第9話 エルフの村

 扉を押してみると、びくともしなかった。引いてみても変わらない。

 いびつな形をしているので、開けづらいのかと思ったが、私が何度かその行動を繰り返していると少女は言った。

「引き戸なの」

「あ、そ、そうなんだ」

 恥ずかしい。

 扉の形からして押すか引くかしか頭になかった。

 私が扉を横に引くと少女の言った通り、すんなりと動いた。ようやく扉を開くことができた。

 その瞬間、少し強い風が部屋に吹き込んできた。

 私は顔をそむけ、風が止んでから改めて扉の外に視線を向けると、広い青空が視界に飛び込んできた。青く澄んだ空は、私が溺れていた時に見たものと同じだったが、空までの距離が違った。こっちの方がより近くに感じられた。

 それは間違いではなく、歩を進めると、空だけでなく、そびえたつ山々や、どこまで続いてるのかわからない深い森が一望できた。

 私は足がすくんでしまう。自分がいる場所が高所だったことを考えもしなかった。咄嗟とっさに側にある手摺てすりに摑まるが、それはつたでできた到底頑丈とは言えない造りのものだった。蔦は頭上からも垂れてきていて、私がその蔦を辿り、見上げたことで、自分がいるところがはっきりとわかった。

 とても大きな樹だった。大樹というには言葉が足りない。まるで東京スカイツリーのように天高く、ピラミッドのように大きく、エアーズロックのように力強い。

 一言で表すのが難しい。圧倒的な大きさ。

 そんな大樹の中腹に私は立っていた。

 呆然とした私に、部屋から出てきた少女が涼しい口調で言った。

「ここはエルフの村。あなたはこの村を訪れた初めての外界の存在。私はリィネア。体調に問題なければ村を案内するわ」

 当然そんな台詞が私の頭に入ってくることはなかった。

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