第2話
――百鬼洸太郎の場合――
「あ?」
不思議な事に彼にはここが何処か知らない場所だという事に気付いた。
理由を聞かれると答え辛いが、何となく〝勘〟のようなモノが働いたと表現する事しか出来なかった。
だからなのか、
教室の机の上にある一台の携帯電話がこの場所に不釣り合いな形で置かれている事に気付いたのは。
おもむろに手を伸ばし携帯電話を操作する。
そこには色々と番号が表示されていたが何をどうすればいいか分からなかった。
何処の誰に繋がるのか、冷静に考えられる自分に少し驚いていた。
「俺は―――――百鬼洸太郎で、えっと…………あれ?」
自分の名前以外憶えていないことに気付いた。
手掛かりと言えば唯一あるこの携帯電話の一台のみ。
適当な番号に電話を掛けてみる。
数回コール音が鳴っているので何処かには繋がっているようだが、色々な番号に掛けるも誰も出ることは無かった。
「おっかしいな」
そして、何度目かに掛けた番号でようやく誰かに繋がった。
『―――――もしもし?』
女性、と言うよりは声からして少女、もしくは自分と歳が変わらない女性の声が聞こえた。
どう返すべきか悩んでいると思わず、
「もしもし? えっと…………アンタ誰?」
自分でも愛想が無いな、と思っていたら案の定どこかムッとしたような口調で、
『えっと、このケータイを拾った者です。このケータイを落とした人? 同じクラスだから多分知ってると思うんだけど、一体誰なの?』
これは対応に失敗したな、と思ったがせっかくの情報源だ。
今の機会を失うわけにはいかない。
「あー、そりゃ悪い事をしたな。けどアンタの拾ったケータイは俺のじゃねーぞ」
そんなやり取りを交わした後、色々と分かった事があった。
電話の相手―――――白鐘蒼樹という少女も自分と同じで名前以外の記憶が無かった事。
つまり何も分からない事が分かったという事だった。
一体何があったのか?
そんな事を考えていると、
突然学校などでよく聞くアナウンス音が教室に、いや学校全体に響いた。
『はいはーい! 皆さんちゅーもーく!! 今から皆さんで〝鬼ごっこ〟を開始しまーす!』
とふざけた声でふざけた内容が響いた。
「(鬼ごっこ、だ?)」
ズキン、と洸太郎の頭の奥が痛み出す。
何かが引っ掛かる。
そんな事を思っていた。
電話の向こうでは蒼樹が何か言っていたがそれどころではなかった。
すると洸太郎の近くで悲鳴が聞こえた。
慌てて教室を出ると一人の女子生徒が尻餅を着いて何かに怯えていた。
洸太郎は持っていた携帯電話を置くとそのまま女子生徒に近付く。
「どうした!?」
声を掛けるも女子生徒はガタガタと小刻みに震えながらゆっくりと指を教室の方へと指した。
それに釣られて洸太郎もそちらへ目を向ける。
そこには、
他の女子生徒が男子生徒だったモノを玩具のようにして遊ぶ姿だった。
「は、―――――?」
男子生徒だったモノ、それは元は自分達と似た境遇だったのだろう。
しかしその男子生徒だったモノは人の形を成しておらず手が、足が、頭が、全てがバラバラにされていた。
言うなればそれはプラモデルを組み立てるかのような、そんな光景が浮かぶ。
「うっ、ぷ」
吐き気が込み上げてくる。
隣で腰を抜かしていた少女はじょろじょろと失禁までしていた。
それほど衝撃的な光景だったのだろう。
「お、おい!」
洸太郎が駆け寄ろうとした時、更に変化があった。
五体がバラバラになっていたはずの男子生徒が起き上がったのだ。
千切れたはずの手足が浮き上がり、首も見えない糸で操られているかのようにふわふわと風船のように浮遊している姿はまるで
くるり、と首だけがこちらへ振り向く。
そして、
「―――――ッッッ!?」
思わず腰を抜かす少女の手を引こうとするが彼女の小水で滑り洸太郎は体勢を崩してしまい―――――。
少女と目が合った。
その瞳は虚ろで何を考えていたか分からない。
だが確かに少女はこう訴えていた。
―――――助けて、と。
しかしそれは叶わなかった。
バラバラになった男子生徒は勢いのまま女子生徒に突進して来たのだ。
ぐしゃり、と鈍い音と共に血飛沫が舞い洸太郎にも降りかかった。
駄目だ、そう洸太郎は思った。
もうこの少女は助からないと思い後退った。
だが、
今度はバラバラになった男子生徒が糸が切れた人形のように崩れると代わりに先ほどの女子生徒が起き上がり洸太郎へと振り返った。
その表情は全く生気が感じられずB級映画の化物のようだった。
「(おいおいッ、まさかあの放送の〝鬼ごっこ〟って)」
洸太郎の疑問が確信に変わる放送が流れる。
『〝ルール〟は簡単でーす! 今から私がランダムで鬼を選びまーす。そして、皆は憐れな子羊ちゃんで、捕まえた人からぶち殺していきまーす! じゃあよーいスタートっ』
「冗談じゃ」
だが、目の前にいる女子生徒だったモノが洸太郎へと襲い掛かる。
「ねぇぞッッッ!!」
襲い掛かってきたのをギリギリで避けると自分がいた教室へと飛び込み繋がったままの携帯を乱暴に掴む。
そして全力で叫んだ。
「逃げろ! さっきの放送はマジだぞ!!」
その背後では洸太郎を追って先ほどの女子生徒が扉を蹴破って侵入する。
「蒼樹! そのケータイは持っとけ!! これで連絡取り合うぞ!! だから、今は逃げろォォォォォォォッッッ!!」
思い切り叫ぶと洸太郎は目の前にいる〝鬼〟に向き合った。
今、命懸けの〝鬼ごっこ〟が始まろうとしている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます