第4話 金髪の少女

「気がついた?」

 そう声をかけられた。

 私は何も言えず呆然としていると、彼女が近づいてくる。

「大丈夫? 憶えてる?」

 小首をかしげる彼女の真似をする。

「憶えてる?」

 直前のことがあやふやになっていた。

「ええ。あなた。随分派手にやられていたから」

 そう言って、金髪の少女は私の頬を指差した。それに応じるように差された左の頬が痛んだ。と同時に気を失う前のことが頭に浮かんできた。

「あっ、そうだ」

「思い出した?」

 目の前で小首をかしげる金髪の少女は、溺れている私の手を取ってくれた子だと気づいた。それだけじゃなく、彼女たちの裸をばっちり見てしまったことも。

 見るつもりなんて毛頭なかった。溺れないようにするので精一杯で、周りの状況なんて掴めやしなかった。けれど、ここでいくら言い訳をしても、見てしまったことに違いはない。

「あの、俺、すいません。覗きとか、そんなつもりはなくて……」

「謝る必要はないわ。私もあなたのを見たからお互い様」

「へ?」

 金髪の少女は脇に抱えていた衣服をベッドの上に置いた。

 背広にネクタイ。ワイシャツにズボン。それは自分が着ていた仕事着――スーツ一式だった。

「濡れたままだと風邪を引くと思ったから」

 自分の姿を見ると、シャツと短いズボンを身につけていた。サイズは少し小さく窮屈で、全体的に簡素な作りをしていた。ほつれや粗が目立つし、ベージュの色味も濃淡があり統一されていない。そういうデザインと言われれば納得してしまうが、この部屋のこだわりから考えると、手抜き感が否めない。

 そんな私の考えを察したのか、金髪の少女は申し訳なさそうに目を閉じた。

「ごめんなさい。あなたの服と比べると大分見劣りしてしまうけど、それぐらいのものしかここにはないの」

「いやいやいやいやっ! そんなことないですよ!」

 私がかぶりを振り、その勢いに驚くように彼女は目をまたたかせた。

 と、彼女は他にも何かを持っていたようで見せてきた。

 てのひらに収まるほどの四角い黒の――スマホだった。

「この黒い鏡。これは何? 上着の内側に入っていたけど」

「えっ? スマホですけど?」

「ス、マホ?」

「ええ」

「って何?」

「えっ⁉」

 今時スマホを見たことない人なんているだろうか?

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