第5話 丸い耳と長い耳

 そう思うと、不意に彼女の顔に目が止まった。

 整った目鼻立ちに、長く綺麗な金髪が顔の横に流れ落ちている。それだけでも十分目を見張ってしまうが、私が気になったのは髪の横から生えるように出ている細く長い耳だ。

 神話やファンタジーの世界ではよく聞くエルフという種族が頭に浮かんだ。

 瞳の色もあおく、顔立ちもくっきりとしていて、日本人離れしているで、私は余計にそう感じられた。

 ただ、それで彼女がエルフと信じるほど純粋な心は持っていない。今時はそういった衣装をまとい、カラーコンタクトやかつらをつけて、キャラクターなどになりきって楽しむ人たちもいる。この場所も撮影するために部屋だと考えれば合点がいく。確かにこの部屋は彼女の姿と映えるし、絵になるだろう。

 特に壁に手を当てて、木々に視線を向けてたたずむ姿は、なんていうか、木々と対話している森の守護者みたいで、よりエルフっぽく感じられる。勝手な妄想だが。

 私は疑問を口にせず、考えを纏めて自己完結しようとしていると、先に彼女の方が口を開いた。

「あなたのその耳」

「耳?」

「どうして丸いの?」

 そんな質問をされたのは人生で初めてで面喰めんくらってしまった。

「えっ、いやいや君の方こそ、その長く尖った耳って、どうやってセットしてるんだ? すごくよく出来てるけど」

「セット? 言ってる意味がよくわからない。生まれた時からこういう形」

「いや、それは私も同じ」

 お互い顔を見合わせたまま沈黙してしまう。

 すると、彼女は私の側まで来て、顔を近づけてくる。

「触ってみて」

 疑っている私に対して、そうした方がはっきりすると踏んだのだろう。

 私はベッドの上で正座して、少し戸惑いながら彼女の耳に手を伸ばした。両手で触る必要なんてなかったが、それぞれの耳に触れた。

「どう?」

「あ、はい。立派な耳をお持ちで」

 形こそ違うが、触り心地は自分のものと変わらない。敢えて違いを言うなら、ふちの辺りが少し硬いぐらいだ。それぐらいだ。セットでも何でもなくそういう耳だった。

 

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