第三章 会いたかった
あおいと会った日の夜、あっくんから電話があった。なぜか、胸の高鳴りが収まらなかった。
「久しぶり。あおいから電話があったんだ。みやちゃんに会ったって、うれしそうだった」
「偶然、ううん会えたのは奇跡かも。二人で泣いちゃった」
「そうだね、奇跡かも。実は、あおいのことで、みやちゃんに話しておきたいことがあるんだ」
あっくんは会って話したいと言った。それで翌日仕事が終わってから、カフェで待ち合わせる約束をしたが、急に仕事が入り、待ち合わせの時間に遅れてしまった。
「お待たせ。遅れてごめんなさい。連絡できなくて」
「大丈夫。絶対来ると信じていたから。相変わらず、全力投球で仕事をしてるね」
「わかる?」
「だって、会ったときから変わらないから、その姿勢。何でも一生懸命」
「でも、遅れたことは謝ります。ごめんなさい」
「走ってきたんだろ。とりあえず、座ったら」
「ありがとう」
走ってきたから胸が高鳴るのか、久しぶりに会うから胸が高鳴るのか、わからなくなっていた。メニューに目を通すと、顔を上げた。あっくんの優しいまなざしが私を包み込んでいく。
「少しは、落ち着いたかな。注文は決まってる?」
「決まってる」
私が呼び出し用のボタンを押すと、店員さんが来てくれた。私は紅茶を、あっくんはコーヒーを頼んだ。
「あっくん、話しておきたいことって」
「あおいがおばあちゃん子だったのは、みやちゃんも知ってるよね」
「知ってる。おばあちゃんの話は、たくさん聞いたから」
あおいは、両親が共働きで、おばあちゃんが保育園の送り迎えをしてくれて、夕食もおばあちゃんのおいしい手料理だったとうれしそうに話していた。
「おばあちゃん、コロナで亡くなったんだよ」
それまで私の周りには、コロナにかかった人さえいなかった。しばらく、言葉が出なかった。
「亡くなった? いつ?」
「大学を卒業した一昨年の四月に」
「認知症で介護施設にいるから、あおいは毎週会いに行ってたよね」
「その介護施設で、コロナの感染者が出て、おばあちゃんも感染したそうだよ。入院してから二週間で亡くなったらしい。一番苦しいときに、そばにいてあげたかった、手をにぎってあげたかったって、あおいが泣きながら話してくれた」
「二月から面会禁止になって、会えないからつらそうだった。会えないまま、亡くなったなんて……」と言いながら涙がこみ上げて抑えられなかった。
「どんなに私やあっくんに会いたかったか、でも会えなかった。もっと、電話やメールをすれば良かった。話だけでも、聞いてあげれば……」
あおいの気持ちを思うと、やるせない思いが涙になった。
「おれも同じことを思ってごめんて言ったら、誰も悪くないから謝らないでって」
「あおいらしいな。だから、この前会ったときに会えてうれしいって、涙声だったんだ。やっとわかった」
「こうして、会えることが普通じゃないんだよね。コロナで、できなくなったことがたくさんあっただろ。コンサートやオリンピックの観戦、旅行や外食……」
二人でため息をついた。
「とりあえず、できることを始めようか」
「あおいを元気づけること?」
「今は、それが一番やりたいかな」
「じゃあ、みんなでテーマパークに行く?」
「最近オープンしたテーマパークがいいかな。あおいはアニメが大好きだから、きっと元気になるよ」
「私、お弁当を持っていくね。隣の公園で、ピクニック。久しぶり」
「あのテーマパークのチケットは抽選だから、当たるといいな」
「誰が当たるか、楽しみ。あおいには、この前連絡するって言ったから、私が話しておく」
「あのテーマパーク、行ってみたかったんだよね。本物に会えるね。わくわくする」
「あっくん、変わらないね」
少年のような瞳を輝かせて話をしているあっくんを見ながら、大学時代に戻った気がした。神様、チケット、当たりますように。
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