第3話 いい匂い

 本の匂いがする。とても好きな匂いだ。子供の頃によく行っていた本屋を思い出す。その本屋はビルの一階を使ったところにあり、広さはそこまで大きくはなかったが、駅に近いこともありいつも人でにぎわっていた。

 入り口を入ってすぐのところに新刊コーナーがあった。平積みされたたくさんの本の表紙を眺めるのが毎回楽しみだった。

 その本屋も高校生ぐらいになってからは訪れる機会が減り、たまの機会にふと思い立って行ってみると、残念なことに本屋は飲食店に代わっていた。

 その時の衝撃は過去にないぐらいのもので、当時の私からすれば、本屋は山や川。空や海。それらと同じ、変わらない風景だと思っていた。

 寂しさももちろんあった。私の町には本屋がそこしかなかったから、もう二度とあの匂いをかげないのだと大袈裟に思ってしまった。

 それに私はその時に気づいてしまった。

 変わってしまった風景がそこだけはないことに。

 駅周辺のビルはテナント募集の看板や、潰れて空っぽになった店がポツポツと見られた。人の賑わいも減っているように感じて、まるで知らない町にいるようだった。

 それからさらに時間が経ち、私が感じていたことが間違いではなかったことが証明された。

 私が目を開けると、そこは私が知る本屋とは違っていた。

 匂いは似ていたが、この匂いはどうやらこの部屋からするものだった。とてもモダンというか、前衛的というか、見る人にとってはオシャレな部屋なのだと思う。

 部屋は木造で整然とした日本の一般的な家屋とは違う。どこを見ても不揃いの材木が使われていて、床も壁もパズルを組み立てたような歪な形をしていた。中には原木が丸々使われいるところもあった。

 ただけして粗雑な造りではない。私がいるベッド。椅子や机。そのどれもが同じ木製のものが使われていて、この部屋と調和が取れている。

 天井の高さも入口と奥では違うし、ベッドから部屋の中央に向かって段差があり、くぼんだスペースにはくつろげるように長椅子がある。この部屋の設計に強いこだわりを感じた。

 私は部屋を探せば、他にもこだわり部分があるのではないかと、ベッドから部屋を見回していると、部屋の扉が開いた。

 中に入ってきたのは美しい金髪の少女だった。

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