信じた者と疑った者
部屋一面を水蒸気が埋め尽くし、僕たちの視界を奪う。
湿度は最大まで上がり飽和状態になり、身体全体が不快な汗を流す。
これで、サム達から僕らの様子は探れないはずだ
「ッシュッシュッシュッシュ ッシュッシュッシュ トンッシュトンッシュッシュ トントン トンッシュ トンッシュ 」
紫炎が僕の肩をモールス信号で叩く。
位置を知られないようにするにはいい方法だ。
翻訳すると「これでいい?」と確認を取っているようだ。
僕は紫炎の方に手を伸ばす。
手に「むにゅ」っという柔らかい触感を感じた。
「ッシュトンッシュッシュッシュ トンッシュッシュトン トントンッシュトン 」
紫炎は僕に「エッチ」と肩を叩き伝えてきた。
それを無視して、紫炎の肩を叩き今後の指示を出す。
そして、ズボンで手汗を拭き、僕は床とプールの様子を探った。
その瞬間だった。
「よし、反撃だ」
背後からサムの声が聞こえた。
僕は驚いて振り向いたが、何も起きなかった。
「漆喰だ」
「ばっちり、もう出来てるよ」
「わ、わかった」
背筋が凍る思いだった。
四方八方、あちらこちらからサムの声が聞こえる。
言葉は、僕たちの言葉の真似だろう。
どんな方法で、そんなことをしているのだろうか……
足元に糸が触れて、僕と紫炎は罠で縛られてしまった。
縄の一つが天井を叩いて穴をあけ、霧が晴れる。
周りを見ると、糸でパンパンに張られた革の真ん中に糸が付けられたものが、あちらこちらにあった。
「糸電話か……」
女王が僕の所まで歩いてきた。
イヤリングは外し、台座に乗せられているみたいだ。
「閭ス蜉帙r逋コ蜍輔&縺帙m」
女王が僕に向かって何か言う。
しかし、何を言っているのかわからない。
その様子を見て、女王はサムに耳打ちをする。
おそらく、そちらも同じ言語を使用しているのだろう。
「ぐはぁ」
隣で紫炎が苦しんでいる。
これは僕に対しての脅しだ。
「発動」
歪んだ空気が元に戻る感覚がした。
「これで満足か? 」
僕は女王をにらみつける。
「マコトちゃん……」
紫炎は弱った表情で僕を見ていた。
「攻撃を避けるために水蒸気を発生させたみたいですが、そんな事をしたら私がどんな行動をするかわからないじゃないですか…… 実に好都合です。 私の魔道具は、あなたの魔道具と融合を開始しています。 すこし時間はかかるみたいですが、もうすぐ私の理想の世界が出来るはずです」
女王は僕を見てニヤリと笑う。
女王のイヤリングは、緑色の光をゆっくりと点滅させていた。
「女王様、服が濡れてますよ。 サムも」
僕はつぶやいた。
「なんだ? 風邪の心配か? 」
サムが言う。
サムが笑う。
「水蒸気は視界を塞ぐためだけじゃないって事だ」
「何が言いたい? 」
「昨日までの仲間にこんな方法を使うのは嫌だったが、急ぎだ。 紫炎、頼む」
紫炎は一度うつむいた後に、僕に向かって頷く。
「上を向いてみろよ」
僕の言葉でサムが上を向くと、上空には、革で結ばれたクリノリンが浮いていた。
その瞬間、クリノリンからサムへと白と銀が混ざった粉が降り注いだ。
「何のつもりだ……? 」
サムが白くなった両手を見た途端……
「熱いぃ!!!!!」
サムが熱がる。
ダメージを受けた為か、縄がゆるみ僕たちは解放された。
「まぁ、過去にやった手段だが上手くいったな」
僕はつぶやいた。
「お前らの一番のミスは漆喰だ。 漆喰は確かに火を防ぐのに良い素材だが、加熱すると580度で水蒸気を出して、酸化カルシウムに戻る。 酸化カルシウムは水と反応して熱を発する。 水蒸気を出したのは目隠しじゃない、お前の身体を濡らす為だ」
「クッソぉ」
サムが苦しがっていた。
「そして、宮殿に入る前にノヴァから貰ったのはアルミ粉。 これは水と酸化カルシウムの反応をより活性化させる。 お前の負けだ」
紫炎がサムから魔道具を奪い、二人に杖を向けて部屋から追い出そうとした。
「最後に一つ言わせてくれ」
僕は女王に向けて言った。
「心が読める読めない関係なく、人間は絶対に分かり合う事なんか出来ない。 だから分かり合う努力をするんだ」
女王達は部屋の外に追いやられた。
「二人は無力化したが、あのイヤリングと浮遊島の融合を止めないとな」
イヤリングが放つ緑色の光の点滅はさっきより早くなっていた。
おそらく、進んでいる証拠だろう……
「破壊しよう……」
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