第10話 大樹

 スーツに着替えた私は、大樹の外側にある螺旋らせん階段を下っていく。その途中で内部が見えたり、大樹の内部を通ったりした。中は意外にも空洞になっていて、光が所々差し込んでいた。

 内部の中央には大きなまゆのような塊があり、そこに向かうためのつるでできた橋が何本もかけられていた。

 遠目からだとはっきりとはわからないが、恐らく部屋か何かなのだろう。塊は他にもあるし、私がいた部屋も同じような形をしているのが見えた。

 私は地方から上京したてのお上りさんのごとく、きょろきょろとせわしなく視線を動かし続けた。前を歩くリィネアにぶつからないように気をつけたが、アスレチックのような内部に好奇心が抑えられず、彼女を質問攻めにしてしまう衝動をぐっとこらえた。さすがに子供ではないので、ここは我慢しよう。

 それからしばらく歩き続け、ようやく地に足がついたところで、リィネアは振り返った。長く綺麗な金髪が揺れる。

「この大樹は私たちエルフの加護で創り上げたものなの」

「さっきの、椅子と同じ……」

 私は大樹を見上げた。

 小さな椅子からこれほど巨大な大樹まで創り上げる。

 繊細であり、壮大であり、圧倒的な力。それが加護。

 今の私にはそれぐらいの感想しかでてこない。誰かに説明できるほどまだ理解が追いつかない。追いつけるのか怪しいところだ。

 それでも動揺をあらわにすることはなかった。日本にだってたくさんの大きな建造物がある。

「この大樹がここにあるのって、何か意味があるんですか?」

「ハクトもさっき見たと思う」

 不意に名前を呼ばれて、ドキッとする。

 今どきの中学生男子ですら見せない動揺をしてしまう。

 もうそんな年でもないのに。

 私は内心を悟られないように、すぐに応じた。

「み、見た? 景色のことですか?」

「ええ」

 自然あふれる一面の景色。というか、自然しかなかった。周りに住宅も車も、少なくとも人が暮らしている痕跡は、上から見た限りではなかった。

 あの景色に何があるのか?

 私がそう思案していると、リィネアが続けた。

「私たちには森を守る役目がある」

 その台詞ですぐに合点がいく。

「ここからだとその森が全体的に見える、ということか。そしてこの大樹は展望台の役割がある」

 リィネアは満足そうに頷いた。

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