エターナルファンタジー《Eternal Fantasy》~世界樹と消滅する世界~

がじろー

第1話




  序章『日常の中の〝非〟日常――白鐘蒼樹――』



 ふと気付くと、白鐘蒼樹しろかねそうじゅは夕暮れの教室に一人でいた。

 直前まで授業を受けていた、と記憶しているも何故か頭がふわふわとしてるのは実は寝ていたのだろうかと思ってしまうほどに記憶は曖昧だった。

 「やっば、寝ちゃってたかも―――――ってか誰か起こしてくれてもいいと思うんだけどっ」

 一人でツッコミを入れるも誰も聞いていないと少し恥ずかしさが勝ってしまう。

 「言わなきゃよかった…………ってか今何時?」

 時計を見ようと腕を見るがそこには何も着けていない。

 そう言えば校則で腕時計などの装飾品は禁止されていたのを思い出す。

 疲れていたのか本当に大丈夫なのかと自分に問いただす。



 ざざっ、と景色に雑音ノイズが入った。



 一瞬で分からなかったが何か大事な事を忘れている気がする、とその時はそんな事を思っていると、

 突然、何処からか電話の音が鳴り響いた。

 「ひぃっ!?」

 間の抜けた声を上げてしまうが、今は教室には誰もいない。

 自分のポケットを弄るが携帯電話を持っていなかったので自分ではないのだろう。

 周囲を見回すと教室の真ん中の席、その机の上にポツンと携帯電話が一台置かれていた。

 「忘れ、物かな?」

 自然とその携帯電話に手を伸ばす。

 自分が知っている形とは少し違うが〝それ〟が携帯電話だと何故か分かってしまった。

 そして通話ボタンを押しそのまま電話に出てみる。

 「―――――もしもし?」

 電話の向こうからの返事はない。

 もしかしたら落とし主が電話を掛けてきたと思ったのだが違ったのだろうか、そう思った時だった。

 『もしもし? えっと…………アンタ誰?』

 といきなり無愛想な男の声が聞こえてきた。

 恐らくこの携帯電話の持ち主なのだろうが、少しムッとした蒼樹は同じようにぶっきらぼうに答える。

 「えっと、このケータイを拾った者です。このケータイ落とした人? 同じクラスだから多分知ってると思うんだけど、一体誰なの?」

 ほぼ喧嘩腰だったがそれほどこの声の主は何故かウマが合わない気がしてならなかった。

 『あー、そりゃ悪い事したな。

 蒼樹の頭に疑問符が浮かぶ。

 なら一体これは誰のなのだろう。

 そんな事を思っていると、

 『ところで、もう一回聞くけど―――――アンタ誰?』

 「アンタアンタって、わたしには白鐘蒼樹って名前があるんだけど!?」

 すると電話の向こう側の男は少し間を置き、

 『そっか、なら蒼樹。?』

 などと不思議な事を聞いて来た。

 「名前以外って―――――」

 『何でもいい。出身地、家族構成、得意科目や好きな食べ物でも何でも―――――覚えている事は教えて欲しいんだが』

 自分の名前は白鐘蒼樹。

 家族―――――得意科目―――――出身地―――――食べ物―――――。

 「あ、れ?」

 何も思い出せない。

 それどころか今日受けた授業内容やどうやって通学したかも思い出せないでいた。

 「わ、たし―――――は?」

 『

 男の声は先ほどとは違い落ち着いていた。

 『。俺も気付けば教室に居て目の前のケータイに電話したら蒼樹に繋がった』

 訳が分からない。

 一体どういう事なのだろうか、そう思っていた時だった。



 ポンポンポンポーン――――――――――。



 と放送が流れる合図がスピーカーから聞こえてきた。

 思わずそちらへ目を向ける。

 電話の向こうからも同じ音が聞こえてきたので向こうも同じ状況なのだろう。

 スピーカーに耳を傾ける。

 聞こえてきたのはどこか無邪気で可愛らしい声だった。



 『はいはーい! 皆さんちゅーもーく!! 今から皆さんで〝鬼ごっこ〟を開始しまーす!』



 蒼樹は言葉を失い、そしてどっと気が抜けた。

 「(何よ、驚かせないでよ……ってかこんな状況で鬼ごっこって)」

 思わず腰を落とす。

 携帯電話を離さなかっただけまだそこまで気は抜いていなかったのだろう。

 「何か変な放送だったね」

 電話の向こう側にいる男に声を掛ける。

 しかし返事がなかった。

 「あれ? もしもーし」

 何度か聞き返すも男からの返事はなかった。

 そして、よく聞き返すと向こう側から何かが聞こえてくる。

 耳をすましていると、



 『〝ルール〟は簡単でーす! 今から私がランダムで鬼で

を選びまーす。そして、皆は憐れな子羊ちゃんで、捕まえた人からぶち殺していきまーす! じゃあよーいスタートっ』



 可愛らしい掛け声とは裏腹に電話から、そして蒼樹の近くから悲鳴が上がっていく。

 そして、

 混乱して動けなかった蒼樹の耳元で大きな声で男が叫ぶ。

 『逃げろ! さっきの放送はマジだぞ!!』

 その叫び声と同時に何か爆発したかのような轟音が鳴り響いた。

 『蒼樹! そのケータイは持っとけ!! これで連絡取り合うぞ!! だから、今は逃げろォォォォォォォッッッ!!』

 男の叫びと同時に蒼樹も教室から飛び出した。

 今は当てもなくただ逃げ回る事だけを考えていた。

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