第8話 扉の先は?

 床の木材の一部がまるでゴムのように天井に向かって伸びていく。と思ったら今度は縮んでいく。さらに複雑な枝葉のように絡み合い、また伸びたり縮んだりを繰り返していく。

 私はその様子を唖然あぜんとして眺めていた。

 きっと大きな口を開けていたに違いない。

 そんな私を歯牙しがにもかけず、彼女はその材木を生き物のようにあやつりながら、やがてかざしていた手を下ろした。

 動きを止めた後に、床に残ったのは真新しい椅子だった。かなり古風でオシャレな椅子。大きな背もたれにひじ掛けも用意されていた。

 私は言葉が出てこなかった。目の前で起きた数秒の出来事が余りにも現実離れしている。手品でした、とネタ晴らしされても、手品であることを信じる方が難しい。

 驚きはもちろんだが、同時に不安が頭をもたげた。

「あの、ここは日本ですよね?」

「そこがあなたの生まれたところなの?」

「日本って聞いたことないですか?」

「ええ。けど、私たちは外の世界のことをほとんど知らない」

「知らない? それはどういう意味ですか?」

 私が首を傾げると、彼女は部屋の扉の方に視線を向けた。

「外に出ればわかるわ」

 その一言が私の焦りを加速させた。

 部屋に窓はない。この空間の外がどうなっているのかわからない。

 なんだか知りたくない。知らない方が気持ちは穏やかでいられる気がした。

 しかし、私の目の前にいる彼女はそれ以上口を開こうとはしない。見た方が説明する手間が省けるということだろう。

 彼女を待たせている手前、このままじっとしているわけにもいかなかった。

 私は意を決してベッドから離れ、彼女を追い越して扉の方へ歩を進めた。

 扉は木製でこれまたいびつな形をしている。私は扉の取っ手を握る。てのひらが汗ばむのがわかる。緊張と焦りで息が苦しくなった。

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