む。
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